手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

白衣を君に…1

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日曜日の朝。
朝早く目覚めた僕は、昨日葉月を助けられた達成感で心が満たされていた。
まだ、詳細は解明出来ていないものの担任の生徒を守る事が出来たのだ。

シャワーから出ると、ふと思い出した。
「白衣…。着古しでいいのかな?うーん。」
何でこんな物欲しがるんだ?
スーツの汚れ防止の為に着ていたから、それほど綺麗なものじゃないし…。
ま…バツゲームだから仕方ないけど。
言ってくれれば、新しいの用意したのに。

あれ…僕が着たから欲しいとか…。
いーや、いやいや!ないない!
ないわ~~それはあ。
…何か自分でヘコんだ。
「やっぱり…コスプレ気分だろうなぁ。」

とりあえず、クリーニングしてある白衣を紙袋に入れて鞄と一緒に、学校に持って行く事にした。

日曜日の今日、午前中はテニスが体育館での基礎練習なので、そちらに直行した。
けど…練習中も僕は彼女の事ばかり考えて、集中出来なかった。

テニス部の練習が終わり、僕は体育館を足早に立ち去った。

まるで思春期の学生だ。
好きな子に会いたくて、会いたくて仕方ない!
自分自身の心に正直になってから、僕は行動力が出て来た気がする。

僕はジャージから白いワイシャツと紺のスラックスに着替えると、上着代わりに自分も白衣を着て、紙袋を手に持って旧理科室を目指した。
廊下を走っちゃ行けないって、いつも生徒に言ってるくせに。
僕は軽やかに走り、彼女の元へと足を運んだ。

「田宮ー!いるか?」
ガチャ。
旧理科室を開けると、彼女と金井先生が向かい合っていた。
金井先生も白衣を着ていた。
…かぶってる…。

「こんにちわ。武本先生。
先生も白衣を着て来たんですね。」
彼女が僕の方に歩み寄った。
「あ、えっと…これ。」
僕は紙袋を彼女に手渡した。
「わ…ありがとうございます。
今着ても良いですか?」
「ええ?いいけど…。」

「こんにちわ、昨夜はお疲れ様でした。武本先生。
何です?その紙袋。」
金井先生が好奇心から紙袋を覗き込んだ。
「こんにちわ、お疲れ様です。
えっと、ゲームに負けたのでバツゲームです。
田宮が欲しがったので。」

ガサゴソ。
彼女は白衣を取り出すとすぐに着始めた。
「あら、少し大きいけど…学者っぽくて面白い。ふふふ。」
何だぁ?この絵面はぁ?
白衣3人が旧理科室に…って。

「では、実験を始めます。」
彼女が急に白衣のポケットに手を突っ込んで何やら始めた。
「何の実験かな?楽しみだ。」
金井先生が乗っかって喜んだ。
「…コスプレじゃないのか?」
僕は少し動揺した。

「ここに、真っ白で美しい卵があります。
これを茹でたらどうなります?」
イキナリ変な質問が飛び出した。
卵を茹でたら、ゆで卵だろ。
当たり前に…。
「白いゆで卵ができるんじゃないのか?」
「うふふ。」
金井先生と僕は点になった目を合わせた。

彼女は棚からビーカーやら三脚やら、アルコールランプを出して来た。
手提げから保温用の水筒を取り出してビーカーにお湯を入れて沸かし始めた。
グツグツと沸騰させると、卵をポトンと入れた。

「さっきから、何してるんだ?」
「実験ですよ。
こんなに白衣の人がいて実験の1つもしないなんて…。
『普通』だったら有りえますよねー。
この状況。」
彼女は両手を広げて笑った。
「へっ?」
「つまり…こういう事ですね。
知らない人から見ればこれは、明らかに普通の出来事です。
けれど…本人達にとっては普通じゃない。
視点が違えば…普通も異常も紙一重だ。」
金井先生がスラスラと答えた。
「さすがに、心理学者先生は理解が早いですね。
武本先生みたいに、動揺してくれた方が面白いんですけど。」
舌を出して、彼女はウィンクした。
「動揺ってなぁ!君はすぐに僕をからかう!」
「あはは。ふふふ。」
笑う彼女に同調してか、金井先生もクスクスと笑いながら僕を見た。
「武本先生。その反応が面白がられてるんですよ。くくっ。」
くそ!2人して僕をオモチャにして!

ふくれっ面の僕を横目に、茹で上がった卵を彼女が布巾の上に乗せて、僕に差し出した。
「どうぞ、殻を剥いて下さい。」
「……。」
何か、企んでる目だよな。
金井先生は薄々わかってる感じだ。
あ~~もうなんで、ドキドキしながらゆで卵の殻を剥かなきゃなんないんだよ!

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