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3学期
4回目の勉強会その1
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食事を終えた僕等は生徒指導室へと向かった。
「鍵は掛けないでおくよ。
今日はほとんど人がいるいないし。」
「はい。」
彼女と僕は狭い生徒指導室に向かい合わせで小さなテーブルを挟んで座った。
「何から話せばいいかしら…。
先生は何が知りたいんですか?」
彼女がまじまじと僕の顔を覗き込んだ。
「僕は…君には僕がどう見えてるんだ?」
「前にも言っように泣いています。
観ていて辛そうです。」
「多分…過去の記憶のせいだな。」
「思い出せました?記憶の欠落した部分。」
「少しだけ…。」
「じゃあ、話して頂けますか?
断片的で構わないので。」
彼女は優しく柔らかな声でそう言って、僕の話しに耳を傾けてくれた。
「友達がいたんだ。
小学生の高学年頃からの友達が…。
少し赤毛のくせっ毛で、切れ長の眼に、白い肌、少し長身の。
世界を斜めに見てる感じで、繊細で…知的でそれでいて破滅的な思考の持ち主。
時折、身体に青アザかがついていた。
おそらく…家族から虐待を受けてたと思う。」
「とっても魅力的で素敵な方だったんですね。
先生とも相性があってたんですね。」
「そう!彼と話してるとワクワクして!
他の人にはわからない秘密を共有したりして!」
「男の子同士の特別な秘密ですね。」
「うんうん。
秘密のノートを作ってた。」
「秘密のノートですか…2人だけの秘密でしょうから中身は言わないで下さいね。
彼に怒られてしまいますよ。」
「そうだな。
2人だけの秘密だ…誰にも言わない約束をして……。」
アレっ?
そうだ…あのノート…確か取り上げられた…誰に?
僕等の世界を壊しに…誰かが入ってきた…?
「…秘密じゃなくなったんだ…。
ノートの存在を知られた…同級生…それから…担任教師…親にまで…。
確か…呼び出されて…叱られて…。」
『あんな子と仲良くしないで!
普通の子と仲良くして!
お願いだから、普通でいて!』
『僕とはもう話さない方がいい。
僕に近づけば君まで同類扱いを受けてしまう。
頼むからもう…僕等は友達じゃない。』
「…痛い…。苦しい胸が…。」
僕は急に胸の奥が苦しくなった。
「先生…。手を握って下さい。
落ち着けるように。」
彼女は両手を差し出した。
「ありがとう。」
僕は彼女の手をしっかりと両手で握った。
彼女の体温が伝わってくる。
ああ…苦しさが和らいでいく。
「少しづつ思い出してきた…。
ノートの存在がバレて…問題になった…。
内容が破滅的な内容で…精神が病んでるって思われて…。
親が学校に呼ばれて…。
僕等は近づく事が許されなくなった。」
「友達だったのに…誰も理解してくれなかったんですね。」
「そうだ…。」
「でも、先生は彼と友達でいたかったのでしょう?
共有できる世界…憧れる思い…。」
「うん…。
離れていても友達だって思ってた。
陰でいいから彼の力になろうと思った。」
「やっぱり…優しいんですね。
先生は…。」
「どうかな…。
単なるお節介だって思ってる。
自己満足だったって。」
「後悔してるんですか?」
「ああ、後悔してる。
僕はそんなに力のある人間じゃない。
それなのに…思い上がって…彼を…。
人を助けたり守るって事はそう簡単に出来るもんじゃなかったんだ。
しかも…子供だった僕なんかが出来る事じゃなかったんだ。」
「でも…気持ちは止められないでしょう。」
「えっ…。」
「誰かを…守りたい。
誰かを助けたい…。
その人を大切に思えば思うほど…。
その気持ちを止める事なんて誰も出来ないんです。
そうでしょう。」
天使のように窓から射す光に照らされた彼女が優しく微笑んだ。
まるで…僕に救いの手を差し伸べているかのように…。
友達を傷つけた罪人の僕を…彼女は許してくれるだろうか…?
「鍵は掛けないでおくよ。
今日はほとんど人がいるいないし。」
「はい。」
彼女と僕は狭い生徒指導室に向かい合わせで小さなテーブルを挟んで座った。
「何から話せばいいかしら…。
先生は何が知りたいんですか?」
彼女がまじまじと僕の顔を覗き込んだ。
「僕は…君には僕がどう見えてるんだ?」
「前にも言っように泣いています。
観ていて辛そうです。」
「多分…過去の記憶のせいだな。」
「思い出せました?記憶の欠落した部分。」
「少しだけ…。」
「じゃあ、話して頂けますか?
断片的で構わないので。」
彼女は優しく柔らかな声でそう言って、僕の話しに耳を傾けてくれた。
「友達がいたんだ。
小学生の高学年頃からの友達が…。
少し赤毛のくせっ毛で、切れ長の眼に、白い肌、少し長身の。
世界を斜めに見てる感じで、繊細で…知的でそれでいて破滅的な思考の持ち主。
時折、身体に青アザかがついていた。
おそらく…家族から虐待を受けてたと思う。」
「とっても魅力的で素敵な方だったんですね。
先生とも相性があってたんですね。」
「そう!彼と話してるとワクワクして!
他の人にはわからない秘密を共有したりして!」
「男の子同士の特別な秘密ですね。」
「うんうん。
秘密のノートを作ってた。」
「秘密のノートですか…2人だけの秘密でしょうから中身は言わないで下さいね。
彼に怒られてしまいますよ。」
「そうだな。
2人だけの秘密だ…誰にも言わない約束をして……。」
アレっ?
そうだ…あのノート…確か取り上げられた…誰に?
僕等の世界を壊しに…誰かが入ってきた…?
「…秘密じゃなくなったんだ…。
ノートの存在を知られた…同級生…それから…担任教師…親にまで…。
確か…呼び出されて…叱られて…。」
『あんな子と仲良くしないで!
普通の子と仲良くして!
お願いだから、普通でいて!』
『僕とはもう話さない方がいい。
僕に近づけば君まで同類扱いを受けてしまう。
頼むからもう…僕等は友達じゃない。』
「…痛い…。苦しい胸が…。」
僕は急に胸の奥が苦しくなった。
「先生…。手を握って下さい。
落ち着けるように。」
彼女は両手を差し出した。
「ありがとう。」
僕は彼女の手をしっかりと両手で握った。
彼女の体温が伝わってくる。
ああ…苦しさが和らいでいく。
「少しづつ思い出してきた…。
ノートの存在がバレて…問題になった…。
内容が破滅的な内容で…精神が病んでるって思われて…。
親が学校に呼ばれて…。
僕等は近づく事が許されなくなった。」
「友達だったのに…誰も理解してくれなかったんですね。」
「そうだ…。」
「でも、先生は彼と友達でいたかったのでしょう?
共有できる世界…憧れる思い…。」
「うん…。
離れていても友達だって思ってた。
陰でいいから彼の力になろうと思った。」
「やっぱり…優しいんですね。
先生は…。」
「どうかな…。
単なるお節介だって思ってる。
自己満足だったって。」
「後悔してるんですか?」
「ああ、後悔してる。
僕はそんなに力のある人間じゃない。
それなのに…思い上がって…彼を…。
人を助けたり守るって事はそう簡単に出来るもんじゃなかったんだ。
しかも…子供だった僕なんかが出来る事じゃなかったんだ。」
「でも…気持ちは止められないでしょう。」
「えっ…。」
「誰かを…守りたい。
誰かを助けたい…。
その人を大切に思えば思うほど…。
その気持ちを止める事なんて誰も出来ないんです。
そうでしょう。」
天使のように窓から射す光に照らされた彼女が優しく微笑んだ。
まるで…僕に救いの手を差し伸べているかのように…。
友達を傷つけた罪人の僕を…彼女は許してくれるだろうか…?
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