上 下
46 / 183

Side - 15 - 18 - とし -

しおりを挟む
Side - 15 - 18 - とし -

俺の名前はトシロー、13歳、トシって呼んでくれ。

このコルトの街で宿屋を経営している親父と妹の3人暮らし、お袋は居ない、俺が10歳の時に死んじまった、・・・向かいにはタダーノ伯父さんがやってるレストランがあって、普段はこの辺で遊んでるな。

勉強は親父が家庭教師をつけてくれた、周りと上手くやれない俺の為にわざわざ大金を払って・・・、これにはすごく感謝してるんだ、いつか恩返しするからな、親父!。

俺は自分で言うのもなんだが、生意気なガキだ、憎まれ口を叩いて大人からは煙たがられ、同世代の子供たちは俺を遠巻きに見てるだけ、年下の奴には嫌味を言って泣かし、年上には喧嘩をふっかけた、関わると碌な事がない問題児、悪ガキとしてこの辺じゃぁ有名になった。

でもそれは年下の奴が俺の妹のお菓子を取り上げて泣かしてたからやめろって注意しただけだし、年上の奴らは街の建物に落書きをしてたから止めようとして喧嘩になった、いつの間にか俺が落書きしたってことになってたがな!、畜生!。

俺たちの一族はこの辺では少し肩身が狭い、実は俺の爺さんの世代まではこのコルトの街と隣街5つ合わせて独立した国だった、隣の街には王城の跡もある、国王は俺の爺さん、だから国が潰れてなかったら俺は王子様ってわけだ、やめてくれよ冗談じゃねぇ、鳥肌が立つぜ。

俺の親父に聞いた話だが、元の王国は国と言っていいか分かんねぇくらいの小さな国だったそうだ、主要な産業は漁業と農業、豊富な海産物をローゼリア王国に売って生活してた、やってる事は今も変わらないけどな。

ローゼリア王国がエテルナ大陸全土に同盟を呼びかけた時に最初に同盟に加わった国の一つだった、属国ともいうけど・・・、とは言っても独自の文化は尊重され主権はちゃんとあったし、差別もされてなかった、友好国、商売相手っていう関係だったらしい、国力は虫とドラゴンくらい差があったが国王同士が友人だったようだ。

その国がなんで潰れたかっていうと、うちの爺さんが兵を集めてローゼリアっていうかシェルダン領に侵攻した、親父が生まれてすぐの頃らしい、馬鹿なことをしたもんだよ、勝てるわけがないのにな。

実は爺さんは騙されたって話だ、誰かが爺さんに言ったんだと、「ローゼリアがこの国を攻め潰す、証拠もある、向こうの国王が兵を集めてる、この国の民は皆殺しになる」ってね、もちろん大嘘だ。

向こうの国王にもその誰かさんが言ったそうだ、あの辺境の属国が兵を集めてる・・・ってな。

いくらなんでも2つの国の王様が簡単に騙され過ぎだろ!、なんでも爺さんは旅の占い師だかに心酔してころっと騙されたようだが、ローゼリアは超大国だ、簡単には騙されないと思ったが・・・、親父が言うには向こうの大貴族に俺らを争わせたい勢力が居るらしいんだと、そいつらが巧妙に仕掛けたらしい。

これは親父の推測だが裏でギャラン大陸のデボネア帝国も絡んでるんじゃないかって言ってたな、あの帝国は確か2年くらい前にえらい事になったらしいが・・・。

そんな感じで兵は出したがそのままプチってやられた、当然だ、国力も違うし軍なんてローゼリアの武器そのまま輸入してるんだぜ、ほぼ無抵抗で降伏したんだと、だから幸いにも死傷者は数人だった、皆殺しでも文句言えないのにローゼリアは優し過ぎるだろ。

爺さんも捕まったが薬でも盛られてたのか言動がおかしかったらしい、だが騙されたってのは言ってたようだ、水晶の鑑定でも嘘じゃないって事が証明された、じゃぁ誰が騙したんだって事になったようだがそれは分からなかったらしいな。

だから俺や親父達は生きてる、爺さんはいくらなんでも無罪じゃ済まないから向こうの王様の温情で、・・・っていうか本人の強い希望で毒を煽って眠る様に死んだそうだ、普通なら一族郎党皆殺しになるところなのに、甘いと言うか・・・こんなこと言っちゃダメだな、情のある優しい王様で良かったぜ。

もちろん生き残った王族や貴族は平民落ち、・・・となる筈だったんだが、それじゃぁ路頭に迷う奴がたくさん出るって事で、また向こうの王様の温情で最低の地位だが爵位は残してくれた、つまり親父達や俺は一応末端だが貴族って事になるな、騙されて国を潰しちまったバカで哀れなお貴族様だ。

俺の爺さんはあんなでも民のことは思っていたらしくて、国民には慕われてた、だから俺達も元の国民になぶり殺される事はない、爺さんが暴君だったらって考えたらゾッとするぜ、親父達は殺され、俺は生まれてないだろうな。

貴族籍は残されたが親父やお袋、伯父貴は国を潰した当事者の子孫だ、偉そうにできる訳がない、親父が言うには目立つとまた担ぎ上げられて争いの火種になるから気をつけなきゃいけないらしい、だから貴族の生活は捨てて、爵位だけ持って平民に紛れて商売をやってる。

親父や伯父貴は人当たりが良くて人望があるから客商売もできてるが、俺は最低の悪ガキだ、客商売したところで客なんて来ねぇだろうよ、実家の宿は妹に任せて、・・・良くてハンターくらいにしかなれないだろうな。

さて、このコルトや俺の事情を長々と喋ったが、次は最近気になってるあのガキの事を話そう。

俺がタダーノ伯父さんの店で海を眺めてた時・・・俺はあの場所で海を眺めるのが好きなんだよ、友達いねぇからじゃねぇぞ!、・・・美人のお姉さんと足の悪いガキが町長に連れられてやって来た、伯父貴の料理をうまそうに食って、その日は帰ったが、俺は少し気になる事があった、あのガキの事だ。

オドオドと周りの様子を気にしながらひどく怯えてる、周りの客も珍しそうにっていうかチラチラ見てたな、女連中は「可哀想に・・・」とかほざいてやがる、その視線にガキは酷く怯えてた。

俺のお袋は元はそこそこ大きな貴族の令嬢だったが国が潰れて最下級の貴族令嬢になった人だ、それで親同士が仲良かった関係で親父と結婚した。

妹が生まれてしばらくした頃、街の外れに薬草を取りに行った時に魔獣に襲われて片足に酷い傷を、そして片腕を食われた、それからは杖と親父に補助してもらいながら生活してたんだが、自分の身体に傷がついた事や、周りの好奇の目が耐えられなくなったんだろう、次第に家に引き篭もる様になって精神を病んだ。

最後の方には、「私の事を可哀想な人っていう目で見られるのが辛い」「人の視線が怖い」「傷だらけの体が恥ずかしい」「同情されるのはもう嫌」って泣いてたのを覚えてる、それからしばらくして街外れの崖から飛び降りて死んじまった。

お袋の事が頭にあったから、そのガキ、・・・リゼルっていう男の子だ、そいつの事が気になった、お袋の姿と重なったんだ、自分の傷を気にして次第におかしくなっていったお袋と・・・。

その2人はいつもじゃないが昼飯を食いにタダーノ伯父さんの店にやってくる、俺が気にしてるのを伯父貴は知ってたようで、2人に紹介してくれた。

「こいつは俺の甥っ子だ、ここの向かいで宿屋をやってる弟の息子で、トシローってんだ、悪い奴じゃぁねぇんだが・・・生意気すぎるって言うか・・・性格・・・いや口が悪くて友達が居ねぇ、よかったら友達になってやってくれ、おい!、トシ!、挨拶しろ!」

いつも伯父貴は一言多い、友達がいねぇって事までいうことないじゃないか!。

「おっちゃん!、余計なこと言うなよ畜生!、・・・よっ!、俺はトシロー、トシって呼んでくれ!、13歳な!、お前いくつ!、俺より小っさいな、じゃぁ今日からお前は俺の子分だ!、遊んでやるよ!」

俺は普通こんな事を言う性格じゃない、どちらかと言うと周りの人間を拒絶するタイプだ、たぶん俺も周りの奴らと同じでこいつのことを哀れだと思ったのかもしれないが、・・・どうしても放っておけなかった。

だって隣にいるお姉さん、見るからに性格が大雑把そうだ、繊細そうなアイツの心のケアができそうにないじゃないか、・・・俺が話しかけると奴はいっそう怯えた、なんでだよ、・・・横に居たお姉さんが言うには極度の人見知りだそうだ。

「ぼ・・・僕・・・リゼル・・・です・・・よろしく・・・ひうっ・・・ふひっ」

ふひってなんだよ、面白いやつだな、男だけどなんだか俺の妹に似てるぜ。

「あははー、変なやつ!、お前足悪いのかよ!、そんなんじゃ走って遊べないじゃん!、傷もあるし!、何だよそのだっせぇ眼帯!、もしかしてお前の左目って見えないのか?、まぁ男だったら傷ある方がかっこいいかもな!」

俺はお袋が苦しんでるのを横で見てきたから、奴の傷について触れないでいる事は一番の悪手だと思った、だからそれを笑いに変えてやろうって思い、外見のことをからかってやった。

・・・あ、やべぇ泣きそうになってやがる!、くそっ、対応間違えたか!、傷つけちまったかな・・・、いてぇ!、後ろから伯父貴が張り倒して来やがった、何すんだよコラ!。

「お前、さっきシャルちゃんに控えめにって言われただろうが!、見ろ!、坊主が泣きそうになってるじゃねぇか!、そんなだから友達できねぇんだよ!」

ほぅ、美人のお姉さんはシャルちゃんって言うのか・・・、ってそんな事はどうでもいいか、早くなんとかしねぇとこいつ泣いちまう!。

「だってこいつまともに喋らないし、オドオドしてっから、からかってやろうと思っただけだよ!、男なんだからこれくらいで泣かないよな!」

ならスキンシップだ!、男同士の美しい友情ってやつ!、俺にはよく分かんねぇが、年上の奴らがこうやって肩を組んで道を楽しそうに歩いてるの見た事あるから大丈夫だろう。

「やだ・・・離して、・・・怖い」

嘘だろおい!、俺のどこが怖いんだよ!、妹からはかっこいいお兄ちゃんって言われてるんだぞ!。

「だーかーらー、トシくん距離感近いんだよー、リゼルくんは人見知りだからこんなに近づかれると怖くてお漏らししちゃうの!」

美人のお姉さんが奴から俺を引き剥がし、鼻くそほじりながらとんでもないことを言いやがった、こいつこんな歳でまだお漏らしすんのかよ!、っていうかお姉さんそんなことしたら美人が台無しじゃないか!。

・・・だが、俺はもうちょっとこいつの扱いを考えた方がいいな、この後俺が何言ってもこいつ泣くだろうから今日は退散するとしようか、次は俺が冗談を言っていっぱい笑わせてやろう、傷のことを忘れるくらい面白いことをして遊んでやろう、そう思って。

「お漏らしすんの!、こんなにデカくなってまだお漏らしかよ!、あはははは!」

って言いながら店を出た。

その夜、うちの宿屋に来た伯父貴に思いっきり殴られた、「坊主をからかって泣かすんじゃねぇ!」って、本気で殴りやがって思わず涙目になっちまったぜ・・・。

それからまた何日か経った、あの2人は伯父貴の料理が気に入ったのか、ほとんど毎日昼の時間になると店に顔を出すようになった、そのたびに俺は奴と話をしたが・・・・何を言っても奴は乗ってこない。

何故だ!、俺は友人居ないから俺の話が面白いかどうかの基準が分からねぇ、涙目で上目遣いで睨まれるだけだ、こいつの心の闇は相当深そうだな、っていうか美人のお姉さんはこいつの何なんだろうな、姉弟にしちゃぁ似てねぇし、いいとこの坊ちゃんで護衛か何かかな?、俺以外の見知らぬ客が近寄ると体の向きを変えて警戒してるから護衛?なのか、・・・めっちゃ食うし、明るくてノリがいい、胸は小せぇけどな・・・。

俺の話を大笑いして聞いてくれるから、多分俺の話術はかなりいい線行ってると思う、だが奴は無表情だ、今日も帰ってからネタを練り直すかな、・・・こうなったら意地でも笑わしてやるから覚悟しとけよ!。

次の日になって奴は両腕にゴツい腕輪をつけて店に現れた、何だそれ、俺にいいネタ提供してくれるじゃねぇか、なら遠慮なくいじらせてもらおうか。

「はははー、お前なんだよその腕輪、超だっせぇ!、それ本当にカッコいいって思ってんの?、お前のセンスどうかしてんじゃねぇの、まるで手枷嵌められた奴隷じゃん」

「ち、・・・違うもん・・・、これ、・・・結界の腕輪、・・・斬られても、魔法・・・撃たれても・・・無傷な凄いやつなの!」

やっとだ!、やっと俺の話に乗って来てくれたぜ、いやぁ長かったな!、夜遅くまで考えたネタもまだあるが、今日の話題はこの腕輪だ!。

「・・・いや分かるぜー、俺らの年齢だとそういう設定妄想して、俺スゲー!、俺カッケー!、俺無敵!、ってやっちゃうよな!、はいはい分かりましたー、それはリゼルきゅんのーすっごーい魔法の腕輪なんでちゅねー、あはははー」

「うぅ・・・ふぇぇ・・・ひっく・・・」

・・・待ってくれ!、何でそこで泣くんだよ!、そこは、「やだなートシ!、ばれちゃったか!、俺そういうかっこいい魔法使い憧れてんだよね!」「そうか!、なら今度丘の方に遊びに行くか!、魔法は使えねぇけど冒険しようぜ!、俺が案内してやるよ!」って話が弾んで一緒に遊びに行こうぜ!、ってなるところだろ!。

何でもう何日にもなるのにまだ遊びに行くきっかけも作れてないんだよ!、俺の話術はそんなにクソなのか!、ってか男なのにそんな泣き虫じゃ他の奴らに虐められるぞ、説教すると余計に泣くだろうから、ここは明るく・・・。

「あれ?、また泣いちゃう?、男なのに情けねー、やーい泣き虫リゼルー」

パシン!。

・・・え、何で俺殴られるの?、いやそんなに痛くはないんだけど、・・・っていうか待てよ!今こいつの腕輪の中から泥が出てきたぞ!、泥遊びでもしてやがったのかよ!、畜生!、目に泥が入りやがった!、痛てぇ!。

「・・・あ、・・・あぅ・・・ご、・・・ごめん、・・・つい」

わー、こいつめっちゃ悲しそうな顔してるし!、腕輪をからかったのコイツ本気にしたんじゃないだろうな!、ひょっとしてこいつのセンス、実はすっげぇダサくて本気でそれかっこいいって思ってたんじゃ・・・、フォローしといた方がいいかな。

やばい、目に入った泥で涙が!、早く洗わねぇと!、って待て!、「つい」ってなんだよ!、まさかこいつ腕輪に泥仕込んでわざとやりやがったのか?、気弱そうなふりしていい性格してんじゃねぇか!、面白くなってきたぜ、・・・いっぺん泣かしてどっちが上か分からせてやった方がいいかもしれないな!。

「痛ってー、お前なんかもう知らねー、明日から絶対遊んでやらないからなぁー」

これだけ言っとけば明日くらいには泣きながら、「遊んでくださいお願いします!」って言ってくるだろ!。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妹が私の婚約者も立場も欲しいらしいので、全てあげようと思います

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,749pt お気に入り:3,906

〖完結〗冤罪で断罪された侯爵令嬢は、やり直しを希望します。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:3,707

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:752pt お気に入り:3,733

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:2,317

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:1,983

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:402

処理中です...