30 / 61
第五章
国王の帰還⑤
しおりを挟む「止まれ!ここはアルバ国王の城だぞ。
貴様は何者だ。」
門番が私達を制止した。
私はフードを外し、一礼してアルの方を指した。
「アルバック王をお連れしました。
国境の谷付近で、頭部をお怪我なされたようで、記憶が混乱していまして。
しばらく我家で介抱していたんです。
だいぶ良くなったので、ここまで私が連れて来た次第です。」
頭を下げて、丁寧に説明する私の後ろのアルに、門番が視線を送った。
「おお、これは確かにアルバック王…いや、本物か?
似ているものの、偽物という事も…。」
さすがに王の城を守る門番だけあって、やはり素直には入れてくれない様だ。
何か証明する物とかあるかな。
私はアルに視線を送った。
「あ、ああ、えっと、あんま覚えてねぇけんど、オラの剣を。
剣を持って来てくれれば、一目瞭然だべな。」
「あ、ああ!
そうですよね。
かしこまりました、今剣をお待ちしますのでしばしお待ちください。
おい!そこの3人!
王の聖剣をここへ!」
ん?
剣で一目瞭然?
確かに聖剣というものは勇者にしか、うんぬんというお約束があるが…。
3人も必要か?
結構、あの3人ムキムキだぞ。
慌ただしく、3人の兵士は台車まで持ち出して城内へ駆け込んで行った。
「どういう事ですか?」
「重いだけだべ。」
重い?
私はアルの肩から腕の筋肉を見た。
確かに筋肉質ではあるものの、マッチという訳ではない。
とすれば、なんらかの術でもかかっているのか?
なんとかの剣は勇者しか大岩から抜けないとかあったしな…。
ガガガガ、ガコガコガガガガ。
しばらくしてから、物凄い台車の音が響き渡る。
役人3人がかりで、剣を乗せた
台車を転がしながらもバランスが悪く、あっちへ行ってはこけそうになり、こっちへ行ってもこけそうになっていた。
「お待たせ致しました~はあ、はあ。
出来れば帰りは、ご自分でお持ち頂けますか?はああ。」
役人3人は、くたくたとその場に倒れた。
「悪ぃ、悪い。
コイツはオラの事しか認めないんで。
帰りはちゃんと面倒見て、部屋に持ち帰るべ。」
アルは手元に戻った愛剣を軽々と、片手で振り回した。
その鋭さは一眼見てわかるほどの輝きを放ち、動きやすさに特化した長さと厚みを持っていた。
しかし、その剣はさほど上等な装飾がされている訳でもなくむしろ、つかの部分は木彫りに適度にメッキ装飾が付いているものの様に見える。
「その剣は…。」
私はその剣に触れようとした。
ブォーン。
これは‼︎
術や魔法ではない。
念だ。
想いの強さ。
剣の芯に打ち込められし、アルへの想い。
「親父が王様のとこ行く前に、くれただよ。
本当はオラが20歳になったら渡すって言ってたんだけんど、叶わなくなっちまってな。
親父は剣を作る時に自分の魂のカケラを込めるって言ってたべ。
そん時はよくわからなかったけんど、確かにこの剣はオラの手に、フィットしただ。
そして、他の者が触ると持ち上げられねぇほど重く感じるらしいべ。
実際の重さは、さほどないんだけんどな。
だから、コイツはオラ専用で、置いて行っても盗まれるなんて、まずはあり得ねぇんだ。」
父親の愛情の重さか。
確かに他人が軽々しく持てる重さじゃないな。
これで、アルが剣を置いて行った理由がわかったな。
アルは剣を一振りして鞘にしまうと、腰に下げた。
「改めて!アルバ王国国王アルバック様、お帰りなさいませ!
大臣達が長らくお探しで、心配していました。」
門番が背筋を伸ばして、アルに敬礼した。
「ああ!まだ体調が完全に良くなった訳じゃないので、大臣や側近の来る前に部屋に。
な!な!アルバック王!」
「そ、それそれ。
あー、それにこの方に、お、お礼をしなければなんねぇべ。
コホン!
王としての礼儀を欠いてはなんねぇべ。」
この場で大臣と対峙するのは少し、アルにとっては不利になりかねない。
とりあえず、城内の王の間にてアルを玉座に座らせた後の対峙が理想的だ。
優劣のハッキリした場所での方が、国王としての力はより誇示される。
見かけも大事な演出なのだ。
相手に隙を与えてはならない。
特に詐欺師相手だ。
私が去る前に、下準備くらいはしておいてやりたい。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
最強魔導師エンペラー
ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった
幼馴染から奴隷のように扱われていた俺、誰でも奴隷にできる最強スキル<奴隷化>が覚醒! 勇者も魔王もみんな奴隷にして可愛がります
ねこ鍋
ファンタジー
光の勇者として幼い頃から横暴の限りを尽くしてきたエリー。荷物持ちの俺は奴隷のように扱われていたが、それでも彼女の力になれるのだからとガマンしてきた。しかしある日、エリーの気まぐれで俺は命を落としてしまう。
その後、勇者の力で復活させられたが、それを見ていた女神様がついに愛想を尽かし、エリーから勇者の資格を剥奪してしまった。
世界最強の勇者から、一転して世界最弱の無能冒険者に成り下がったエリー。このままでは死んでしまうと怯えるエリーに、俺はこう提案した。
「俺と奴隷契約を結ぶなら助けてやろう」
こうして横暴幼馴染を奴隷にした俺は、さらに<奴隷化>という伝説のスキルが発現していたことも発覚する。これは相手を屈服させれば勇者でも魔王でも奴隷にできる最強スキル。しかも奴隷と仲良くなるほど俺も奴隷も強くなるため、エリーを愛しまくっていたらエリーも俺が好きだと発覚した。
これは奴隷にした勇者を愛しまくり、やがて嫁にするまでの物語。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる