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スパイ活動と保健室同盟(仮)

第5話

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 今日は図書室閉館で、これ以上の情報は得られないと思い、加納先生に別れを告げて保健室から出た。

 僕は駐輪場で、カゴのグチャグチャになった自転車に鍵を刺した。
 
 下手に買い換えたり、カゴを直してもきっとすぐにやられる。
 カゴを鞄が入る程度だけ広げて、曲がったままにする事にした。
 今のところ、彼等にとってはこんなくだらない事が勲章の一部、戦歴の跡になる。
 たとえ犯罪の証拠になり得るとしても。
 優越感を優先してる彼等には、冷静に状況を分析するなんて事しないんだろう。

「ハンドルも少しだけ曲がってるけど、スピード出さなきゃ運転に支障はないだろう。」

 僕はゆっくりと自転車を駐輪場の外へ出して、自分の自転車を見つめた。

 大変だったな…ご苦労様。

 自転車にそう、心で呟いてから乗って帰宅した。

 時折、運転しにくさを感じたけど、逆にコイツも頑張ってくれてると思うと、自転車に更なる愛着が湧いてきた。
 赤い顔して頑張ってるみたいだ。

 全然ボコボコでカッコ良くないけど…僕にピッタリ。
 根性あるぞ!

 意外にも運転時にハンドル操作にテクニックを使ったりして、いつもは使わない筋肉を使うようで帰宅した頃には汗だくになっていた。

「ふう。
 これでランニングもしたら、いい筋肉がつくかな?」
 
 僕は自転車を駐輪場へと置いた。

 今日は母さんが休みで家にいる。
 奈落とのランニングは玄関前で待ち合わせなきゃならない。

 僕はアパートに入る前に、奈落にメッセージを送信した。

 『これから、ランニングする。
 支度したらすぐに出るから、玄関前で待っていて。
 走る前に聞きたい事もあるし。』

送信。

 ピロリロリーン。

 速攻で返って来た。

『OK。
 こっちは準備万端!
 ついでにアップしながらそっちに向かう。』

 僕は母さんの待つアパートのドアを急いで開けた。

「ただいま。」
「あら、お帰りなさい。
 丁度いいところに返って来てくれたわ。」

  目の前の母さんは、いつも着ているシャツにジーパンスタイルではなく、紺色のシンプルなスーツを着ていた。

「明日、仕事の面接でしょう?
 せっかくの2日連休はこの際面接対策にと思って、ふんぱつしちゃった。
 デパートでスーツを久しぶりに買ったの…どう?おかしくない?」
「おかしくないよ!
 清楚で上品な感じだ。
 明日、頑張ってね。」
「ありがとう。
 頑張って行ってくるわね。」

 母さんの気合が、僕にも伝わって来た。
 活気ある家…なんて明るくて、素敵なんだ。
 僕にはちゃんと居場所があるんだ。
 僕も母さんに負けてられないぞ!

「母さん!今からちょっと、走ってくるね。
 体力つけなきゃね。」

 僕はバタバタと大急ぎで、ランニングの準備をした。

 ドタバタしながらも、鞄を机の上に置き、ジャージに着替えて玄関を飛び出した。

 ガチャ。

「よう!行くか?」

 ドアを開けた途端、上下黒のジャージで髪を束ねて準備運動する奈落が目に飛び込んで来た。

「ごめん、少し待たせたかな?」
「いや、全然大丈夫。」
「あの、僕が朝と放課後保健室に行ったの知ってるよね。」
「ん?ああ、遠目で見てた。」
「じゃあ、中にいた生徒を見た?
 覚えてる?」
「んん?
 上級生っぽいのと同級生っぽいヤツだろ。」
「…おかしくなかった?」
「何で?
 何かされたのか?
 普通の生徒じゃないのか?」
「あ、いや…何と言うか…。」
「何だよ!ハッキリ言え!ハッキリ!」

 奈落はちょっとイライラしながら言った。
 
「えっと、ハッキリ言えるほど確証が無いんだけど…。
 あの2人、足音を一切立てないで歩くんだ。」
「…!?」

 僕のセリフを聞いた途端、奈落が見た事がない困惑した表情を見せた。
 そして、そのまま黙り込んでしまった。

「あの、変な事言ったならごめん!」
「いや…。
 情報調査員かとも思ったけど、樹のところの調査員が来る話しは聞いていない。
 他の…被験者の依頼…?
 まさか…な。
 こんな、被験者同士が近いなんて…。
 あり得ない…。
 しかも2人とも見た事ないヤツだった。
 ウチの関係者じゃないのか…?」

 奈落はブツブツとつぶやきながら、目を細めた。
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