手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

学者と王子と魔法の解けた魔女3

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職員玄関に時間ピッタリに到着した、コート片手にロンTにタイトスカートの私服姿の田宮 美月を連れて、僕は金井先生の待つ、第2会議室へと入った。

「いらっしゃい。
ワザワザ呼び出して悪かったね。
夜遅いのに。
さあ、座って。」
金井先生が田宮 美月をいたわるように優しい声で言った。
「こちらこそありがとうございます。
時間と場所を提供して頂いて…感謝してます。」
そう言って、彼女はゆっくりと席に座った。

棘の抜けた薔薇のようだ。
「武本先生から聞いてるとは思うけど…僕等は、君を責めるつもりも、叱るつもりも無い。
君の胸のつっかえてる物を取り除きたいんだ。
わかるかな…。」

彼女の正面に、金井先生。
田宮美月の右側に、僕は座った。

「はい。
私自身も、もう1人で背負うには重過ぎると…。
だから、この話しを聞いて実際、救われた気分でした。」
「じゃあ、僕等はなるべく聞き手に回るから、君の言葉で話して欲しいんだ。
宜しくお願いするよ。
あ、焦らなくていい。
帰りは車で送るから。」
「はい。」

彼女は俯きながらも、すこし照れた感じで話し始めた。

「私…大人に減滅していたんです。
多分、昔から…。
母親の私に対する異常の愛情の裏で、真朝に対する異常な精神的攻撃。
側からずっと見せられて、私の中での正義や悪の感覚もどんどんと麻痺していました。
そんな中…中学の時、教師に無理やりレイプされた挙句、その映像まで撮影されて…脅迫されました。
初めは、怖くて怖くて…でも、何度か繰り返されるうちに、怒りがこみ上げて来ました。
大人の勝手さに…自分の都合のいい事ばかり考えてる汚さに…そして、ある日その教師を逆に脅迫してやったの。
出るとこに出るって。
映像は逆に、証拠になるってね。
そしたら…100万円の封筒を手渡されたの。
中学生に100万円よ!
何それ!って呆れたわ。
簡単にレイプして、簡単に100万円で忘れろって…あははは。
大人って、本当にバカなんだって理解したわ。
でも、そんな大人が大勢居るって事もわかったわ。
だから…逆に利用してやろうと思ったの。
どうせ、処女なんていずれは失う物だし。
バカな大人から高額金を奪う材料になるって。
でも、私はバカじゃない。
ニュースとかでそういうトラブルには知っていた。
大人から高額金吸い上げるのは罪悪感はないけど、女の子が処女を失う以上のリスクを負うのは許せない。
あくまで汚い大人を利用するのが目的とした復讐…。」

会議室の空気が一瞬で凍りついた感覚に襲われた。
子供達の大人への不信感の深さにたじろいでしまいそうになる。
でも、これは現実なんだ。
僕はそれを受け止めようとした。
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