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Side - 15 - 12 - ただいま -

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Side - 15 - 12 - ただいま -

こんにちは田中太郎と申します。

理世たんが亡くなって50日、今日はいよいよ生身の身体でここに戻ってくる日、ちょっと緊張してきたでござるな。

あの日以来、ほとんど我が家の家族団欒の場と化している、仏壇のあるこの座敷には妻と息子が同じように緊張した顔で座っているでござる。

「なぁ、ダーリン、ちょっと緊張してきたわ、あたしらしくないよな・・・」

「僕も、映像では毎日のように会ってたけど・・・」

「拙者もどんな顔をして会えばいいか分からないでござるよ・・・でも・・・いよいよでござるな」

目の前の魔法陣が明るく輝き、中から人影が現れたでござる、・・・拙者もう我慢できないでござるよ!。

「理世たん!」

ぐえ!、抱きしめようと飛びついたら・・・・。

何でござるか!、理世たんえらく筋肉質でござるな。

「のわー、何じゃこりゃぁ!」

拙者は叫んだでござる、拙者が抱き付いたのは理世たんじゃなくて両手両足を縛られたスキンヘッドゴリマッチョの全裸男でござった!。

「あー、ごめーん、今日は私まだ生身で転移してないんだよー、たまたま別の実験で借りてた奴隷の返却期限が明日まででね、返す前にちょっと転移の実験に付き合ってもらってたのー」

いつもの映像版理世たんがゴリマッチョの後ろから現れたでござる。

「いや、お父さん何で男に抱き付いてんの?」

「理世たんかと思って間違えたでござる!」

「えと、やっぱり直接生身でそっち行くのはまだ怖くてね・・・ちょうど博士が奴隷借りてたから、返す前に地球の食べ物を食べてもらって大丈夫かどうか確認してみたらどうかなーって・・・」

「その人・・・じゃなかったその奴隷に何か食べさせてあげて、・・・大丈夫、もう抵抗する気力も起きないくらい心を折ってるから暴れないでしょ、あ、私が折ったんじゃないよドン引きしないで!、奴隷レンタル商会の人が折ってあるって言ってたそうだから・・・、大丈夫だって何かやりそうな気配したら緊急転送して消すから」

息子が台所に置いてあったパン4個と唐揚げ、サラダとお茶を持ってきて縛られた手に渡すと・・・・。

すごい勢いで食べてるし!、・・・あ、泣いてるでござる、お腹空いてたのかな?・・・ちょっと可哀想でござるな。

「理世たん・・・この人は何をして奴隷になったのでござるかな?、っていうか男の人怖くないでござるか?」

「大丈夫!、いきなり触られたらお漏らしする自信はあるけど、遠隔で別の部屋に居るのを転移させたから私その奴隷には近づいてないのです!、それにまた聖女様を叩き起こして・・・じゃなかったお願いして浄化20回重ね掛けしてるから汚れてないでしょ、お肌ツヤツヤしてるし!、あと罪状だったね、えーと、ちょっと待ってね、資料見るから・・・・」

「・・今まで逃げ回っていて捕まってなかったけど余罪調べてたら、・・・あ、嘘が分かる水晶使ってね、これやったか?、あれはやったか?、他には何もしてないか?、って聞いてたら、余罪が8つ、全部有罪!、罪が1つだけなら普通は刑務所みたいな所に入るんだけど、3回の猶予全部使い切ってまだ4つ足りない状態だったからいきなり奴隷落ちだって、一番昔のだとお金目当てで宿屋を襲って家族全員惨殺?、被害者はご夫婦と子供3人とおばあちゃん、次は・・・あった、食堂で暴れて店主の首の骨折って殺してるね、そのあと止めに入った店主の奥さんも強姦した後で殺してる、・・・3つ目は・・・行商人の馬車を襲って、それから・・・そこにたまたま乗り合わせてた女性や子供達を・・・」

「いやもういいでござる!、聞きたくないでござる!」

目の前のゴリマッチョは極悪人でござった!、・・・あ、息子と妻が拙者を置いて部屋から逃げようとしてるでござる!。

「全部食べたみたいだね・・・じゃぁ転移させて連れ戻すから、明日までお腹壊したり死んだりしてないの確認したら今度こそそっち行くねー」

そう言いながらゴリマッチョと娘が魔法陣から消えたでござる、・・・ものすごく疲れたでござるな。



翌日、また拙者達は座敷に座って理世たんを待っていたでござる、もう迂闊に飛びつかないでござるよ、昨日のゴリマッチョの肌の感触がまだ手に残ってるでござるからな・・・。

魔法陣が光って・・・何か・・・甘い柑橘系のいい香りがするでござるな・・・・。

「お父さん、ただいまぁ!」

娘が泣きながら拙者に抱き付いてきたでござる。

「ひっく・・・ぐすっ・・・・わーん!、懐かしいお家の匂いだぁ・・・、やっと、・・・やっとかえってこれたよぉ・・・・・」

拙者の胸に顔を埋めて娘が号泣してるでござる、横では妻と息子も顔をぐちゃぐちゃにして泣いてるでござるな・・・、思ったより小さくて軽い・・・、これだと小学校6年生頃の理世たんかな、・・・お帰り、理世たん。

「最初に何かしたい事はあるでござるかな?」

まだ泣き続ける理世たんの頭を優しく撫でながら聞いたでござる。

「・・・うん・・・みんなにちゃんとご挨拶・・・する、・・・ちょっと顔を洗ってくるね・・・」

そう言って立ち上がり座敷を出て行こうとする理世たん、・・・左足を引き摺って、杖で身体を支えながら歩いているでござる、足が不自由なのは本当だったのでござるな・・・。

「・・・やっと帰ってきてくれた」

妻が泣きながら言ったでござる・・・。

「お姉ちゃんいい匂いした・・・」

息子が少し変態的なことを言っているでござるな。

「・・・というわけで!、田中理世、無事に帰ってまいりましたぁ!」

「わー、パチパチ」

まだ目は赤いものの娘が笑顔で拙者達に挨拶したでござる。

今の理世たんの格好は最初に魔法陣から映像で出てきた時のとは少し違うグレーのブラウス、黒い膝上のプリーツスカート、魔法使い風のローブ、ブーツは脱いでいて白い膝上の靴下に左腕は肘まである白くて長い手袋をしているでござる、そして仏壇の座布団の上に女の子座りして・・・。

「あー、本当に信じられないよぉ、またお家に帰って来られるなんて!、こっちでは私が死んで50日?くらいしか経ってないけど私15年!、・・・もうすぐ16年だけど!、15年ぶりの我が家だからね!、頑張った私!、偉いぞ私!、分かってたけどお家もみんなも全然変わらないや!、そりゃそうだよねー」

「・・・理世、こっちに生身で来て体調はどうだ?、気分が悪いとかはないのか?」

妻が娘に聞いたでござる

「うーん、特に向こうと変わりないかなぁ・・・あ、そうだ!、ちょっと待って」

自分の身体ををペタペタ触って確認した後、右手を上に掲げ、何か向こうの言葉で呟くと、右手の上に小さな魔法陣が現れたでござる・・・銀色に輝いて綺麗でござるな・・・。

「そうだねー、向こうと違って空気の中の魔素が無い?・・・いやちょっとだけあるね・・・とにかくすごい少ないから魔法を使う時に自分の魔力がめっちゃ減るかな、・・・でも私魔力はバカみたいにあるから特に問題ないけど、多分向こうの人間がこっちに来たら魔法使えないんじゃないかなぁ、大きな魔法使うなら前の宇宙船の時みたいに私は向こうに居て、魔法陣だけ転移させてって方法になるかもね?」

・・・いやこっちでも魔法使えるんかい!ってツッコミを入れたでござる。

「それと、まず私の身体の事をみんなに知ってもらいたいから、ちょっと気持ち悪いかもだけどちゃんと見てて欲しい」

娘が眼帯を外したでござる、青に近い灰色の右目に対して眼帯に隠れていた方の左目は赤黒く濁っていて、その目を通るように額から顎に向かって赤黒い傷があるでござるな・・・これが呪い?・・・とても痛そうでござる。

「呪いの刃で斬られたら傷が刺青みたいに赤黒く残るの、眼球も傷ついて呪いが入ったから赤黒くなっちゃってるね、左目はほとんど見えないし、傷を押さえたり、左目で無理に見ようとすると傷の奥から顔全体に呪い・・・っていうか小さくて細長い虫みたいなものがたくさん皮膚や筋肉の下に入ってきてそれが蠢いてとても気持ち悪いし痛いの、それから・・・よいしょっと」

理世たんが左の手袋と左足の靴下を脱いだでござる、左足には十箇所以上も傷があるでござる!。

「左の腕は5箇所斬られてる、これは刃物を振り回した刺客から顔や身体を守るために左腕を盾にしたから斬られたんだ、それと一番ひどいのは左足、テーブルの下に隠れようとした時に左足を掴まれて、それでもテーブルにしがみついて出てこなかったから苛立った刺客に滅多刺し!、多分足の腱や神経がズタズタになってるね、左の膝から下は感覚が全然ないし、最初はもっと酷かったけど博士が何度か治療してくれて、杖に頼ってだけど普通の速さで歩けるかなーっていうところまでにはなったよ・・・最後に・・・」

そしてローブを脱いだ後、背中を向けてブラウスを脱いだでござる、リゼたんの白い背中には右肩から左脇腹にかけて斜めに大きな傷が・・・

「これが最初に切られたとこ、一番傷が深いかな、襲われたリィンちゃん・・・王女殿下に抱きついて庇った事に関して後悔はしてないけど今でも強く押さえると泣くくらい痛い・・・」

「こっちの病院でなんとかならないでござるかな・・・」

「どうだろうねー、なるようなら嬉しいんだけど、下手に病院に行って血やDNA調べられたらマズいでしょ、「ぎゃー、例の宇宙人だぁ!、捕まえろー!」ってなりそうだし、でもそれ以前に一番問題なのは私、死んじゃってるから保険証が無い!、国籍もないし戸籍もない!、何もない!、お父さんどうしよう!」

「・・・いや、それは考えてなかったでござるな、困ったでござる」

「まぁしばらくはこの家から出ないだろうし、下手に外を歩いて騒ぎになっても嫌だし、私そもそもお家に引きこもってるの大好きだし!、ネットがあれば何日だってこもってられるよ!」

やっぱり娘は生まれ変わっても生前の理世たんのままでござるな。

「わーい!、お部屋にこもって「艦⚪︎れ」や「⚪︎神」やるぞー、嫁に会える!、待っててねナ⚪︎ーダちゃん!、・・・あ、そうだ忘れてた、これあげる」

どさ!、って重そうな皮袋を2つ、腰のポーチから出したでござる

「前に言ってたでしょ、金貨いっぱいあげるって、適当に小金貨100枚くらい持ってきたから、あー腰が軽くなったぁー、それと向こうのダイヤ的なやつも、多分それ一つで王都の一等地にある家が買えるよー」

袋から取り出すと金色に輝く五百円玉くらいの金貨がたくさん入ってござった・・・、もう一方の袋には綺麗に研磨された巨大なダイヤみたいなのが5個・・・

「これ地球の金と同じかどうかまだ分かんないからとりあえず持ってて、水や鉱石みたいな自然物は同じのが多いからこれも同じだと思うけどね、同じだと分かったら売っちゃってもいいし、・・・あのサンプルの箱に入れ忘れちゃったんだよねー、だから売ると地球上には無い物質!、って騒ぎになるかもしれないけど、何か言われたら道案内をした迷子の宇宙人にもらったとでも言って誤魔化せばいいでしょ、・・・私って向こうでは大金持ちだけど今は日本円全然持ってないからここに居候する滞在費的なやつ?」

「いや理世たん名義の銀行口座まだあるし、保険もあったから全然大丈夫でござるよ」

そんなことを喋りながら理世たんが帰ってきた日の夜は更けたのでござった。

あ、そうそう、夕飯は泣きながら食べていたでござるな、「15年ぶりに食べるお母さんの作ったお料理だぁ!、スーパーのお惣菜だぁー、お米が美味しいよー!」って。

こんなに喜んでくれるのなら、あの時できなかった理世たんのお誕生日のお祝いをやるのもいいかもしれないでござるな・・・。




・・・そしてあれから更に10日経ったでござる。

それにしても魔法陣から生身の理世たんが出てきてからずっとこの家に居るでござる、自分の部屋だったり仏壇のある座敷だったり・・・、向こうでお仕事?は無いのでござろうか?。

「理世たん」

「何?、お父さん」

「いや毎日ここに居て向こうのご両親は心配してないでござるかな?」

「毎日は来てないよ」

「え?」

「こっちに来てるの今は5日に一回くらいかなぁ、私も向こうでお仕事あるし」

「いや毎日居るではござらんか、別に拙者は居てくれた方が嬉しいのでござるが・・・」

「日本で1日過ごすでしょ、それで翌日向こうに転移するの、時間は日本に転移した直後ね、そうすると向こうでは私が一瞬消えてまた現れたーみたいな感じに見えるの、そんで向こうで5日暮らすでしょ、次に日本に転移するのは前に転移して帰った直後だから、このお家でずーっと目を離さないで私を見てないと確かに帰ってないように見えるかもね」

「だから毎日このお家の中や私のお部屋でゴロゴロしてるように見えても、次の日の私は向こうで5日お仕事して、「あー疲れたー、5日ぶりに日本でゆっくりするのです!」みたいな状態なの」

「今は日本で転移魔法陣の検証や実験のこともあるし、頻繁に・・・5~10日毎にこっちに帰ってきてるけど落ち着いたら1年・・・向こうの1年は400日だから400日に4回、100日に1回くらいの頻度で帰ってこようかなーって思ってるの、だって一度戻った過去より前には戻れないから頻繁に日本で生活してるとあと50年もしないうちにみんな死んじゃうよね」

「たとえば100日に1回戻って日本で1日過ごしたとするでしょ、そういう感じで行ったり来たりを続けると日本で40日過ごしたら向こうでは4000日、つまり10年時間が経ってるって事になるね」

「今私は15歳だけど、そのペースで日本に帰ってたらだいたい1ヶ月ちょっと後の向こうでの年齢は25歳だね、そんな感じで計算して私の年齢が900歳になってもお父さん達に会えるようにって思ってるんだぁ」

「それに向こうで安易に時空転移魔法陣使っちゃうと歴史が変わったりしてマズいんだよねー、だから私は向こうではまだ時空転移魔法陣使った事ないよ、博士は王国が建国される前くらいの所にちょくちょく行ってるみたいだけど」

「理世たんのお友達・・・リィンちゃんでござったか、その子が襲われる前に行って理世たんが怪我しないようにはできないのでござるか?」

「あー、それリィンちゃんにも泣いて頼まれたんだけどねー、私が怪我しないように歴史を変えてくれって、でもリィンちゃんにも言ったんだけど、その時は私がたまたま盾になってリィンちゃんが無事だっただけなの、本当に奇跡みたいな幸運で2人とも生きてるんだよ」

「何かの間違いで少しでもリィンちゃんが斬られてたらリィンちゃんが死んじゃうの、私が今から過去に戻って確実にリィンちゃんを無事に助けられるかっていうと分かんないんだよね、一度戻った過去より前には戻れないっていうのが時空転移魔法陣の欠点?というか課題なんだけど、もし1回しか事件が起きる前に戻れないのにリィンちゃんを助けられなかったら・・・って思うと怖くてできないの」

「あの時は外でお茶をしてる時に襲われたんだけど、まず私の言うことを信じてくれるかってことから始めないと・・・お城の警備も厳しかったし私が一生懸命説明しても普通は「お前何言ってるの?」ってなるよね、しかも私男の人とまともに喋れないし、信じてくれたとしても、じゃぁお部屋の中でお茶をしようってなった時に刺客がどこから襲ってくるのか分かんないもん、私は小説に出てくるチートで無敵な主人公じゃないんだよ、だから少しでもリィンちゃんが死んじゃう可能性があるのなら誰に頼まれても絶対にやらないって決めてるの」

・・・そうでござるか、理世たんも色々考えているでござるな。

拙者も、・・・会社からはまだ休んでろって言われてるでござるが・・・、マスコミも周りの目も落ち着いたから会社に出て日常を取り戻すのもいいかもしれないでござるな。
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