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第三話 雪柳

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 男妓の「好き」にどれだけの信憑性があるのかわからない。けれど確かに俺は彼が好きだ。彼の不在で、わかってしまった。この先の保証もないし、普通の恋人にはなれないかもしれない。それでも今この思いを伝えたかった。
 何も望まない、ただ彼がそこにいてくれればいい。こうして時々ここに来て、好きだと言ってくれる。ただそれだけで構わない。
 吸い寄せられるようにくちづけた。くちびるが触れた瞬間、キュンと胸が鳴った気がした。ほんとにキュンとするもんなんだな。
 一度離れて、角度を変えて、くちびるが重なる。柔らかく熱い舌に舌を絡められて恍惚とした気持ちになる。
 もつれ合うようにして寝台へと急いだ。今度は俺が彼を寝台に押し倒す形になる。
 しっかりと結ばれた帯を解く。なかなか解けなくてもどかしく思っていると、彼が手助けしてくれた。その間もくちづけは止まらない。こんなに愛しい気持ちになるものだとは。
 しかし衣が開かれ、あらわになった彼の体を見て、俺は言葉を失った。そこには無数の傷跡があり、腹には包帯が巻かれていた。
「真波、さん」
 真波さんは眉を寄せて俺を見上げた。
「驚いただろう? 傷がなかなか治らなくて、ここにくるのにも時間がかかってしまった」
 ごくりと唾を飲み込む。寝台に手をついて、彼の傷にくちびるを寄せた。カサブタになった擦り傷、ちいさな裂傷、青みを帯びた打撲痕。そして包帯がわりの布の上から。
 彼を傷つけそして守った全てのもの。今彼がここにいる奇跡の全てに感謝をこめて。
「雪柳」
 真波さんが俺の頬に手を添える。
「すまない。……けれどどうしても会いたくて」
 過激な行為は傷に触るかもしれない。けれどお互いの間に濃厚に漂う欲望の気配は、止められないと思った。なんとかしたくて、懸命に考える。そして彼を見上げた。
「大丈夫、です。あなたは、なにもしなくていい。じょうずにできるか、わからないけど」
 横たわる彼の身を起こさせ向かいあって座った。自分の上着の紐を解き、彼の袴から彼の欲望を取りだした。すでに固くなり始めているそれは、男から見ても立派なものだ。手にあまるサイズのそれを、ゆるゆると育て始める。
 くっ、と彼の美しい眉が顰められた。彼の端正な顔に欲が滲むその瞬間が好きだ、と思う。
 俺は下着の中から自分のそれも取り出して、育ちきった彼のそれに擦り合わせる。月季に教わった技のひとつだ。
「んっ……」
 ごり、と硬い感触に思わず声が漏れる。今までに経験した事のない感触。彼はまたぎゅっと眉を寄せ、俺の肩をつかんで抱き寄せた。
「んあっ!」
 合わさったそれが押し付けられて、びりびりと脳に刺激が走る。気持ちよくて思わず吐息が零れた。
「あ、はぁ……」
 二本の欲望を両手で掴みこすりあげると、彼が喉を鳴らし、身を震わせるのがわかった。
「いたい、ですか? 大丈夫?」
 はぁはぁ、荒い息の下から聞いた。彼のそれはがちがちに固くなっている。涼やかな目元は潤んでいてとてもセクシーで、下腹がじんと熱くなる。
「大丈夫、だ。すごく、いい」
 どきりと胸が鳴る。俺で感じてくれてる。嬉しくなって、両手を動かす速度を上げた。
「あっ、は、」
 堪えきれないように彼が声を上げる。その声に脳髄がとろけそうになる。すると彼は俺の手の上に大きな手を重ねた。 
 ……えっ?
 と思うまもなく、強い力で俺の手ごと擦りあげられる。自分の手と彼のものに擦られて、俺のものは卑猥な音を立て始める。
「あっ、あん、いや、ぁっ」
 堪らず身をよじる。彼は息を荒らげながらさらに手を動かし、俺のそこに彼自身を擦りつけるように体を上下に動かし始めた。
「はっ、は……雪、柳……」
「ああっ、いや、やだ、やぁ、」
 彼が動くたび、触れ合う部分が濡れた音を立てるのに、耳からもやられそうだ。
「いや。やめ、あっ。いっちゃ」
「はぁっ……君の声は、たまらない、な」
 掠れた声が言う。声を褒められるのは、嬉しい。だけどそんなことを思う間もなく激しい快感に襲われて、俺はただ喘ぐことしかできなくなる。
「あっ、ぁ、あ、あ、ああっ!」
 一際激しくそこを擦り上げられ、俺は彼の首にしがみつきながら腰を震わせた。
「くっ……」
 そして彼もまた体を強ばらせる。じわ、と手のひらが濡れた気がした。
 ……ふたりで同時に果てたのだ、と思った瞬間、とてつもない満足感に襲われた。
「あ、ん、ん……」
 気持ちよくてたまらない。彼もそう思っていてくれればいい。そう願いを込めて彼を見つめると、すぐにくちづけが降りてきた。……そうじゃなくて。でも、それがいい。
 開放感と気だるさの中で、俺たちは飽きることなく甘いくちづけを交わした。
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