忘却の魔法

悪魔の微笑み、天使の悲鳴

第5話

「なるほど…そこへ来て、この『田中 聖』。
行方不明の被験者が、天外博士と同等の死に方をしてる事が明らかになった訳だ。
もしかすると、もう一人の被験者も…。」
「ですね。可能性は十分あります。」

だからこそ、仁科 加奈子は生きている3人を前面に押し出して、2人の存在を隠したんだ。
やはり…仁科 加奈子との2度目の面会が必要になるか。

「お前、仁科 加奈子と会うつもりなら、かなり気を付けろ。
被害者の殺害方法がわからないままじゃ、かなり危険なリスクだそ。」
「そこなんですよね。
注意するにも…その方法がわからなければ…。」

俺は顎に手を当てて、深く考えた。
事前に危険を察知出来れば…ん？
危険を…事前に…察知？
……！鈴だ！
やはり、鈴と行かなきゃならないのか？
でも、それじゃ鈴自身に危険が…。
あーくそ！俺は1人じゃ何も出来ねぇのかよ！

かと言って、このままジッと待ってる訳にも行かねぇし。
…金井に相談するしかなさそうだな。

『近藤 陸』の事だけじゃない、アナスタシアやエリザベートの事もまだ謎だらけで、何１つ解決しちゃいない。
でも、1番解決しなきゃならないのは…天外博士の本当の死亡原因…。
もし、『忘却魔法』と、何らかの関係があるなら『忘却魔法』自体が凶器と化した事になる。
どうやったかは分からないが、無関係ではない気がした。

「塔矢～～話し終わったぁ？」
カウンター席から愛美が退屈そうに声を上げた。
「愛美！今後、同じ人間が近づいたら、警察に駆け込むとか、近くの人に助けを呼べ！
奴はイカれた野郎だ！
なるべく、関わるな！わかったな！」
俺は言いながら、封筒を鷲掴みして席を立ち上がった。

「仁科 加奈子に会う準備をします。
俺がまとめたデータやファイルを竹中さんに送ります。
万が一の為に何処かに保存しておいて下さい。」
「いつも、そうしてるよ。
ま、お前は俺の出会った男の中じゃ1番の悪運の強さだ。
いい情報掴んで来いや！」

ガッ！
竹中さんは俺の前に握り拳を掲げた。
「はい。何かしら掴んで来ます！」
俺はその足で金井の元に向かう事にした。
「塔矢ぁ～！」
背中で愛美の声がしたが、一刻も早く金井の所へ行きたくてウズウズしていた俺は、そんなのガン無視状態でコインパーキングまで戻った。