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2学期
僕の禁区
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「話を変えていいですか…?」
彼女は何故か眉間に力を入れて考え始めた。
「えっ…ああ。」
「先生にはご両親がいます?」
「あっ、母子家庭だったけど…。」
「そうですか。ではとても愛情を掛けてもらったんですね。
お母さんは、先生にどうなってもらいたい…とか希望を持っていました?」
「そうだなぁ…特別な事は。
普通の幸せな生活を…。」
「普通の幸せな…。」
彼女はスッと立ち上がって僕を見下ろした。
「先生にとって、普通は幸せなんですか?」
「えっ…いやそういう事じゃ…。」
「普通って…一般的にって事ですよね。
武本先生はこの世の中でたった1人なのに…。
個である自分より群れの総意を優先する事が幸せでしょうか?」
「一般的な幸せって意味なんじゃ…。」
「一般的な幸せが個人の幸せとは限りません。
むしろ、その逆の方が本質としては正しいのかと…。」
「待て待て!何か金井先生ばりの難しい話しになってきたぞ!
僕が話したいのはそんな話しじゃない。
そんな話しじゃなくて…。」
自分でも何の話ししてんのかわからなくなり、話しをストップさせた。
「じゃあ、どんな話しですか?」
「えっ…と。だから。田宮の好きな食べ物とか。」
一瞬、彼女は目を丸くして僕を見た。
「プッ。何ですか?そんなくだらない事聞きたいんですか?あははは。」
「笑うなよ!知りたいなって思っただけだよ。」
彼女はクスクス笑いながら答えてくれた。
「そうですね~。果物は全般的に好きかな…甘い物も好きだけど、一度に食べれる量は少なめ。先生は?」
「ラーメンとか肉じゃがとか、あ!豆腐も好きかな。甘い物も食べるけど僕も少しでいいかな。」
「先生は教師になりたかったんですか?」
「いや。本当はなりたくなかったかな。向いてないだろ。」
「そうですね~。」
「おい!そこは一応、否定してくれないかな。
同意されるとなんか虚しい!」
数分間、2人でくだらない会話をして笑いあった。
「後は…どんな話しが…。」
「…左腕の傷…見せてくれないか?」
僕の言葉に彼女はビクッとなった。
「困ったな…そんなに見たいですか?」
彼女は少し困惑して唇に指先を充てた。
そして、長袖のシャツをめくり包帯の巻かれた左腕を僕の前に出した。
「では…どうぞ。もう、糸は無いですよ。」
僕は恐る恐る彼女の包帯を取り外していった。
消毒用のガーゼをゆっくりとめくっていった。
肘の下から10センチくらいの傷があらわになった。
傷口部分が盛り上がり、跡がハッキリ残るのを予測出来た。
「ごめん…僕が君を傷付けたんだよな。」
「傷ではありません。勇者の勲章ですよ。」
「言い方を変えたって…。」
「じゃあ…こういうのはどうですか?」
「えっ…。」
「私が…武本先生に出逢えた証拠。消えない証拠。」
彼女のセリフにこっちが恥ずかしくなって来た。
「田宮…。ははっ。プラス思考すぎだろ。」
「そうですか?」
「…ありがとう。」
僕は彼女の包帯を巻き直した。
「田宮って、もしかして…O型?血液型。」
「ええ。よくわかりましたね。」
「初めはA型だと思ってたけど…変なところプラス思考だから…。」
「先生は根暗のA型ですよね。」
「繊細と言えよ!まったく。」
確かに、すぐ落ち込んだりするけど…。
「狭すぎる視野は大事な事を見逃します。
もっと大きな視野で物事を考えたら…きっと…先生は自分の迷路から抜け出せますよ。」
「えっ…。」
「心の鍵は自分で掛けたものです。
忘れている記憶も…。」
彼女は僕の中に何を見てるのだろう。
危険…久瀬の言った意味が正解なのか?または本当に…。
「田宮には…僕の…何が見えてるんだ…?」
彼女は答えなかった。
ただ、柔らかな笑顔を僕に向けるだけで。
マンションに帰宅した僕は機嫌がよかった。
田宮がブレスレットを受け取ってくれたし、結構話しも出来た。
僕は机の上の自分用のブレスレットに手を掛けた。
「やっぱり…可愛いい奴だな。
僕と彼女の出逢えた証拠か…彼女の身体に残る記し…。」
彼女の言葉に僕は救われていた。
そういえば…田宮は何故僕が記憶の欠けてる話をするのを嫌がったのだろう?
やはり…何か彼女には見えてるんだ。
僕の欠けてる記憶の意味が…。
そして、久瀬も僕が大切な物を失っているとハッキリ言った。
昔の事を調べてみようか…。
今までそんな風に考えた事なかったけど…。
そうすれば…僕は本当に彼女の側に立つ事を実感出来るかもしれない。
そして、久瀬の言う通り…彼女を救う道を見つけられるかもしれない。
でも…何故だろう。
少しだけ怖いような不安が胸の中に渦巻いていた。
…ボクハイナイ…
あの声が僕を引き止めようとしている気がしてならなかった。
禁止区域に足を踏み込んでしまうような不安が胸の中に広がった。
彼女は何故か眉間に力を入れて考え始めた。
「えっ…ああ。」
「先生にはご両親がいます?」
「あっ、母子家庭だったけど…。」
「そうですか。ではとても愛情を掛けてもらったんですね。
お母さんは、先生にどうなってもらいたい…とか希望を持っていました?」
「そうだなぁ…特別な事は。
普通の幸せな生活を…。」
「普通の幸せな…。」
彼女はスッと立ち上がって僕を見下ろした。
「先生にとって、普通は幸せなんですか?」
「えっ…いやそういう事じゃ…。」
「普通って…一般的にって事ですよね。
武本先生はこの世の中でたった1人なのに…。
個である自分より群れの総意を優先する事が幸せでしょうか?」
「一般的な幸せって意味なんじゃ…。」
「一般的な幸せが個人の幸せとは限りません。
むしろ、その逆の方が本質としては正しいのかと…。」
「待て待て!何か金井先生ばりの難しい話しになってきたぞ!
僕が話したいのはそんな話しじゃない。
そんな話しじゃなくて…。」
自分でも何の話ししてんのかわからなくなり、話しをストップさせた。
「じゃあ、どんな話しですか?」
「えっ…と。だから。田宮の好きな食べ物とか。」
一瞬、彼女は目を丸くして僕を見た。
「プッ。何ですか?そんなくだらない事聞きたいんですか?あははは。」
「笑うなよ!知りたいなって思っただけだよ。」
彼女はクスクス笑いながら答えてくれた。
「そうですね~。果物は全般的に好きかな…甘い物も好きだけど、一度に食べれる量は少なめ。先生は?」
「ラーメンとか肉じゃがとか、あ!豆腐も好きかな。甘い物も食べるけど僕も少しでいいかな。」
「先生は教師になりたかったんですか?」
「いや。本当はなりたくなかったかな。向いてないだろ。」
「そうですね~。」
「おい!そこは一応、否定してくれないかな。
同意されるとなんか虚しい!」
数分間、2人でくだらない会話をして笑いあった。
「後は…どんな話しが…。」
「…左腕の傷…見せてくれないか?」
僕の言葉に彼女はビクッとなった。
「困ったな…そんなに見たいですか?」
彼女は少し困惑して唇に指先を充てた。
そして、長袖のシャツをめくり包帯の巻かれた左腕を僕の前に出した。
「では…どうぞ。もう、糸は無いですよ。」
僕は恐る恐る彼女の包帯を取り外していった。
消毒用のガーゼをゆっくりとめくっていった。
肘の下から10センチくらいの傷があらわになった。
傷口部分が盛り上がり、跡がハッキリ残るのを予測出来た。
「ごめん…僕が君を傷付けたんだよな。」
「傷ではありません。勇者の勲章ですよ。」
「言い方を変えたって…。」
「じゃあ…こういうのはどうですか?」
「えっ…。」
「私が…武本先生に出逢えた証拠。消えない証拠。」
彼女のセリフにこっちが恥ずかしくなって来た。
「田宮…。ははっ。プラス思考すぎだろ。」
「そうですか?」
「…ありがとう。」
僕は彼女の包帯を巻き直した。
「田宮って、もしかして…O型?血液型。」
「ええ。よくわかりましたね。」
「初めはA型だと思ってたけど…変なところプラス思考だから…。」
「先生は根暗のA型ですよね。」
「繊細と言えよ!まったく。」
確かに、すぐ落ち込んだりするけど…。
「狭すぎる視野は大事な事を見逃します。
もっと大きな視野で物事を考えたら…きっと…先生は自分の迷路から抜け出せますよ。」
「えっ…。」
「心の鍵は自分で掛けたものです。
忘れている記憶も…。」
彼女は僕の中に何を見てるのだろう。
危険…久瀬の言った意味が正解なのか?または本当に…。
「田宮には…僕の…何が見えてるんだ…?」
彼女は答えなかった。
ただ、柔らかな笑顔を僕に向けるだけで。
マンションに帰宅した僕は機嫌がよかった。
田宮がブレスレットを受け取ってくれたし、結構話しも出来た。
僕は机の上の自分用のブレスレットに手を掛けた。
「やっぱり…可愛いい奴だな。
僕と彼女の出逢えた証拠か…彼女の身体に残る記し…。」
彼女の言葉に僕は救われていた。
そういえば…田宮は何故僕が記憶の欠けてる話をするのを嫌がったのだろう?
やはり…何か彼女には見えてるんだ。
僕の欠けてる記憶の意味が…。
そして、久瀬も僕が大切な物を失っているとハッキリ言った。
昔の事を調べてみようか…。
今までそんな風に考えた事なかったけど…。
そうすれば…僕は本当に彼女の側に立つ事を実感出来るかもしれない。
そして、久瀬の言う通り…彼女を救う道を見つけられるかもしれない。
でも…何故だろう。
少しだけ怖いような不安が胸の中に渦巻いていた。
…ボクハイナイ…
あの声が僕を引き止めようとしている気がしてならなかった。
禁止区域に足を踏み込んでしまうような不安が胸の中に広がった。
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