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ハードで楽しい深夜のお仕事

第10話

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 翌朝、僕は目覚ましより早く起きた。
…というより、結局あまり深く眠れなかったと言う方が正解かな。

 早く槇さんのところに行きたくて、目覚ましを待てずに布団から飛び出して、あれこれ落ち着かない動きで準備した。

「恵、そんなに慌てて。
 少しは落ち着きなさい。
 …本当に楽しみなのね。
 いってらっしゃい。」
「わかってるよ…。
 もう、出るよ。
 行ってきます!」

 僕は片手にお菓子の袋を握りしめ、ノートとUSBメモリー、契約書の為の印鑑を突っ込んだ少し小さめのリュックサックを背負って、玄関から外へ飛び出した。

 ガチャ。

「うっす!調子はどうだ?」
「おはよう。少し興奮してるかな。」

 革のリュックを背負いながら黒のスーツのズボンに片手を突っ込んで、奈落は僕に手を振った。

 駅に向かって歩きながら、僕らは話し始めた。

「仕事だぞ~。
 ニヤニヤしやがって。
 遊びに行くんじゃね~んだぞ。」
「そんな事わかってるよ。
 でも、奈落も嬉しそうじゃん。」
「まあな。
 槇ちゃんの仕事振りは勉強になるし、見ていて退屈しない。
 そう言う意味でも、俺も少しワクワクしてる。
 同じ仕事場なんてかなり久し振りだからな。
 っとお。忘れるところだった。
 …この前のお前からの調査依頼。
 樹と相談して、調査方向を変えて割安にしようかって。」
「調査方向?」
「20人調べるのもいいけど、無駄を省いた調査がいいんじゃないかってさ。
 まず、20人の中で図書委員でなおかつ、半分以上の本を借りた者の中で本を借りた数の多い奴の上位3名をピックアップして名前と現在の学歴を調べる。
 そして、その3人の事件前後のアリバイを調べる。
  樹が言うにはその方が単価が安く済むし、答えを明確に伝えられるそうだ。
 3人なら金額もかなり抑えられる。」
「なるほど…20人全員調べなくても効率よくふるいに掛けたんだね。
 確かに、下位の人を調べても確率的にはハズレっぽいしね。
 上位の方が事件に関係してる確率が高い…。
 そして図書委員に絞ったのは、奈落もこの事件に図書委員が無関係じゃないって感じてるからだろ?
 万が一、無関係だったとしても…あとでまた調べれば済む事だし。
 うん、それで良いよ。」

 さすが、プロだなぁ。
 奈落も樹さんも効率よく調査出来る方法も知っている。
 奈落も金額の交渉をしてくれたから、これを考慮してくれたに違いない。

 経験からくる物なんだろうけど…凄いよな。
 樹さんだって、どう見ても十代だし。
 自分の不甲斐なさが、胸に突き刺さるようだよ。

「行き先の確認は大丈夫か?
 この前は槇ちゃんの車だったし。」
「大丈夫。
 スマホにこの前の記録残してあるから。
 地図データを見れば大体わかるし、若葉平の地下通路に直結してるタワーマンションだから、順路表示を見れば大体わかるよ。」
「ふむふむ。」

「あのさ…そういえば、確かに街中だけど…都心からは離れてるよね、こっち。
 華京院は都心では活躍してないの?」
「ああ、それ。
 都心は新生院のテリトリーだからな。
 迂闊に進出出来ないんだよ。
 うちらは、都心からは離れた外円中心に活動してる。
 他に地方の主要都市にも点々と関係会社がある。
 
 …けど海外は、赴く程度。
 新生院の海外拠点には目に付かないように活動してるかな。」
「…新生院と被らないように仕事をしてるって事?」
「ん~~。どうかな。
 役割分担みたいだと思ってるけど。
 アイツらとまともにぶつかったり、戦ったりしても勝てる見込みが無い。
 それは現実として、俺等はちゃんと理解してる。
 だから、周りを固めるしか無いんだ。
 足場をしっかりと固めてるってとこかな。
 アイツらと同じ土俵では勝てなくても、違う土俵なら万が一があり得るし。
 
 地に足をしっかりつけた経営が、ウチのモットーなんだ!
 
 まずは、絶対に自滅しない経営。
 都心より地方が劣ってるって考えちゃいない。
 地方の利を最大限に生かす。
 土地代も安いし、大規模経営するには意外にも地方の方がやり易いんだよ。
 都心には移動手段が多数あるだろ。
 現代の交通網はかなり発展してるし。
 必要な時に行けばいいんだ。」
 
 そっか…これだけの親族経営グループなのに、都心で活動しないのには理由があったんだ。
 やり方次第では地方でも、都心に引けを取らない仕事は出来るって事なんだな。
 力がある人達にしか言えないセリフだよなぁ。
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