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2学期
婚約指輪の意味
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翌日、僕は田宮に早く登校するように連絡を入れた。
指輪を返すのに、他の生徒に見られると色々と面倒になる。
生徒の少ない朝の方がいいと考えたのだ。
生徒用玄関で田宮と待ち合わせした。
「おはようござい…ます。」
白い息を吐きながら彼女が登校して来た。
「おはよう。
ちゃんと持って来たか?」
「はい。
持って来ました。」
彼女は鞄から赤い小箱を取り出した。
「さっき、金井先生の車が入ってきたから。
今から行くぞ。」
「はい。
よろしくお願いします。」
お…素直…。
僕は田宮を連れてカウンセラールームに向かった。
ドアの前で深呼吸してからノックした。
コンコン。
「どうぞ。
おや、武本先生おはようございます。」
「おはようございます。」
「おはようございます。金井先生。」
田宮が僕の後ろで挨拶した。
「これは真朝君。
どうしてお2人で?」
そりゃ、不自然だろうなと思いつつ話しを切り出した。
「実はその…田宮が金井先生に婚約指輪をもらったそうで…。」
「もう聞いたんだ。
早いね。」
金井先生は照れることなく言った。
「ですが…その。
彼女は婚約指輪の意味をわからず受け取ってしまったらしくて。」
「すいません。
私…結婚は出来ないんです。
これはお返しします。」
彼女は赤い小箱を金井先生に差し出した。
「それで…武本先生が一緒にですか?」
「あ…僕にも少し、受け取ってしまった責任の一端がありまして…。
すいません。
ちゃんと…教えてなかったんです。」
「私あの…誰とも結婚出来ないんです。
その…理由があって…ごめんなさい。」
彼女は深々と頭を下げた。
誰とも結婚出来ない理由…僕には心当たりがあった…タイムリミットか…?
「いえ。
実は断られるのは想定内なんです。
ただ…指輪は持っていて欲しいんです。」
「どういうことですか?」
僕にはわからなかった。
だけど金井先生の挑戦的な視線が僕を突き刺していたのは感じ取れた。
「本来なら、婚約指輪とは他の人に結婚前提の恋人がいるから手を出さないようにということですが…。
僕が君に送ったのは君の側に僕がいたいということをわかって貰いたかったんですよ。
武本先生ではなくて…僕が君の側に。」
「えっ…と。
よく…わかりません…。」
彼女は戸惑いを隠せないでいた。
「持っていて下さい。
今の僕にはそれで充分ですよ。
僕の送った物を君が持っている。
それだけで意味はあるんです。」
「と…とりあえずじゃあ、大事に預かっておきます。」
彼女は戸惑って僕を見た。
当然だ…これは彼女へのプロポーズではなくて…僕への挑戦状だったんだ。
「ありがとう。
さて…武本先生、朝のミーティングがそろそろ始まりますよ。
真朝君はここで少しの間お茶を飲んで行って下さい。」
にこやかに…そして…したたかに…金井先生は僕を部屋から追い出した。
僕は素直に職員室へと向かった。
去り際に田宮の不安そうな顔が僕の眼に焼き付いた。
「記憶を取り戻さなければ…。」
僕はもう…動揺したりしない…目標を誤ったりしない…!
朝のミーティングで補習対象の人数と日程調整が行われた。
「以上です。
終業式まで半月です。
予定通りにこなして、来年に備えましょう。」
清水先生の仕切りでミーティングが終了した。
「金井先生と何を話してたんだ?
ミーティングルームから出て来たろ。」
「見てたんですか?」
朝の準備をしてる僕の肩を清水先生は掴んだ。
「別に大した用事じゃありません。」
「お前、最近俺に何も話してくれないんだな。」
「あ…すいません。
本当に大した事ではないんです。」
「男の顔だな…今のお前。」
「えっ…。」
「前は本当にガキっぽかったのに。
何もない奴がそんな顔するかよ。」
「清水先生は僕の顔をよく見てるんですね。」
「コミニュケーションの常識だろ。」
「さすが学年主任ですね。」
「男だが…人間味に欠けてる。
いい男としては後一歩物足りねえな。」
「いい男の道は遠いですね。」
僕は軽くそう言った。
「失礼します。
卒業制作のデザインが決定したのでお待ちしました。」
田宮 美月が職員室に入って来た。
3年の先生と話してる。
卒業制作のデザイン…。
おそらくまた妹の作品なんだろうな。
あの女には罪悪感という物がないのか…?
まるで…田宮 美月の分の罪悪感まで田宮 真朝が被ってる気がした。
全ての罪を彼女は背負ってから死のうとしている気がしてならなかった。
「あら、おはようございます。
武本先生。」
僕の視線に気がついた魔女が振り返った。
「どうしたんです?
最近の先生、セクシーですよぉ。
まるで…切ない恋をしてるみたい。プッ。」
「自分で言って自分で笑うな。」
魔女は僕の耳元で囁いた。
「クリスマスイブは要請があればウチの妹レンタルしますよ。
一泊二日で…あはは。」
「笑えないな。」
「あら、やっぱり武本先生変わりましたね。
直ぐに熱くなるかと思ってたのに。チッ。」
不快そうな顔で魔女は舌打ちした。
「どうも。」
「面白くないから帰ります。
ではまた。」
魔女は僕にこれ見よがしに手を振りながら職員室を出て行った。
指輪を返すのに、他の生徒に見られると色々と面倒になる。
生徒の少ない朝の方がいいと考えたのだ。
生徒用玄関で田宮と待ち合わせした。
「おはようござい…ます。」
白い息を吐きながら彼女が登校して来た。
「おはよう。
ちゃんと持って来たか?」
「はい。
持って来ました。」
彼女は鞄から赤い小箱を取り出した。
「さっき、金井先生の車が入ってきたから。
今から行くぞ。」
「はい。
よろしくお願いします。」
お…素直…。
僕は田宮を連れてカウンセラールームに向かった。
ドアの前で深呼吸してからノックした。
コンコン。
「どうぞ。
おや、武本先生おはようございます。」
「おはようございます。」
「おはようございます。金井先生。」
田宮が僕の後ろで挨拶した。
「これは真朝君。
どうしてお2人で?」
そりゃ、不自然だろうなと思いつつ話しを切り出した。
「実はその…田宮が金井先生に婚約指輪をもらったそうで…。」
「もう聞いたんだ。
早いね。」
金井先生は照れることなく言った。
「ですが…その。
彼女は婚約指輪の意味をわからず受け取ってしまったらしくて。」
「すいません。
私…結婚は出来ないんです。
これはお返しします。」
彼女は赤い小箱を金井先生に差し出した。
「それで…武本先生が一緒にですか?」
「あ…僕にも少し、受け取ってしまった責任の一端がありまして…。
すいません。
ちゃんと…教えてなかったんです。」
「私あの…誰とも結婚出来ないんです。
その…理由があって…ごめんなさい。」
彼女は深々と頭を下げた。
誰とも結婚出来ない理由…僕には心当たりがあった…タイムリミットか…?
「いえ。
実は断られるのは想定内なんです。
ただ…指輪は持っていて欲しいんです。」
「どういうことですか?」
僕にはわからなかった。
だけど金井先生の挑戦的な視線が僕を突き刺していたのは感じ取れた。
「本来なら、婚約指輪とは他の人に結婚前提の恋人がいるから手を出さないようにということですが…。
僕が君に送ったのは君の側に僕がいたいということをわかって貰いたかったんですよ。
武本先生ではなくて…僕が君の側に。」
「えっ…と。
よく…わかりません…。」
彼女は戸惑いを隠せないでいた。
「持っていて下さい。
今の僕にはそれで充分ですよ。
僕の送った物を君が持っている。
それだけで意味はあるんです。」
「と…とりあえずじゃあ、大事に預かっておきます。」
彼女は戸惑って僕を見た。
当然だ…これは彼女へのプロポーズではなくて…僕への挑戦状だったんだ。
「ありがとう。
さて…武本先生、朝のミーティングがそろそろ始まりますよ。
真朝君はここで少しの間お茶を飲んで行って下さい。」
にこやかに…そして…したたかに…金井先生は僕を部屋から追い出した。
僕は素直に職員室へと向かった。
去り際に田宮の不安そうな顔が僕の眼に焼き付いた。
「記憶を取り戻さなければ…。」
僕はもう…動揺したりしない…目標を誤ったりしない…!
朝のミーティングで補習対象の人数と日程調整が行われた。
「以上です。
終業式まで半月です。
予定通りにこなして、来年に備えましょう。」
清水先生の仕切りでミーティングが終了した。
「金井先生と何を話してたんだ?
ミーティングルームから出て来たろ。」
「見てたんですか?」
朝の準備をしてる僕の肩を清水先生は掴んだ。
「別に大した用事じゃありません。」
「お前、最近俺に何も話してくれないんだな。」
「あ…すいません。
本当に大した事ではないんです。」
「男の顔だな…今のお前。」
「えっ…。」
「前は本当にガキっぽかったのに。
何もない奴がそんな顔するかよ。」
「清水先生は僕の顔をよく見てるんですね。」
「コミニュケーションの常識だろ。」
「さすが学年主任ですね。」
「男だが…人間味に欠けてる。
いい男としては後一歩物足りねえな。」
「いい男の道は遠いですね。」
僕は軽くそう言った。
「失礼します。
卒業制作のデザインが決定したのでお待ちしました。」
田宮 美月が職員室に入って来た。
3年の先生と話してる。
卒業制作のデザイン…。
おそらくまた妹の作品なんだろうな。
あの女には罪悪感という物がないのか…?
まるで…田宮 美月の分の罪悪感まで田宮 真朝が被ってる気がした。
全ての罪を彼女は背負ってから死のうとしている気がしてならなかった。
「あら、おはようございます。
武本先生。」
僕の視線に気がついた魔女が振り返った。
「どうしたんです?
最近の先生、セクシーですよぉ。
まるで…切ない恋をしてるみたい。プッ。」
「自分で言って自分で笑うな。」
魔女は僕の耳元で囁いた。
「クリスマスイブは要請があればウチの妹レンタルしますよ。
一泊二日で…あはは。」
「笑えないな。」
「あら、やっぱり武本先生変わりましたね。
直ぐに熱くなるかと思ってたのに。チッ。」
不快そうな顔で魔女は舌打ちした。
「どうも。」
「面白くないから帰ります。
ではまた。」
魔女は僕にこれ見よがしに手を振りながら職員室を出て行った。
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