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第五章

国王の帰還⑤

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「止まれ!ここはアルバ国王の城だぞ。
 貴様は何者だ。」

 門番が私達を制止した。
 私はフードを外し、一礼してアルの方を指した。

「アルバック王をお連れしました。
 国境の谷付近で、頭部をお怪我なされたようで、記憶が混乱していまして。
 しばらく我家で介抱していたんです。
 だいぶ良くなったので、ここまで私が連れて来た次第です。」

 頭を下げて、丁寧に説明する私の後ろのアルに、門番が視線を送った。

「おお、これは確かにアルバック王…いや、本物か?
 似ているものの、偽物という事も…。」

 さすがに王の城を守る門番だけあって、やはり素直には入れてくれない様だ。
 何か証明する物とかあるかな。
 私はアルに視線を送った。

「あ、ああ、えっと、あんま覚えてねぇけんど、オラの剣を。
 剣を持って来てくれれば、一目瞭然だべな。」
「あ、ああ!
 そうですよね。
 かしこまりました、今剣をお待ちしますのでしばしお待ちください。
 おい!そこの3人!
 王の聖剣をここへ!」

 ん?
 剣で一目瞭然?
 確かに聖剣というものは勇者にしか、うんぬんというお約束があるが…。
 3人も必要か?
 結構、あの3人ムキムキだぞ。

 慌ただしく、3人の兵士は台車まで持ち出して城内へ駆け込んで行った。

「どういう事ですか?」
「重いだけだべ。」

 重い?
 
 私はアルの肩から腕の筋肉を見た。
 確かに筋肉質ではあるものの、マッチという訳ではない。
 とすれば、なんらかの術でもかかっているのか?
 なんとかの剣は勇者しか大岩から抜けないとかあったしな…。

 ガガガガ、ガコガコガガガガ。

 しばらくしてから、物凄い台車の音が響き渡る。
 役人3人がかりで、剣を乗せた
台車を転がしながらもバランスが悪く、あっちへ行ってはこけそうになり、こっちへ行ってもこけそうになっていた。

「お待たせ致しました~はあ、はあ。
 出来れば帰りは、ご自分でお持ち頂けますか?はああ。」

 役人3人は、くたくたとその場に倒れた。

「悪ぃ、悪い。
 コイツはオラの事しか認めないんで。
 帰りはちゃんと面倒見て、部屋に持ち帰るべ。」

 アルは手元に戻った愛剣を軽々と、片手で振り回した。
 その鋭さは一眼見てわかるほどの輝きを放ち、動きやすさに特化した長さと厚みを持っていた。
 しかし、その剣はさほど上等な装飾がされている訳でもなくむしろ、つかの部分は木彫りに適度にメッキ装飾が付いているものの様に見える。
 
「その剣は…。」

 私はその剣に触れようとした。

 ブォーン。

 これは‼︎
 術や魔法ではない。
 念だ。
 想いの強さ。
 剣の芯に打ち込められし、アルへの想い。

「親父が王様のとこ行く前に、くれただよ。
 本当はオラが20歳になったら渡すって言ってたんだけんど、叶わなくなっちまってな。
 親父は剣を作る時に自分の魂のカケラを込めるって言ってたべ。
 そん時はよくわからなかったけんど、確かにこの剣はオラの手に、フィットしただ。
 そして、他の者が触ると持ち上げられねぇほど重く感じるらしいべ。
 実際の重さは、さほどないんだけんどな。
 だから、コイツはオラ専用で、置いて行っても盗まれるなんて、まずはあり得ねぇんだ。」

 父親の愛情の重さか。
 確かに他人が軽々しく持てる重さじゃないな。
 これで、アルが剣を置いて行った理由がわかったな。
 
 アルは剣を一振りして鞘にしまうと、腰に下げた。

「改めて!アルバ王国国王アルバック様、お帰りなさいませ!
 大臣達が長らくお探しで、心配していました。」

 門番が背筋を伸ばして、アルに敬礼した。

「ああ!まだ体調が完全に良くなった訳じゃないので、大臣や側近の来る前に部屋に。
 な!な!アルバック王!」
「そ、それそれ。
 あー、それにこの方に、お、お礼をしなければなんねぇべ。
 コホン!
 王としての礼儀を欠いてはなんねぇべ。」

 この場で大臣と対峙するのは少し、アルにとっては不利になりかねない。
 とりあえず、城内の王の間にてアルを玉座に座らせた後の対峙が理想的だ。
 優劣のハッキリした場所での方が、国王としての力はより誇示される。
 見かけも大事な演出なのだ。
 相手に隙を与えてはならない。
 特に詐欺師相手だ。
 私が去る前に、下準備くらいはしておいてやりたい。
 
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