手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

牧師の追求

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昼休みを終えて、午後の授業も滞りなく終えた。
「武本~~早く行こうぜ!」
職員室入り口で僕は清水先生に抱きつかれた。
「ちょっと!そんなシュミありません!」
「会議室の鍵借りたから。
じっくり話そうぜ!」
「えっ!?」
まさか…それだけの為に会議室!?
そこまでして聞き出したいのかこのオッさんはー!!

僕は清水先生に力づくで会議室にぶち込まれた。

ガチャ。
鍵をガッチリ掛けやがった!

「さーて。
洗いざらい吐いていただこうか?武本。」
「うぐっ。」
清水先生は下心全開のいやらしい顔を近づけた。

「ク…クリスマスイブを…その田宮と過ごしました。」
うわーこっぱずかしいいい!
「はああ?金井先生とじゃぁ…かっさらったのか?」
僕の意外な行動に清水先生も面食らった。
「まぁ。似たようなもので。」
「まさか朝までじゃ、ないんだろ。」
「あ、朝まで過ごしました。
僕のマンションで…。」
清水先生の表情が一瞬で変わった。
「ヤッてんじゃん!夜通し!あんな事やこんな事を!田宮相手に!」
「ヤッてません!抱き寄せてキスしただけです!!」
「…ディープキスだなぁ…その口調。」
「………!…すいません、その…欲望を抑えられなくて。我慢出来なくて。」
くそっ!超恥ずかしい~!
「ほう~。横取りした上に唇奪ったんだな。」
「ま、まあ。そういう事かな…。」
僕の目は泳いでいた。

「別に俺は武本と田宮がエッチしても構わないけどな。」
「エッ…エッチって!!」
何言い出すんだよ!出来る訳ないだろ!
一線を越えるなんて…。
担任が何言い出すんだよ!
「前も言ったろ。
岸の場合もそうだが、本気の恋愛を止められるやつなんていないんだよ。
問題は本気かどうかだ。
生半可な好奇心で生徒に手を出すのは、絶対に許せんが、本気なら話しはまったく別になる。
俺はいつも、そう思ってるぜ。」
清水先生は男らしい顔つきで僕に言ってくれた。

「いや…その…僕は彼女を大切に思ってます。
今はまだ…彼女だって…僕の事好きかまだわからない状態なんで…。」
情けないけど本当の事だ。
彼女は僕にまだ《好き》を言って貰っていない。
この先、言ってくれるかさえも不明だ。
僕だけが…彼女への気持ちを溢れさせている。

「なるほど…田宮は性格上なかなか言わなそうだもんなぁ。
でもよぉ。お前だってこのままじゃ限界来るんじゃねー?男だし。」
「わかりません。先の事なんて。」
「金井先生は知ってんのか?
お前が田宮に本気だって事。」
「宣戦布告しちゃいました。
お正月に…。」
「なんだよ!度胸あんじゃん!」
「度胸っていうのかどうか…。
ただ、自分の気持ちにケジメをつけたかったんです。」
「…マジすげ~な。田宮。
さすが、白魔女だ。
まさか…お前がこんなに変わるなんて思わなかった。
今のお前…結構いい男だよ。」
「はっ!清水先生に言われても…。」
「せっかく褒めてんのによ!ったく。」
清水先生は優しく僕を小突いた。

「いいか、今後何かあったら俺に隠すな!
報告しろ!
協力出来る事があれば全面協力する!
いいな!」
清水先生は僕の両肩を掴んで言ってくれた。
「はい。
ありがとうございます。」
心強い言葉だった。
経験も実績も人間として信頼出来る存在の清水先生にそう言って貰えるだけで、僕は更に自信を持つ事ができた。

「…話は変わるが…田宮 美月の話しだ。」
「えっ。そう言えば年末に…。」
「怪しい動きがある。」
「何です?怪しい動きって。」
「卒業前に余計な人物を排除する動きを見せてる。」
「排除って…!」
「口を塞ぐって方が正しいかもな。」
「足跡を残したくないって事ですかね。」
「多分な。
金井先生もその件でかなりピリピリ来てる。
お前にもわかるだろ。
最近の金井先生疲れぎみなんだって。」
「確かに、最近の金井先生は感情が丸わかりですね。」
「だろ。気をつけろよ。
金井先生、剣道の有段者らしい。」
「えっ!マジで?」
「お前、そのうちボコボコにされるかもな?
うししししっ。」
「笑えないですよ!その情報!」
金井先生が最近忙しそうにしてたのはそのせいか…。
形はどうであれ、その隙に彼女に手を出したような感じになってしまったのか。
金井先生にしてみれば怒り心頭だろうな、やっぱり。

そのうち、近いうちに金井先生との衝突は避けられないだろう。
けれど、以前のような、ごまかしはしないと決めている。
僕はもう逃げない…たとえ玉砕されようとそれを乗り越えていける…そんな自信があった。
何度も僕は彼女に振られているんだ。
振られる事を恐れる理由はないんだ。
僕は僕自身に嘘をつくのはもうやめた…彼女の前でも正直な自分でいようと心に決めていた。

それからすぐに、僕と清水先生は会議室を出て職員室に戻った。

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