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必要とされる喜びと責任

第16話

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「失礼致します。
 お食事のご用意をさせて頂きます。」

 千代さんがすき焼きの用意をしに、中に入って来た。

「あらあら。
ナラちゃん、自分のお客様を放って爽さんとイチャつかないで下さいよ。
 ねぇ有村さん。」
「あっ!いえ…僕は…。」
「誰が誰とイチャついてんだよ!
 誤解を招くような事口走るな!」
「奈落!母親に対してその態度はやめろって、いつも言ってるだろ!
 千代さんすみません、私の教育がまだ至らなくて。」

 奈落と爽さんはゆっくりと席に着いた。

「いえいえ。カグちゃんに比べれば、ナラちゃんは優しいわ。
 それに、爽ちゃんや槇ちゃんが側にいるなら安心よ。
 失敗しても上手くフォローして貰えるし。」
「ババァ!俺はお前と同じドジっ子かよ!」
「…それ、否定出来ないだろ。
 ドジの実績はあるんだから。
 な、爽。」
「だな!ってか千代さんにババァはやめろって!
 本当に口の悪さだけは神楽と似てるよな。」
「いいのよ、ババァで。
 だって、ババァは世界共通で最高に強い生き物なんだから。
 うふふ。」
 「あ…。」

 …似てる…。
 本当だ、奈落に物の考え方が似てる。
 この人…弱々しく見えるけど…きっと、芯の通った強い人なんだ。
 僕は改めて、千代さんが奈落のお母さんである事を実感した。

「どうせ、いっぱいお肉食べるでしょ。
 ジャーン!今日は神戸牛と近江牛の二段構え!…とは言え家族割だから、特別仕様。
 特上セットの切り落とし部分。
 ま、味に違いは無いし、量が食べられるからお得よ。
 槇ちゃんの財布に優しくしないとね。」
「千代さん、ありがとう。
 さすが女将だね。
 しかも、華京院仕様を分かってる!
 この店、落ち着くんだよね。
 自分の家みたいで。」
「…槇さんの家って、日本家屋?」
「う…ん。そうと言えばそうだし…。
 違うと言えば違うような…。」
「家の説明は難しいな。
 何せ特別仕様な家なんだ…簡単に言うと、華京院団地みたいに、ど真ん中に日本家屋の屋敷があってね。
 それを囲うように、個別の家族の家がある。
 …で真ん中の屋敷は、家族親族出入り自由の共通の家。
 ま、年寄りの寄り合い場やら、子供の遊び場やら大浴場やらの使い方してるけど。
 各家は屋敷から廊下で繋がってるんだ。」
「はあ…想像が追いつきません。」

 爽さんの説明を聞いて、華京院要塞かと思ってしまった。
 千代さんは思い出したかのように、パンと手を叩いた。

「そうそう、あれは意外と便利なんですよ。
 仕事で家を開ける時も、御屋敷に子供を放っておけば、誰かがちゃんと面倒見てくれて。
 ヘタな保育園より助かるわ。
 何せ無料だから。」

 放って…だから、奈落や槇さんがオムツ交換した経験あるのか…。
 鍋をグツグツ煮ながら笑顔で話してる千代さん…言ってる内容が内容だけに、どう言う顔していいか困ってしまう。

「さて、これは料理長からのサービス。
 華手毬の握り。舞茸と山菜の天ぷら。茶碗蒸し。」
「うわぁ綺麗。食べるのもったいないくらいです。」
「食わないでどうすんだよ!食いもんなんだから。」
「奈落~そう言う意味じゃないって、ねぇ有村君。
 これだから美的感覚ゼロって言われるんだぜ。」
「槇、仕方ないだろ。
 そこはどうにもこうにも、華京院の欠落部分なんだ。
 ま、奈落は飛び抜けているけどね。」
「何だよ!2人してイジメか?
 そんなの無くても生きていけるわ!」
「あはは。奈落、そう言う問題じゃないと思うけど…。
 あれ、でも爽さんって…お洒落ですよね。
 今日だって…。」

 僕の質問に爽さんは困惑したように、視線を斜め上に泳がせた。

「これは…だな。
 仕事上の虎の巻ってのがあって…。」
「虎の巻!?」
「TPOに合わせて、服装を管理するデータファイルがあるんだ。
 華京院専用のな。
 元々情報収集は得意な方なんで、仕事着は基本的社内レンタルで使ってる。
 ま、タレントで言うところの衣装だよな。
 私を含めて、華京院の私服はみんなダサダサだよ。」
「みんな!?って槇さんや神楽さんとかも?」

 イメージが湧かなかった。
 だって、あんなにライダースーツの似合うスタイルの女性がダサダサ?

「ダサダサだな。
 何せ神楽なんか、学校指定ジャージ命だからな。
 しかも、小豆色横白ストライプ入り。
 しまいには、俺のジャージまでぶん取りやがった。」
「うちは基本的に効率重視なんだよなぁ。
 冬なんて、全ての男はスウェット上下でウロウロしてるし。
 夏は白Tに短パン。
 ちょっと外出る時くらいだよなぁジーンズとかって。
 そこを、改善したいって気持ちはあるんだよ。
 だから、勉強したりデータ集めてファイルしたり…でもそれだけじゃダメだって、最近感してて…だから芸能部署をあえて作りたいんだ。」
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