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2学期
今年最後の勉強会
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職員室に戻った僕は、田宮を待った。
胸ポケットには手帳とストラップがちゃんと入っている。
大丈夫だ…。
そう言いながら、僕の心臓は大音響で鳴り響いていた。
職員室のガラス戸に彼女の姿が見えた。
「失礼します。」
彼女が職員室に入って来た。
僕は無言で立ち上がると彼女の前まで歩いた。
「行くぞ。」
「はい。」
僕等は生徒指導室へ向かって歩き出した。
生徒指導室の中で僕等はしばらく向かい合ったまま言葉を発しなかった。
そして…一息ついて僕は第1声を発した。
「田宮…まず、僕は君に謝らなければ…。」
その時、彼女の手が肘をついていた僕の手に伸びた。
彼女の細く長い指が僕の指がの間に、吸い込まれるように絡まっていく。
両手で僕の右手をしっかり握った彼女は僕を真っ直ぐ見つめた。
「大丈夫です。」
誰よりも柔らかく暖かい笑顔で…。
時間が止まる…空気が流れを止める…。
彼女の手の温もりが身体中を駆け巡る…。
彼女は…僕が…心配でたまらない…?
僕が…壊れてしまうのを…恐れてる…?
彼女の心が手の温もりから流れ出てくる感覚を憶えた…。
これが…彼女の…心?
『田宮の心の中のあんたの存在がどれだけ大きくなって行くか確かめないとね。』
嬉しいはずなのに何故か…胸が痛い…苦しい…。
「先生…私、母親のことも姉の事も嫌いになれないって言いましたよね。」
「えっああ。」
「心の何処かで…憧れてるのかもしれません。」
「はっ?あの2人を?」
「確かに…良い行いをしてるとは言い難いんです。
でも…あの2人はちゃんと愛を知ってます。
大事なことは守ってるんです。」
ちょっと待て!これは《勉強会》に入ってるのか!?
「大事なこと?愛だって?嘘だろ。」
「いえ…動物として…生物として根本的に1番大切な事です。」
「先生…人が生きる事に執着するのは何故でしょう。」
「田宮…ちょっと待て。」
考える時間が欲しい!捻り過ぎてる!
そうでなくても、この握ったままの手が僕の冷静さを奪っていた。
思わず、握り続けた手に自分の顔をつけてしまった。
唇が彼女の指先に触れる。
ドクンドクン。
うるさい!心臓!
落ち着け…落ち着け…。
魔女の好きな物…大切な物…愛してる物…何だ?何だ?何なんだ?
生きる為に執着?何故執着心が強い?
くそっ!わからない!
「先生…私を見て下さい。
私の目を…。」
「えっ。今度は目…?」
瞬きせずしっかりと彼女は僕を見つめた。
僕も彼女の瞳に吸い込まれるように見つめた。
ヤバいって…こんなの…拷問じゃないか!
苦しい…胸が…痛みが溢れ出す。
切なくて…君が…欲しくて…。欲しくて…。
「見えませんか?」
「はぁ。わからないよ。はぁ。」
動悸がひどい…。身体が熱い…!
「ちゃんと、見て下さい。」
「…君の瞳に…僕が映ってる…。はぁ。」
「見えましたよね。良かった。」
僕の顔は耳まで真っ赤になっていた。
息も荒くなって…。
見えたって…僕は…君の瞳に映る僕が見えただけだ…。
「先生は…迷惑なんでしょうね。
私がこうやって理解不能の話をするの。」
「はぁ。えっ何!?」
ドクンドクンドクンドクン。
もう僕の思考はまったく…機能を果たしていなかった。
僕は無意識に彼女が握ってる僕の右手の上から自分の左手を重ねて握っていた。
ダメだ…苦しい…。
「先生が嫌だって言っても私…やめないです。
だって助けたいってその気持ちに嘘はないから…。」
「はぁ。田宮…。はぁ。」
ドクンドクンドクンドクン。
「…たとえ…それが逆効果になったとしても。」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン。
うるさい!鎮まれ心臓!黙れ!
「僕だって…はぁ…君を…はぁ。」
君を守りたいんだ!
「先生…。苦しいですか?
もう…やめましょう。
ここまでにしましょう。」
ダメだ…まだ何もわかってない!
まだ…まだ…。
「はぁ。はぁ。もう…少しだけ…。」
僕だって本気なんだ…!君を守らなきゃ!
「先生…その苦しい自分も先生なんです。
だから無理しないで下さい。」
田宮…!田宮…田宮…!
狂おしい…愛しすぎて…君の全てが欲しくて!
ガチャ。
彼女は僕の手から自分の手をそっと抜き取ると静かに部屋を出て行ってしまった。
鼓動はまだ収まらない。
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。
「うあああああああああああああああ!」
僕は苦しさのあまり叫んでしまった。
両手で頭を抱えた。
溢れ出て…濁流のように流れてくる切ない想い。
大好きだ…大好きだ…大好きだ…大好きだ…!!
愛してる…愛してる…愛してる…愛してる…!!
抱きしめたい…キスしたい…全てが欲しい!!
守りたい…守らなきゃ…僕が守らなきゃ…!
君の全て守らなきゃ…僕が君を守らなきゃ…!
愛してるから…大好きだから…!!
生徒指導室で僕は1時間も動けなくなっていた。
胸ポケットには手帳とストラップがちゃんと入っている。
大丈夫だ…。
そう言いながら、僕の心臓は大音響で鳴り響いていた。
職員室のガラス戸に彼女の姿が見えた。
「失礼します。」
彼女が職員室に入って来た。
僕は無言で立ち上がると彼女の前まで歩いた。
「行くぞ。」
「はい。」
僕等は生徒指導室へ向かって歩き出した。
生徒指導室の中で僕等はしばらく向かい合ったまま言葉を発しなかった。
そして…一息ついて僕は第1声を発した。
「田宮…まず、僕は君に謝らなければ…。」
その時、彼女の手が肘をついていた僕の手に伸びた。
彼女の細く長い指が僕の指がの間に、吸い込まれるように絡まっていく。
両手で僕の右手をしっかり握った彼女は僕を真っ直ぐ見つめた。
「大丈夫です。」
誰よりも柔らかく暖かい笑顔で…。
時間が止まる…空気が流れを止める…。
彼女の手の温もりが身体中を駆け巡る…。
彼女は…僕が…心配でたまらない…?
僕が…壊れてしまうのを…恐れてる…?
彼女の心が手の温もりから流れ出てくる感覚を憶えた…。
これが…彼女の…心?
『田宮の心の中のあんたの存在がどれだけ大きくなって行くか確かめないとね。』
嬉しいはずなのに何故か…胸が痛い…苦しい…。
「先生…私、母親のことも姉の事も嫌いになれないって言いましたよね。」
「えっああ。」
「心の何処かで…憧れてるのかもしれません。」
「はっ?あの2人を?」
「確かに…良い行いをしてるとは言い難いんです。
でも…あの2人はちゃんと愛を知ってます。
大事なことは守ってるんです。」
ちょっと待て!これは《勉強会》に入ってるのか!?
「大事なこと?愛だって?嘘だろ。」
「いえ…動物として…生物として根本的に1番大切な事です。」
「先生…人が生きる事に執着するのは何故でしょう。」
「田宮…ちょっと待て。」
考える時間が欲しい!捻り過ぎてる!
そうでなくても、この握ったままの手が僕の冷静さを奪っていた。
思わず、握り続けた手に自分の顔をつけてしまった。
唇が彼女の指先に触れる。
ドクンドクン。
うるさい!心臓!
落ち着け…落ち着け…。
魔女の好きな物…大切な物…愛してる物…何だ?何だ?何なんだ?
生きる為に執着?何故執着心が強い?
くそっ!わからない!
「先生…私を見て下さい。
私の目を…。」
「えっ。今度は目…?」
瞬きせずしっかりと彼女は僕を見つめた。
僕も彼女の瞳に吸い込まれるように見つめた。
ヤバいって…こんなの…拷問じゃないか!
苦しい…胸が…痛みが溢れ出す。
切なくて…君が…欲しくて…。欲しくて…。
「見えませんか?」
「はぁ。わからないよ。はぁ。」
動悸がひどい…。身体が熱い…!
「ちゃんと、見て下さい。」
「…君の瞳に…僕が映ってる…。はぁ。」
「見えましたよね。良かった。」
僕の顔は耳まで真っ赤になっていた。
息も荒くなって…。
見えたって…僕は…君の瞳に映る僕が見えただけだ…。
「先生は…迷惑なんでしょうね。
私がこうやって理解不能の話をするの。」
「はぁ。えっ何!?」
ドクンドクンドクンドクン。
もう僕の思考はまったく…機能を果たしていなかった。
僕は無意識に彼女が握ってる僕の右手の上から自分の左手を重ねて握っていた。
ダメだ…苦しい…。
「先生が嫌だって言っても私…やめないです。
だって助けたいってその気持ちに嘘はないから…。」
「はぁ。田宮…。はぁ。」
ドクンドクンドクンドクン。
「…たとえ…それが逆効果になったとしても。」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン。
うるさい!鎮まれ心臓!黙れ!
「僕だって…はぁ…君を…はぁ。」
君を守りたいんだ!
「先生…。苦しいですか?
もう…やめましょう。
ここまでにしましょう。」
ダメだ…まだ何もわかってない!
まだ…まだ…。
「はぁ。はぁ。もう…少しだけ…。」
僕だって本気なんだ…!君を守らなきゃ!
「先生…その苦しい自分も先生なんです。
だから無理しないで下さい。」
田宮…!田宮…田宮…!
狂おしい…愛しすぎて…君の全てが欲しくて!
ガチャ。
彼女は僕の手から自分の手をそっと抜き取ると静かに部屋を出て行ってしまった。
鼓動はまだ収まらない。
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。
「うあああああああああああああああ!」
僕は苦しさのあまり叫んでしまった。
両手で頭を抱えた。
溢れ出て…濁流のように流れてくる切ない想い。
大好きだ…大好きだ…大好きだ…大好きだ…!!
愛してる…愛してる…愛してる…愛してる…!!
抱きしめたい…キスしたい…全てが欲しい!!
守りたい…守らなきゃ…僕が守らなきゃ…!
君の全て守らなきゃ…僕が君を守らなきゃ…!
愛してるから…大好きだから…!!
生徒指導室で僕は1時間も動けなくなっていた。
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