32 / 302
2学期
間違いじゃない!
しおりを挟む
僕は傷心のまま、食堂に向かうと、待ち伏せしていた葉月に捕まった。
網を張るなっつーの!
「先生、婚約者の話しをして下さい。」
「はあ?」
「ライバルの事は知りたいんです!」
「ははは。」
葉月を追いやる気力もなかった。
食欲もあまりなかったので、キツネ蕎麦を頼み
葉月とテーブルに着いた。
「おい!正面に行けよ!何で右隣に座るんだ?」
「恋人同士はこっちの方がいいんです。」
「恋人って…あのな!」
身体をすり寄せて来る葉月から身を離した。
その時、清水先生と田宮真朝が2人で食堂に入って来た。
2人だけ…?牧田はいないのか?
清水先生がこっちに気が付いた。
ニヤリ。
「!!」
不敵な笑いをされた!何だよそれ!その顔は!
田宮も気が付いた。
いつものように軽く会釈をして通路を挟んだ
テーブルに着いた。
何を話すのか気になった。
耳をそばだてようとした途端、葉月がすり寄って来た。
「先生!婚約者の名前って何?同級生だった人?どこが好きなんですか?」
「こらー!別にいいだろ、僕のプライベートだ!」
「だって!まだ結婚はしてないんです!
結婚破棄する事もあり得るじゃないですか!
不満はないんですか?」
「勘弁してくれ。」
「じゃぁ!携帯見せて下さい!
写真くらいありますよね!」
「あ、コラ!勝手に!」
久瀬の時と同様に葉月は素早く携帯を奪った。
横目に、清水先生と田宮が楽しそうに話すのが目に映った。
肩を揺らして、笑う田宮。
何で…その笑顔を僕には向けてくれないんだ…。
「…先生!ロック外して写真見せて!」
「あ、ああ…。」
僕は、気の無い返事で葉月を黙らす為に、香苗の写真を見せた。
香苗の写真フォルダには結構古い写真もあった。
「香苗さんって言うんだ。ふ~ん。可愛らしい感じですね。ああ!キス写真が!」
「な!葉月辞めろ!」
学生時代の古い写真で、香苗とのキス写真があったのを忘れていた。
田宮に気が付かれ…。
彼女と視線が合ってしまった。
クスッと笑った気がした。
うおおおお!葉月!お前はぁ!
「返せ!」
僕は携帯を奪い取った。
「先生、真面目。
彼女以外の女の写真1枚もないんだもの。婚約者一筋なんだぁ。
手強いな。」
「判ったら、諦めろ!」
そう葉月に言いながら、僕は胸の手帳に手を当てた。
香苗以外の彼女の写真…。
清水先生と向かい合って笑う田宮…。
僕は、無言で席を立った。
「あ、先生!?待ってよ~。」
葉月の声を背中にして、足早に食堂を出た。
旧理科室へ向かう途中の玄関ホール。
僕はここで先回りして田宮真朝を待ち伏せた。
2人だけで、話したかった。
田宮美月の事、絵の事、そして僕とのキスの事…。
殆どの生徒が帰宅、もしくは部活で廊下には殆ど生徒がいない今、彼女を呼び止めるチャンスだと考えたのだ。
10分から15分くらい待っただろうか。
予想通り、田宮真朝が来た。
彼女の姿を見ただけで鼓動が激しく高鳴った。
彼女が僕の横をすり抜けようとした時、僕は彼女の白く柔らかい腕を掴んだ。
「武本先生…?」
「話が…したい。2人きりで。」
「今、ですか?」
「今、すぐに。」
彼女は少し困惑していた。
しかし、僕が真剣な目をしている事に気がついてくれたようだった。
「わかりました。でも、ここじゃぁ…。」
「こっち…きてくれ。」
僕は彼女を連れて、新校舎二階にある生徒指導室に入った。
生徒指導室は二畳ほどの広さで簡易テーブルとパイプイスが2、3個あるだけの部屋だ。
「先生、お話しって何ですか?」
入ってすぐに彼女が聞いてきた。
「何故、文化祭のポスターを君が描いてる?
しかも田宮美月の名で。」
「…!…そう。知ってるんですか、その事。
でも、別に大した事じゃ…。」
「大した事だろうが!
田宮美月は、お前を利用してるんだぞ!」
僕は彼女の変に普通な態度が気にいらなかった。
「知ってます、それを承知でやってます。」
「自分の言ってる意味が、判ってるのか?」
「先生…。人間はいつでも死ねるでしょ。でも、死んだら生き返る事はない…。」
「なんだ…何が言いたい?」
彼女の言う意味が即座には理解出来なかった。
「今、生きてる世界を辛くて最低で嫌になるくらいの苦しみの果てに死ねたなら…私は誰よりも幸せに死ねる。
2度と生き返りたく、なくなるくらいに…死後の世界を幸せに感じられる。」
透明で今にも消えそうな気がした。
「田宮…お前…。」
「だから…大丈夫なんですよ…先生…。」
彼女は女神のような笑顔で僕の顔を見上げた。
刹那的な美しさを感じた。
「…先。」
「……。」
僕は彼女を強く抱きしめていた。
消えそうで、壊れそうで…。
「田宮…この前のキス…。」
「ダメですよ…先生…間違えちゃ。」
「えっ…。」
僕は思わず、腕を解いた。
「酔ってたからって、婚約者と間違えちゃうなんて。
先生ドジっ子だよ。」
僕の鼻をツンと突くと、彼女は僕の腕をすり抜け出て行こうとした。
「まっ!違…。」
違う!間違えなんかじゃない!
僕は本気で君の事を…!
ガチャ。
生徒指導室が開いて、ドアの向こうに清水先生が立っていた。
「なーんだ?使用中?昼寝しようと思ったんだけど…。」
「いいえ。もう話も終わりました。
ね。武本先生。」
「あ、はい。」
清水先生は鋭い眼差しで僕を見ていた。
「それでは失礼します。」
何事も無かったように彼女はスッと出て行ってしまった。
僕は、清水先生と生徒指導室で2人きりになってしまった。
「お前…何してたんだ?」
いつものふざけた感じではない、本気の声だ。
物凄い圧を感じた。
網を張るなっつーの!
「先生、婚約者の話しをして下さい。」
「はあ?」
「ライバルの事は知りたいんです!」
「ははは。」
葉月を追いやる気力もなかった。
食欲もあまりなかったので、キツネ蕎麦を頼み
葉月とテーブルに着いた。
「おい!正面に行けよ!何で右隣に座るんだ?」
「恋人同士はこっちの方がいいんです。」
「恋人って…あのな!」
身体をすり寄せて来る葉月から身を離した。
その時、清水先生と田宮真朝が2人で食堂に入って来た。
2人だけ…?牧田はいないのか?
清水先生がこっちに気が付いた。
ニヤリ。
「!!」
不敵な笑いをされた!何だよそれ!その顔は!
田宮も気が付いた。
いつものように軽く会釈をして通路を挟んだ
テーブルに着いた。
何を話すのか気になった。
耳をそばだてようとした途端、葉月がすり寄って来た。
「先生!婚約者の名前って何?同級生だった人?どこが好きなんですか?」
「こらー!別にいいだろ、僕のプライベートだ!」
「だって!まだ結婚はしてないんです!
結婚破棄する事もあり得るじゃないですか!
不満はないんですか?」
「勘弁してくれ。」
「じゃぁ!携帯見せて下さい!
写真くらいありますよね!」
「あ、コラ!勝手に!」
久瀬の時と同様に葉月は素早く携帯を奪った。
横目に、清水先生と田宮が楽しそうに話すのが目に映った。
肩を揺らして、笑う田宮。
何で…その笑顔を僕には向けてくれないんだ…。
「…先生!ロック外して写真見せて!」
「あ、ああ…。」
僕は、気の無い返事で葉月を黙らす為に、香苗の写真を見せた。
香苗の写真フォルダには結構古い写真もあった。
「香苗さんって言うんだ。ふ~ん。可愛らしい感じですね。ああ!キス写真が!」
「な!葉月辞めろ!」
学生時代の古い写真で、香苗とのキス写真があったのを忘れていた。
田宮に気が付かれ…。
彼女と視線が合ってしまった。
クスッと笑った気がした。
うおおおお!葉月!お前はぁ!
「返せ!」
僕は携帯を奪い取った。
「先生、真面目。
彼女以外の女の写真1枚もないんだもの。婚約者一筋なんだぁ。
手強いな。」
「判ったら、諦めろ!」
そう葉月に言いながら、僕は胸の手帳に手を当てた。
香苗以外の彼女の写真…。
清水先生と向かい合って笑う田宮…。
僕は、無言で席を立った。
「あ、先生!?待ってよ~。」
葉月の声を背中にして、足早に食堂を出た。
旧理科室へ向かう途中の玄関ホール。
僕はここで先回りして田宮真朝を待ち伏せた。
2人だけで、話したかった。
田宮美月の事、絵の事、そして僕とのキスの事…。
殆どの生徒が帰宅、もしくは部活で廊下には殆ど生徒がいない今、彼女を呼び止めるチャンスだと考えたのだ。
10分から15分くらい待っただろうか。
予想通り、田宮真朝が来た。
彼女の姿を見ただけで鼓動が激しく高鳴った。
彼女が僕の横をすり抜けようとした時、僕は彼女の白く柔らかい腕を掴んだ。
「武本先生…?」
「話が…したい。2人きりで。」
「今、ですか?」
「今、すぐに。」
彼女は少し困惑していた。
しかし、僕が真剣な目をしている事に気がついてくれたようだった。
「わかりました。でも、ここじゃぁ…。」
「こっち…きてくれ。」
僕は彼女を連れて、新校舎二階にある生徒指導室に入った。
生徒指導室は二畳ほどの広さで簡易テーブルとパイプイスが2、3個あるだけの部屋だ。
「先生、お話しって何ですか?」
入ってすぐに彼女が聞いてきた。
「何故、文化祭のポスターを君が描いてる?
しかも田宮美月の名で。」
「…!…そう。知ってるんですか、その事。
でも、別に大した事じゃ…。」
「大した事だろうが!
田宮美月は、お前を利用してるんだぞ!」
僕は彼女の変に普通な態度が気にいらなかった。
「知ってます、それを承知でやってます。」
「自分の言ってる意味が、判ってるのか?」
「先生…。人間はいつでも死ねるでしょ。でも、死んだら生き返る事はない…。」
「なんだ…何が言いたい?」
彼女の言う意味が即座には理解出来なかった。
「今、生きてる世界を辛くて最低で嫌になるくらいの苦しみの果てに死ねたなら…私は誰よりも幸せに死ねる。
2度と生き返りたく、なくなるくらいに…死後の世界を幸せに感じられる。」
透明で今にも消えそうな気がした。
「田宮…お前…。」
「だから…大丈夫なんですよ…先生…。」
彼女は女神のような笑顔で僕の顔を見上げた。
刹那的な美しさを感じた。
「…先。」
「……。」
僕は彼女を強く抱きしめていた。
消えそうで、壊れそうで…。
「田宮…この前のキス…。」
「ダメですよ…先生…間違えちゃ。」
「えっ…。」
僕は思わず、腕を解いた。
「酔ってたからって、婚約者と間違えちゃうなんて。
先生ドジっ子だよ。」
僕の鼻をツンと突くと、彼女は僕の腕をすり抜け出て行こうとした。
「まっ!違…。」
違う!間違えなんかじゃない!
僕は本気で君の事を…!
ガチャ。
生徒指導室が開いて、ドアの向こうに清水先生が立っていた。
「なーんだ?使用中?昼寝しようと思ったんだけど…。」
「いいえ。もう話も終わりました。
ね。武本先生。」
「あ、はい。」
清水先生は鋭い眼差しで僕を見ていた。
「それでは失礼します。」
何事も無かったように彼女はスッと出て行ってしまった。
僕は、清水先生と生徒指導室で2人きりになってしまった。
「お前…何してたんだ?」
いつものふざけた感じではない、本気の声だ。
物凄い圧を感じた。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる