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Side - 15 - 7 - おかしなでしができた -

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初めまして、私の名前はドック・フューチャ。

王立魔法研究所で所長の地位に居る、よろしく頼むよ。

さて、私が人生の全てを使って研究していた空間転移魔法陣と、時空転移魔法陣がようやく完成した。

今まで私を狂人、変人呼ばわりして馬鹿にして来た奴らが掌を返して称賛しているのは見ていて愉快だな、ざまぁみろ。

だが正直に言うと私の人生全てを使ってもこの魔法陣は完成しないと思っていたのだ。

私は本当に運がいい、それについては我が自慢の弟子、あの嬢ちゃんと出会った頃のことを話さないといけないな。

私は最近では珍しく魔力量が多い人間だった・・・最近と言っても生まれたのは300年以上前だが・・・。

200歳を超えた辺りから歳を数えるのを辞めたから、もうとっくに300歳を超えているだろう、見た目はおっさんを通り越して爺さんの一歩手前まで来てるがまだ髪はあるぞ!。

長く生きていたおかげで研究に没頭する時間だけはあった、自分の中の知識欲を満たそうと勉強や研究を続けていたらいつの間にか魔法理論、魔道具研究の権威と呼ばれるようになっていた。

そのおかげで王立魔法研究所の所長などという面倒な仕事を押し付けられる事になったが・・・、人間金がないと生きていけないし研究もできない、幸い今の役職はいい金になるから面倒だが引き受けてやってる。

ある日、私が昔、教鞭を取っていた頃の教え子から話があると呼び出された、・・・恩師を呼び出すとはいいご身分だな・・・っと言っても奴はこの国の筆頭貴族で「ご身分」は確かに立派なんだがね。

その頃からすでに私は狂人、変人と呼ばれ生徒からは馬鹿にされていた、だが奴だけは私の授業を熱心に聞き、よく質問してくる真面目な生徒だった。

魔法に興味があって頭も良かったから王立の魔法研究所で働けばいいと思い推薦状を書いてやろうとしたが、奴はお貴族様の跡取りで、自分の時間は領民のために使いたいと言って断ってきた、欲まみれの貴族が溢れるほどいるご時世に随分と珍しい奴だったな。

呼び出されて行った王都の邸宅の前でため息を吐いた、金っていうのはあるところにはあるもんだな、奴の性格から汚いことをして稼いだ金じゃないっていうのはわかってるんだがね。

今日呼び出された話っていうのはまだ何なのか分からんが、場合によっちゃぁ研究費用でも毟り取ってやろうか、そう考えながら物々しい護衛に連れられて立派な邸宅の門を通った。

客室に通された私は奴が来るのを待つ間、周りを見渡した、廊下も部屋の内装も落ち着いていて品がよく下品な煌びやかさが全く無い、機能性重視というのはこういう事か、だが質はとんでもなく高いだろうことが私でも分かる家具や調度品、奴らしいな・・・と思わず苦笑いした所で奴が入ってきた、妻らしき女性と銀髪の女の子を連れて。

私は立ち上がり挨拶した、生意気な教え子とはいえ、今は貴族家の当主だ。

「お久しぶりです、シェルダン閣下」

奴ば鼻水を飛ばしそうなほど吹き出した!、汚ぇなぁ・・・。

「・・・やめてください先生!、貴方にそんな喋り方をされたら鳥肌が立ちます!、昔のように話してください!」

「そうか、・・・いやちょっとからかってやろうとしたんだが、顔つきは威圧感が増したが変わらねぇなクソガキ!」

「ニヤニヤしてたからそんな事だろうと思ってましたよ、お久しぶりです先生」

一通り挨拶を交わし茶を飲みながら近況を軽く話した、・・・それにしてもえらく高そうな茶だな、美味いぞ!。

「今日来ていただいたのはこの子・・・・私の娘についてなのですが・・・」

・・・目つきが鋭いな、気が強そうだ、生意気なガキはたくさん見てきたが、流石にお貴族様だけあって品があるな。

そう思って女の子を見ていると。

「・・・ひうぅ」

なんで涙目になってるんだ?。

「この子は今年で7歳・・・もうすぐ8歳になります、身体の成長が遅く魔力量の検査に連れて行ったところ、かなり魔力量が多いと分かりました」

「ほう、なんとなく分かるな、体から抑えきれてない魔力が出てる、それに彼女が俺の前に座った時に腕の毛がざわってする感じがあった、確かにこの子は相当あるぞ」

「・・・さすがです、そんなことまで分かるのですか、いやぁ先生に相談して良かった!」

いや待てよ、なんか嫌な予感がするぞ。

「この子は魔法に興味がある・・・というか魔法にのめり込んでいて、今より高度な知識を得たいと言っています、できればこの子の師匠になっていただきたく・・・」

そんな事だろうと思った、だが私にはもっと気になる事がある。

「・・・ところで嬢ちゃん、先に一つ聞きたい事がある、お前さん、「何をして」そんなに魔力量を、「増やした」んだ?」

3人が口を開けて固まりやがった、図星かよ。

「・・・・何故増やしたと?」

奴が聞いてきた。

「俺は生まれつき魔力量が多いから自分の身体の事については詳しく調べ上げた、だいたい人間は俺くらいの魔力量が限界で、これは俺の持論だが・・・、それ以上になると意図的に何かして容量を増やさないと身体が壊れる、袋に土を無理やり詰め込んでいったらいつか強度が限界を超えて破れるっていうのと同じだ」

「魔力量が多い人間は他の魔力量が多い奴に会うとなんとなく分かるんだ、こいつ多いなって、嬢ちゃんも俺に会った時に何か感じたんじゃないか?、それに嬢ちゃんの魔力量は・・・・怒らないで聞いてくれ、化け物並みに多いだろう、自然にこんなのが生まれたらそれは魔物だ」

「じゃぁ800年超えて生きた記録がある建国の大魔導士様はどうなるって話だが・・・、これは誰にも公表していないから迂闊に他言するなよ、大魔導士様のことも調べたさ、何で800歳超えて生きるくらい魔力があったのか興味があったんだ、文献を読み漁って彼の故郷まで出向いた、それで彼の故郷とされている村の近く、大昔に街か何かがあった場所だと思うが石碑があった、昔の王国言語で書かれてもう風化が酷くてまともに読めない状態だったが修復してなんとか読んだ」

「そこにはな、建国の大魔導士様ここに生まれる、彼は魔力量が生まれつき少なかったが血を吐く努力をして増やした結果、建国の英雄の一人になった・・・・みたいな事が書かれてた、こんなやばい話、・・・生まれた後から魔力量が増やせるって事実なんか公表してみろ、今でも狂人呼ばわりされてるのに適当に罪を被せられて捕まりかねない、だから墓場まで持って行こうと思ってた、嬢ちゃんみたいな生きた証拠に会うまではな」

いささか喋り過ぎたか、奴も貴族だ、どこから国にこの事実が漏れるか分からない、迂闊だったかな?。

「やはり先生に頼って正解でした、先生ほど研究者として優れた知識と魔法に関する正しい危機管理意識を持っている人間を他に知りません、どうか娘を導いてやってはもらえませんか」

どうやら私をどうにかする気はなさそうだな、さて、私も研究者の端くれだ、このお嬢ちゃんに興味がないといえば嘘になる・・・。

「分かったよ、但し条件がある」

私は満面の笑みで奴に言った。

「どうやって魔力量を増やしたか教えろ、そしたら俺が生きてる限りは師匠として嬢ちゃんの面倒をみてやろう」

・・・それからは話が早かった、というか盛り上がった。

気がついたら日が暮れていた、食事をして泊まっていけと奴に言われたからお言葉に甘えた、夕食はとてつもなく美味かったな、あんなの毎日食ってるのかよ、凄いなお貴族様。

あの嬢ちゃんは見かけによらずとんでもない人見知りだった。

最初は怯えて、「・・・あぅ」とか、「ひいっ・・・」しか言わなかったが、魔法の話になると人が変わったように話に乗ってきた、それからは質問攻めだ、こんな魔法はないか、これができない理由は何か?、答えが自分の中でピッタリ当てはまったら嬉しそうに笑った、元教師としては教え甲斐のある生徒だな。

それに嬢ちゃんは本当に8歳か?っていうくらい魔法に対する知識があった、最上級とまではいかないが上~中級の魔導書を原文で読み理解する、魔法陣を自分で解析し再構築する、これは将来とんでもない研究者、いや賢者にさえなるかもしれない逸材だった。

そして一番驚いたのが考え方、着眼点だった、何をどうすればそんな考えが思い付くのか?、質問に答えていた筈の私が逆に彼女に質問をしていた事もあった、こんなに楽しい議論はいつ以来だろう、嬢ちゃんを弟子にと紹介してくれた元教え子には感謝しないといけないな、もうこの時点で報酬などどうでも良かったが翌日の帰り際に契約書を見せられた、奴は破格の給料を支払うと言う、美味しい、美味し過ぎて不安になる程だった。

結局、私の職場である王立魔法研究所は王城の敷地内にある為、父親が出勤前に嬢ちゃんを私の研究室まで連れてくる事になった、知らなかったが奴は宰相補佐という役職で国王陛下と同じ執務室で仕事をしているそうだ、帰宅時にはもちろん父親が迎えに来るし、来れない日は執事が迎えに来た、大事にされてるな・・・。

生徒兼弟子としての研究の手伝いは嬢ちゃんの負担を減らすため1日おき、嬢ちゃんが希望すれば3日連続で1日休みなど臨機応変に対応する事にした、こちらでは魔法学や魔道具の理論、希望すれば一般教科も教える事にした、嬢ちゃんは驚くほど賢く、一般教科はすぐに教えることが無くなったが・・・。

嬢ちゃんが研究室に通うようになってしばらく経った頃、自分の机に向かって何かを悩みながら描いていた、魔法陣の設計図?だろうか。

「嬢ちゃん、そりゃ何だ」

「あー博士ぇ、これはね、声を圧縮して魔素に乗っけて遠くに送って、その送った先で元の声を戻して聴けないかなぁって思って、ちょっと変調と復調を電気じゃなくて魔素や魔力でやろうとしてるんだけどうまくいかないの!」

なるほど分からん、詳しい話を聞くと魔道具で声を遠方に送って受ける側の魔導具で聞くだと!、何でそんな事をしたいのかと聞いたら。

「娯楽がねー、本や舞台、吟遊詩人くらいしか無いんだよねこの世界、何でだろう、魔道具が発達して機械文明!、スチームパンク!って感じのやつはあるのに電気が無いせいで個人が音楽聴く手段が無いの、私はお家で引きこもって音楽聴きたいの!、その手始めがラジオ!、鉱石ラジオでも何でもいいからとりあえず音声を魔素に乗っけて発信したいの!、それで次にテレビジョン放送やりたいの!、将来的にはインターネットかなぁ、できるかなぁ・・・私が生きてるうちにできればいいなぁ・・・」

弟子の言ってることがさっぱり分からんのだが!、いや、これは私が研究している空間転移魔法陣に理論は似ているんじゃないか?、遠く離れた場所に物や人を転送するという事を音に置き換えたなら・・・と思ってしまった、だが私は怖い、今は私を尊敬の目で見て慕ってくれるこの小さな弟子が、今までこの理論を説明した奴らみたいに、「頭おかしいんじゃないか」「そんなのできるわけがない」と笑い軽蔑するのが・・・・。

「嬢ちゃん、もしもの話だが・・・空間転移魔法陣というものがあるとしたら、どう思う?」

嬢ちゃんはいきなり立ち上がって目を見開き・・・いや瞳孔まで開いてるぞ大丈夫か!。

「嘘ぉ!、あるのぉ!」

・・・凄い食いついてきたなこの子・・・・、覚悟を決めて説明してやろうか。

・・・今私は泣いている、悲しいんじゃなくて感動でだ!。

小さな弟子に空間転移魔法の理論を説明したら、嬢ちゃんが、涙と鼻水流しながら絶賛してくれたのだ!。

「博士ぇ!、凄い!、凄い!、できるんだぁ!、空間転移!、しかもほとんど完成してるじゃん!、博士凄すぎるよ天才じゃないの!、いや神だねもう!、神様だよぉ!」

「・・・やっと、・・・200年かかってやっと俺の研究を分かってくれる人間がいた!・・・・うぉぉぉ!」

2人で涙と鼻水流しながら号泣してたら研究室の扉が開いた。

「リゼたん、帰るよー」
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