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第一章

王様と乞食②

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 アルバックから逃げる様にして泉を離れて小屋まで丁度半分くらいの道で、いきなり後ろから抱きつかれた。

「‼︎」
「やだなー逃げる事ないべなぁ!
 オラ、怪しい者じゃないべ。
 ただ、ちょびっと腹が空いてるだ。
 何でもいいから食わせてけろ。」

 なんなんだコイツは。
 ふざけた事を言ってる割には、流石に勇者なのか気配を感じさせなかった。
 腕は一流剣士でオツムは5歳児並みだとでも言うのだろうか。
 あれ?
 コイツ、確か勝利後は連合国の一国を任せられたとか聞いたが…に、しては服装が中流階級以下いや、平民の中でも貧しい部類に入りそうな布切れ1枚で出来た服にサンダルだ。
 下手したら剥ぎ取った服を着ている私の方がマシに見えて来る。

「申し訳ありませんが、私は貧しくて家には粗末な物しかありません。
 山菜や干物くらいしかありませんよ。」

 やんわりと、断ったつもりだった。
 
「うおお!地物の山菜に干物!神様の恵みの品なんて久しぶりだ!街の食事は味が複雑すぎてオラにはわかんね。
 やっぱり、食い物は自然な味わいが1番だべ!
 行くべ!そら行くべ!やれ行くべ!」
「おいおい…。」

 分からんが、何やら逆にコイツのテンションを上げる結果になってしまった。
 まあ、ここまで阿呆なら食い物でも食わせてサッサと追い出せばいい。
 ただ、こうなるとあの家にこの先住むのは難しくなりそうだ。
 用心に越した事は無い。
 コイツを返した後でまた何処かに移動しなければ。
 サツキ菜の成長が見られないのが残念だが仕方ない。
 私は極力人の目に触れる生活はしてはならないのだ。

「仕方ありませんね。
 粗末な物しかありませんが、何かお出ししましょう。
 ですが、私の家は古びた薪小屋を再利用した物です。
 大したおもてなしは出来ないと理解して下さい。」
「おう!洞窟育ちのオラには豪邸だべ。
 なんなら野宿の回数も半端ねぇべ。
 そうだった、コイツを料理してくれねーべか。
 大砂ネズミを捕まえたども、朝露で小枝も湿気っちまって火が起こせねぇべ。
 魔法とかが使えればいいんだけんども、オラそんな力は持ち合わせてねぇべ。」

 お互いに名乗る事もしていないのにケラケラと笑いながら腰にぶら下げた両手の幅程の大砂ネズミを掴み上げ、どんどんと勝手に話しを進めるアルバック。
 本来なら憎むべき、恨むべき相手なのだろうが、この単純なキャラクターが私の心の騒めきを緩和させていた。
 そもそも、憎むとは自分を正当化する目的なだけで、結果を産む事はない事も充分に理解しているせいもあるのだが。
 感情をむき出しにする事の虚しさを痛いほど実感して来たのだ。
 私の心にはキズどころか、巨大な底なしの穴が広がっているのだ。

 鼻歌を歌いながら大砂ネズミをブンブン振り回すアルバックを背に小屋への道を私は言葉少なに歩いた。
 我らの関係を知る者が見たら、まさに滑稽な絵面だろう。

 ともあれ、アルバックと私は獣道を歩み進めて、我が家へとたどり着いた。
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