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Side - 63 - 1 - おおおばさま -(挿絵あり)

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Side - 63 - 1 - おおおばさま -


・・・はじめまして、私の名前はエリーゼ・シェルダン・・・12歳。

ローゼリア王国の貴族、シェルダン家の長女です。

私の家族は優しいお父様とお母様、次期当主であるお兄様、今は領地で暮らしているお祖父様とお祖母様、私はお会いした事が無いのですが引退して田舎でのんびり暮らしている曽祖父様と曽祖母様。

それに加えてあとお一人、お祖父様のお姉様、大伯母様がいらっしゃいます。

私のお家はローゼリア王国の筆頭貴族家として広大な領地、莫大な資産、多くの商会を持ち、王家に並ぶ力を持つと言われています。

そのような家の長女として産まれた私はドジで人見知り、お勉強も得意ではなく、陰では無能令嬢、顔がいいだけの馬鹿、筆頭貴族家の失敗作などと呼ばれて・・・・ふぇぇ・・・ぐすっ・・・。

・・・し、失礼しました・・・、先日私の友人だと思っていた子が他のお友達と一緒に私の悪口を・・・そのように言って笑っているのを聞いてしまい・・・うぅっ・・・思い出したらまた悲しくなってきましたぁ・・・。

両親に話したら「誰かにいじめられたらすぐに言うんだよ、うちにはお金と権力があるし簡単にプチッって潰せるから!」などと恐ろしい事を・・・。

お兄様は「エリたんはお嫁になんて行かなくていい、僕が一生養ってあげる!」と言って下さるのですが・・・。

昔からドジでノロマで無能な私、なにをやってもうまくいかないの。

表面上は優しく接してくれているお家の使用人達も陰ではお友達のように私を笑っているのではないかと・・・・・ぐすっ・・・・ひっく・・・・そんな事を・・・毎日考えてしまって悲しくなるのです・・・。







今日は朝からとても気が重いです、昨日お父様に呼ばれて大伯母様と会うように言われたのです!。

「エリたん、明日からしばらくの間お屋敷に大伯母様が滞在するから一度お会いしておきなさい」

「ひぃっ・・・いきなり明日ですか!・・・・まだ私、心の準備が・・・・あぁっ!・・・」

ごとっ・・・ばしゃぁ!

「熱っ!・・・わぁぁん!あついよぉ!」

私のお膝にお茶がぁ!、それに父様のお部屋の高そうな机を濡らしてしまいましたぁぁっ!。

「ははは、私が子供の頃は大伯母様にとても可愛がってもらったものだ、エリたんもそんなに緊張しなくても大丈夫だと思うぞ・・・たぶん」

ふきふき・・・

「大伯母様にお茶はこぼさないようにね・・・」

お部屋に居た執事さんに濡れたお膝を拭いて貰った後、私はどうやって自分のお部屋に戻ったのか覚えていません・・・。



我がシェルダン家は誰かが結婚したり、子供が生まれたり、社交デビューしたり、何かお祝い事があると大伯母様にお会いしてお言葉を頂く事になっています。

お父様はもちろん、お母様やお兄様も何度かお会いしたと言っているのに私は生まれた時に祝福を頂いただけでまだお会いした事がありません。

それって私が無能だからシェルダン家の一員として認められていないんじゃ・・・・ないかと・・・・うぇぇ・・・・ぐしゅっ・・・あぅ・・・鼻水が服に垂れてしまいましたぁ、お母様に買ってもらったお洋服がぁ・・・うぅ・・・。




当日の朝、私は昨日大伯母様について調査したメモを読み上げます、私だって何も知らない状態で大叔母様に会うほどの馬鹿ではないです、家族に聞いたり、頑張ってお家の資料を調べたのです。


「今のシェルダン家の繁栄は大伯母様のおかげと言っても過言ではない、確かに昔から大きな家だったが大伯母様の手腕によりシェルダン家の資産は20倍に増えた」

「シェルダン家の領地敷地内にある別邸と研究塔は大伯母様が所有している、王都にはこのシェルダン家王都邸から少し離れた場所に別邸がありその所有者も大伯母様である」

「左足と左目が不自由で杖を持って眼帯をしている、その傷は当時の王女殿下を刺客から守るために負った名誉の負傷である」

「当時の王女殿下は知っての通りご存命で、大伯母様とはとても仲が良く、現在でも頻繁に交流している」

「魔力量が膨大で建国の大魔導士様を大きく上回っている可能性がある、あまりにも多い為13歳ほどの姿のまま成長が止まっている」

「国への多大な貢献を認められ爵位を頂いている、王族に次ぐ最高位の爵位であり我が家に籍を置きつつその爵位も持っている」

「魔法陣の構築や魔道具に詳しく、数々の功績から「白銀の大魔導士様」と呼ばれている、異名を持つ大魔導士様は建国から数えても5人しか居ない」

「空間転移魔法陣と時空転移魔法陣の私的な使用を国から許可された2人のうちの1人である、現在この2人以外で転移魔法陣を起動できる人物は居ない」

「王家を守る近衛魔法騎士団の名誉団員である、これに伴い騎士の爵位も持っている」

「極度の人間嫌いで普段は領地の森の奥に住んでおり、近隣の村や街へは商人を通して薬や魔道具を販売している、領民からは「森の魔女様」と呼ばれている」

「「狂乱の大賢者様」と共にかつて王国を襲った呪いの刃事件の被害者救済に尽力し、敵対していた帝国を崩壊させた英雄の一人である」

「エテルナ大陸一と言われる大商会「オーニィ商会」の幹部であり、「エース・オーニィ・エンターテインメント商会」名誉取締役であり、更に人気ファッションブランド「リーゼ」のオーナー、会長兼相談役でもある」

「貴族でありながらギルドに登録しているハンターでもある、階級は不明、何故かギルドにより隠蔽されている、「幻影」の異名を持つ白金級ハンターではないかという噂がある」

「伝説的な暗殺者「ローゼリアの毒蛇」の弟子であり、薬草や毒草の扱い、調薬をはじめとした暗殺技術の全てを受け継いでいると噂されている」


うん、無理、怖い!。

経歴を調べただけでも大伯母様怖い人ですぅ、・・・ぐすっ・・・私、絶対何か粗相して怒られるの!、それで家から追い出されて路頭に迷って、街を彷徨ってると・・・悪い男に騙されて酷い事をされたり・・・・わぁぁん!。






遂に大伯母様にお会いする時間が来てしまいました・・・うぅ・・・怖くてまた涙が出てきました、お母様にしてもらったお化粧が崩れちゃう・・・。

お父様とお母様が一緒に行ってくれるものだと思ってたのに・・・・ひ・・・一人で行けと言われましたぁ!、何で?・・・私何か悪い事したっけ?。

うぅ・・・また涙と鼻水が・・・ぐすっ・・・。





・・・お部屋の前に着いてしまいました、大伯母様は王都本邸にもお部屋を持っています、普段は留守にしていて誰も居ないのですが今日はいらっしゃる筈なのです。

震える手で部屋の扉をノックします。

コンコン・・・

「・・・・・」

返事がありません、入っていいのかな?。

もう一度ノック。

トントントン・・・。

「・・・・どうぞ」

微かに返事が聞こえました、声が小さいから聞こえなかったよ・・・。

「失礼します」

がちゃ・・・

お部屋に入りました・・・。

「・・・お、お初にお目にかかかかかります大伯母様、エリーゼ・シェルダンともうしましゅ・・・」

噛んだのです・・・・もうダメです、そういえば私赤ちゃんの時に会ってるし、お初じゃないし!。

お母様に教わった淑女の礼をします・・・足が震えてきました、私これが終わったらお母様に頭よしよしして貰うんだ・・・。

「・・・・・座って」

ソファを勧められてしまいました、声が怖いです!。

私はソファに座り恐る恐る顔を上げました、大伯母様は窓際にある執務机の前に立っています。

・・・そこには私が居たのです、いえ、私はとても大伯母様に似ていました、本当に鏡を見ているみたいにそっくりです。

違うのは左目にしている眼帯と、顔にある大きな刀傷。

それから氷のような冷たい目・・・・。

大伯母様がゆっくりと私の座っているソファに近付いてきます、お顔は感情が抜け落ちたみたいに無表情・・・・怖い・・・今すぐ逃げたいです!。






今私と大伯母様は机を挟んでソファに向かい合って座っています・・・あれ?、いい香り・・・、大伯母様からは柑橘系の爽やかで少し甘い香りがします、香水でしょうか?、いいなぁ私も欲しい・・・。

大伯母様の斜め後ろには高齢のメイドさんが立っています、こんな人うちにいたっけ?、もしかして大伯母様の専属メイド?、とても優しそうなお顔をしています。

メイドさんは私と大伯母様にお茶とお菓子を用意して部屋の隅に下がり、用意されていた椅子に腰掛けました、確かにご高齢のようだから立ったままだと辛いと思うのです。

私はお部屋の中を見渡します、ここには初めて入ったの・・・白い壁紙、古いけれど温かみのある家具、沢山の本が詰まった本棚、落ち着いた執務机、柔らかな光が差し込む窓には清潔感のある白のカーテン・・・このお部屋にいると不思議と時間がゆっくりと過ぎていくような・・・・ってそんな事を考えている場合じゃないのです!。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

会話が何もありません、私から喋れという事でしょうか?。

「お、・・・おとうしゃまは・・・大伯母様と私、よく似てるって言ってたんでしゅが、・・・・本当によく似てましゅね」

あぅ・・・緊張で舌が回りません、これじゃあ赤ちゃん言葉だよ・・・。

「・・・・・・」

私・・・何か間違えたのかな?、大伯母様のお顔が険しくなりました、・・・あぁぁぁ!こんな不出来でゴミ以下の小娘と似てるなんて言われたら怒るよね、わ・・・私終わったかも?。

「・・・あ、あの大伯母様?」

「・・・・・なに?」

もうダメです・・・何を言っても機嫌を損ねます、めちゃくちゃ怒ってるよこの人!、・・・また涙と鼻水が出て来ましたぁ・・・。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

いや何か言ってよ・・・・もちろん口には出さず心の中でそう思っていた時、大伯母様が呟きました。

「・・・・・お茶」

「え・・・」

お茶?、お茶がどうしたのでしょう?、お茶を飲ませろ・・・いえ違うようですね、お茶の感想?・・・まだ飲んでないし!、ふぇぇぇん・・・分からないですぅ・・・。

「・・・・飲まないの?」

あ、分かったのです!、大伯母様は「お前は私の茶が飲めないのかゴラァ!」と言っているのです!、は・・・早く飲まないと・・・。

あ、ダメだ手が震えて・・・・うわ熱っつい!。

ごとっ・・・ばしゃぁ!

ぽたぽたぁ・・・

わぁぁぁん、お茶をこぼしてしまいましたぁ!、ひぃぃぃぃ!、こぼれたお茶がテーブルを伝って大伯母様の足にぃ!。

「ご、ごめんなさい!・・・・わぁぁ・・・・ひっく・・・・ぐすっ・・・・うえぇ・・・・ぐすっ・・・・ぐえほっ!えふっ!」

すすった鼻水が気管の方へ入って咽せましたぁ!。

「・・・・・」

「えぐえぐ・・・ひっく・・・うっく・・・」

すっ・・・

泣いている私に大伯母様がハンカチを差し出しました、・・・無表情なのが凄く怖いです!。

「ひゃう・・・ありがとう・・・ごじゃいましゅ・・・ぐす・・・」

ハンカチで涙と鼻水でぐずぐずになったお顔を拭いていると大伯母様が立ち上がり、執務机の所で紙に何かを書いています・・・。

そ・・・それはもしかして私の・・・・この家からの除名?・・・籍を抜いて追放だ!、みたいな感じの恐ろしい書類かも?。

「い・・・嫌だぁ、お母様助けて・・・・わぁぁん!」

書き終わった紙を無言で私に差し出します、上から私を見下ろす表情が怖いよぅ・・・。

私は震える手で紙を受け取り覚悟を決めて読みました・・・さようなら私の貴族生活。




エリーゼちゃんへ!

大きくなったね!、私とは赤ちゃんの時に一度会ってるけど覚えてないよね!。

じゃぁ「初めまして」だね!、あなたの大伯母リーゼロッテだよ。

私って人見知りで無口で、見た目もこんなで怖いから、嫌われるんじゃないかって昨日は緊張してあまり眠れなかったの!。

淑女の礼とても上手だったよ、きっと一生懸命練習したんだよね、えらいえらい!。

あなたに会えるって聞いて本当に私楽しみにしてたんだぁ!、エリーゼちゃん、あ、エリちゃんって呼んでいいかな?、いいよね?、じゃぁこれからあなたの事はエリちゃんって呼んじゃうぞっ!。

私と違って優しそうで綺麗な目をしてるから将来が楽しみだね、美人さんになりそう!、あ、そうだ!今は私と同じ体格だからお揃いの服を作ろうよ!、きっと可愛いと思うな、私が持ってる人気ブランド、「リーゼ」の特注品だよ。

そのお洋服を着て一緒にお出かけしよう!、美味しくて甘いケーキが食べられるお店があったら紹介して欲しいな、実はこう見えて私甘いもの大好きなんだぁ。

そういえば今日はなんだか気分が悪そうだけど大丈夫?、お腹痛いの?、ほんとに具合が悪いのなら無理しないで!、しばらくここに滞在するから身体の調子が良くなったらまたお話ししよう。

それから・・・あなたには私の事、リゼって呼んで欲しいな。

今日は会えて嬉しかったよ、ありがとう。

これからも、あなたが今よりもっと大きくなっても、私と仲良くしてくれると嬉しいな!。




「・・・え?」

大伯母様、筆談だとすごく喋るし・・・・・しかもちょっと可愛いな・・・・。

「あの・・・・・大伯母様?」

「・・・・・ちゃん・・・」

・・・また声が小さくて聞こえないのです!。

「大伯母様?」

「・・・・・リゼちゃん・・・って呼んで」

「・・・リゼちゃん様」

「・・・・・」

私また何か間違えちゃったかな?、大伯母様がほっぺぷく~って膨らませてるし・・・。

「・・・・・」

「・・・・様は無しで」

何それ大伯母様かわいいな・・・・。

「・・・・リゼちゃん」

「何?エリちゃん」


怖い人だと思っていた私の大伯母様はとてもかわいい女の子でした・・・。



エリーゼさん


エリーゼさん(眼鏡)
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