上 下
82 / 280
情報とは最大の武器である

第4話

しおりを挟む
 僕の目の前の扉も開いたかのような錯覚を覚えた。
 僕が考えていた事にかなり近い。
 いや、それよりも確信に満ちた言葉だ。

「そこで…僕は彼女達を動物だと思って観察する事にした。
 メモも動物名にして。
 例えば、神楽は虎とか。
 もしメモを見られてもなるべくわからないように。
 そして、ワザと動物図鑑も持ち歩いたんだ。
 小学生低学年だったから全然怪しまれないだろうって、カムフラージュも自分で考えて。
 そうして行くうちに、相手が人間で感情があるって改めて気付かされたんだ。
 そして…感情があるなら、弱みもあるって。
 神楽は人の事はガンガン言うけど、自分の事を話すのは苦手だった。
 けなされるだけじゃなく、褒められる事を含めて。
 そこで、ある日また僕は神楽に引きずり回されたんだ。
 その時、以前から録音して貯めていた神楽を褒める家族のセリフをあらかじめ編集して…それを大ボリュームでスピーカーで流したんだ。
  神楽は途端に真っ赤になって僕を突き飛ばして逃げたんだ。」
「それ、あとで怒られたりとか…制裁とかはなかったの?」
「そこを…考えての褒め言葉だったんだよ。
 悪口なら告げ口や、批判されるのは確実だ。
 けど…褒め言葉なら、相手を責める事も出来ないし、ヘタに突っ込んで話しを蒸し返したいとは思わないと踏んだんだ。」
「小学生低学年で、そこまで考えたの?
 うわあ!奈落の言った通り凄い人だ…尊敬する!樹さん!僕、感動しました!」
「あ…その。
 観察し続けてると、冷静な判断出来るようになって来たんだ。
 何て言うかな…。
 第三者の目で見れるようになったんだ。
 それで…それから、神楽は僕にあまり構わなくなったんだ。
 挨拶とかはちゃんとしてくれるよ。
 神楽は…きっと認めてくれたんだと思う。
 あの答えに行き着くまでの、努力を神楽は直ぐに察したんだ。
 神楽はキツいけど…やっぱり、家族を信頼して愛してると、僕は観察していて感じたんだ。」

 『窮鼠猫を噛む』と言うのは聞くけど…噛むんじゃなくて、手なづける…そんな感じだ。
 完全に樹さんは、あの神楽さんに勝利したんだ。
 この目の前で、小さく座ってる樹さんが…あの狂犬のような神楽さんに…。

 情報を制するものが勝利に1番近い…。
 確かにそうだ。

 今の僕には、まだまだだ宮地達の情報が足りない。
 もっと、集めなければ。
 単なる復讐なんかで終わらせたくない。
 イジメを解決したいんだ。
 そして、それを実現させるには情報コントロールだ。
 樹さんの話しを聞いて、僕は俄然ヤル気が出てきた。

 「な!樹は頑張り屋だろ!
 俺も負けてらんねー!
 伝説の1つや2つ作らないと!」
「伝説…って、そんなんじゃ…。
 それに、奈落はそのままで充分カッコいいよ。
 僕にとってはヒーローだ。
 マッキーと2人で、よく助けて貰ったし。」
「2人ともカッコいいです!
 話しを聞けて本当に良かった。」

 樹さんはまた、顔を真っ赤にして奈落の腕で顔半分を隠した。
 あははは、樹さんも褒められるのが苦手な方だな。
 
 喧嘩の強い奴は拳が武器だ…でも、僕にはそんなもの持ち合わせていない。
 頭だって、特別良い頭なんて持ってない。
 だから…僕にはこの方法しかないんだ。
 情報こそ、僕が持つべき最終兵器。
 漠然としてるけど、それだけは確かだ。

「樹さん…情報収集するテクニック…尾行とかのってありますか?」
「えっと…僕は実働隊じゃないから尾行は…。
 でも、話しを聞くところによると、変装は無理にやると逆に目立つよ。
 …普通が1番…で、近いたり、必要以上に長時間はやめておいた方がいいかも。
 一定の距離で…長くても3、40分くらい。
 深追いは自分の足元を救われる。
 焦らずコツコツだって、天童さんが言ってた。」
「なるほど…。
 一気に情報集めをしようとしてはダメなんだ。
コツコツ積み上げる様にですね。」
「時間はかかるけど…確実に多くの情報を手に入れるには、これが1番だと思うんだ…。」

 奈落の腕の陰からも樹さんは、ちゃんと答えてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

逢魔ヶ刻のストライン

和法はじめ
キャラ文芸
女装巫女に使役され、心の闇を食うバケモノの少女。 彼女はある日、己が使役者の少年に恋をしている事を知った。 そんな彼女の、終わりと始まりの物語。 ※他サイト様にも投稿しております。

下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※ 下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。 毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。 しかし、飛んで仙になるだけだと思っていた冬弥はさらなる試練を受けるべく、空高く舞い上がったまま消えてしまった。 下宿屋は一体どうなるのか! そして必ず戻ってくると信じて待っている、残された雪翔の高校生活は___ ※※※※※ 下宿屋東風荘 第二弾。

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~

束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。 八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。 けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。 ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。 神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。 薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。 何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。 鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。 とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。

処理中です...