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第四章

国境越え、いざアルバ国入国へ⓷

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「いゃ~、参っただなぁ。」
「全然困った言い方じゃないですよねそれ。
 そもそも、アルは今でも本当は戻りたくないと思ってるんですよね。
 あ、すいません。
 忘れて下さい。」

 つい、テントを出て苛立ちをアルにぶつけてしまった。
 アルは悪くないのに。
 苛立つ自分にさらに苛立ちを覚えた。
 
「ありがとうな。
 本当は何故国を抜け出したのか聞きたいんだべ?
 ナナシはオラに気を遣って、ずっと理由も聞かずにいてくれただな。
 けんど、もう少しだけ待ってけろ。
 もう少しだけ。」
「わかってますよ。
 気にしないでください、本当に。
 それに、気を遣ってるわけじゃなくて、単に揉め事に巻き込まれるのがゴメンなだけですよ。
 私は他人に親身になれるほど、優しい人間ではありません。」
「そか。
 でも、オラはそれでもナナシはいい奴だと思うべな。」

 数々のテントを掻き分けて、少し離れた場所に移動した。
 
「さて、このままではどうしょうもありませんね。
 団長の気持ちが落ち着くまで、少し時間を稼ぎましょう。
 夜に再度交渉に行きますよ。
 腹一杯、睡眠欲が出ると、判断力が鈍りますからね。
 そこを狙って、交渉しましょう。
 あ、今度は私1人で行きますね。
 アルも夜はそれ程強い方ではないですし。」
「わかっとるべな。
 朝早いのは得意だども、どうも陽が落ちるとやっぱり自分でも、行動が遅くなるだべ。
 アルに任せるだよ。
 頼むだよ。」

 やんわりと程のいい言葉を並べてアルに交渉の場から離す事を促した。
 
 いや、本当は全然そんな理由じゃないんだよ、考えてもみろ、私が例のアノ力を使い団長を骨抜きにしたとしたら…物凄い地獄絵図だよ。
 何故に私が、中年小太り男と…おぞましすぎる。
 絵面的にも完全アウトな世界だ。
 団長とのラブシーンなんて、笑えるどころか、ドン引きして人々が静かに潮の如く去っていく、冷ややかな映像だろ。
 私にだって好み趣向は無くはないんだよ、無心の境地を極めた宗教人供とは違うんだ。
 貧しい中、身売りをしなければならない女ってのはこういう気分なのか?
 いや!死んでも呪われても貞操だけは守るぞ!
 
 今から後遺症になりそうな自分を奮い立たせる為に、とにかく腹一杯食べて、ある意味夜の戦場へ向かう準備をしなければならない。
 とりあえずその場に腰を下ろして、持ってきた加工したヤギ肉を少し切り、市場で買った野菜を頬張った。

「つかぬ事を聞きますが、デルアビド王とはその、仲が良くなかったのですか?」
「んん?んにゃ、むしろ1番仲良かったべ。
 頭がいい奴だからオラに色々教えてくれたり、神経質な所もあって世話焼きだし。
 変わり者ではあったけど、いい奴だべよ。」
「ですが、それ程仲が良いようには見えませんが。
 アルに会おうとすらしていない、そんな感じが。」
「オラだって、よくわかんねーだ。
 魔王倒したのはええんだけんど、その後国分けやら何やらでゴタゴタして。
 互いの国への干渉は控える事になったべ。
 確かに、簡単に連絡はするなって言われたけんど、忙しいから余裕がねぇだけだと思うけんど。」
「そうですか…。」

 人間の感情にそれ程詳しい訳ではないが、本当にそうなのだろうか?
 まあ奇才という種類の人間は気難しい者が少なからずいる。
 理解不能なのが当たり前なのかもしれない。
 アルの言う通り、あまり深くは意味がないのかもしれないな。
 でも、逆にアルがデルアビド王を頼れなかったのはそこら辺の事情なのか?
 本来なら頼りたかった…とか。
 やめよう!
 人間関係に深入りして、得した者の話など聞いた事がない。
 魔物や魔族はそこら辺は単純明快だし、物事ハッキリ言うからこういう、グダグダした関係は扱い方がわからない。
 そういう面では自分が魔族であった事は良かったのかもしれない。
 アルの話しも淡々と聞いてられる。
 
 仲間か…生きていればいつか出逢えるだけで、羨ましい。
 それだけで…私なら充分だ。
 
 「オラ、ちょっと食い終わったら、さっきの異国の土産物売ってたテントの子守たのまれたで、行ってくるべな。」
「唐突ですね。
 しかも突然頼まれて受けたんですね。」
「子守りしながらの商売は大変だべ。
 少しの間でも手助けになるし、食後の運動にちょうどいいべな。」
「とか言って、逃げないでくださいよ。
 国王誘拐犯指名手配!
 なんて言いがかりつけられたら目にも当てられない。」
「もう!大丈夫だって、ちゃんと帰る気はあるべな。
 なんとかなりそうだし。」
「……?」
「じゃあ、行ってくるべな。
 ナナシには少し休んで欲しいべな。
 夜が怖ければ、昼なら眠れるべ。」

 アルはまだ口の中でヤギ肉を踊らせながら立ち上がって、キャラバンのテントの波に消えていった。
 アルなりに気を遣っているのか。

「プッ、なんだか幼い子供に心配されてる大人みたいだな、今の私は。」

 確かに夜よりは昼間の方が少しは楽に寝られる。
 私は鞄から出した麻袋をゴザがわりにして、マントで陽を遮り横になった。
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