忘却の魔法

『パンドラの箱』開放の世界

第4話

この事故のデータを元に、『忘却魔法』は精度を上げました。
またアナスタシアの話していた情報の流れや浮遊、遺伝、餞別について、まとめた資料は天外博士の研究熱を大いに高めたようです。
『パンドラの箱』の研究にも本格的に着手していったようです。

天外博士は根っからの研究者です。
事故を事故として置くなんて出来ないのです。
より改良、より精度を上げる。
そして…新たなる機能への研究意欲を抑えることは出来ないのです。

その後、真鍋と合流した私は驚きました。
脳への異常な干渉が原因なのか、髪の色から瞳の色まで全く別な物になっていたのです。
おそらく、遺伝子には組み込まれている物だと思うので父親よりの容姿に変化したものかと…。

そして…それはこちらとしても好都合でした。
真鍋の籍に入れ、真鍋 鈴と戸籍を作り、私の側に常に置くようにしました。
鈴には私の指導の元に、なるべく情報制限をコントロール出来る訓練をして、月に一度くらいの割合で真鍋の検診を受けさせていたのです。
…と、まぁ。
これが、梶さんと出逢うまでのお話しです。」

「はあ…。」
禿げ爺さんはやっぱり、いい人だったんだ。
隠蔽した事は許されるべき事じゃないが。
俺は少しだけ、ホッとした。
「では、何故。
アナスタシア…いえ、鈴だけが『パンドラの箱』の開放から生き残れたんですか？
どうにも、そこが解せないのですが…。」
確かに金井の言う通りだ。
「それは、鈴本人にもわかってるのか、わかってないのか…それすら私にはわかりません。
なるべく、その件について触れないようにして来ました。
鈴にとってはショッキングな出来事ですし。」

俺は手を繋ぐ鈴を見下ろした。
しかし、鈴は手をしっかりと握るだけで、何も話さなかった。

そりゃそうか…自分の周りで3人もの大人が血を流してバタバタと倒れたんだ。
そして、鈴の脳にも衝撃があったに違いない。
思い出したくない、思い出さなくてもいい物を勝手に彫り出す訳には行かない。
俺はそっと、鈴の手を握り返した。