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必要とされる喜びと責任

第9話

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「では、改めて打ち合わせを始めたいと思います。」

 僕と奈落の座る対面のソファに槇さんが座って真剣な眼差しで話し出した。
 やっとまともな話し合いが出来る。

「まず会場となるフロアの見取り図を見てください。
 それほど広くなく、ステージも簡易ステージで高低差もあまりない。
 団長の豊田さんと話し合い、殺陣と床上アクロバットを組み合わせる事になった。
 狭いステージを広く見せる為に、照明効果を最大限に生かして、観客の視線誘導を仕組みたい。
 トータル時間も30分間あるけど、質疑応答で15分間は潰れる。
 実質15分弱の演技になると思う。
 これを踏まえて豊田さんに演技構成を考えて貰ってる。」
「あの…効果音の太鼓の位置…特に大太鼓です。
端にあるんですよね、やっぱり。」
「そうだね。
 一応バックバンドだし。」
「ど真ん中じゃダメですか…?」
「えっ…ど真ん中??」
「おい!有村!主役は忍者パフォーマーだぞ!」

 僕の意見に2人は目を丸くして驚いた。

 「そもそも…忍者は…忍びです。
 外国人に理解しにくいですが、そこの根本的設定は残したいんです。
 影だからこそカッコいい。
 大太鼓1つ中央に置くだけで、その…影っぽさが出ると思って。」
「イメージ出来ないんだが…。」
「大太鼓も大道具としても利用したいんです。
 中央に置けば大太鼓を叩くだけで、視線は必ず中央の大太鼓に集まりますし、大太鼓の影から忍者が颯爽と現れたりするのを想像してみて下さい。」
「インパクト!インパクトか!?
 音と静けさのメリハリ…大太鼓の利点を最大限に活かして、演出に繋げるんだね!
 うおお!考えつかなかった!
 それならこのスペースを最大限に活かせる!
 大道具の必要が無くなり、コストダウンに繋がる!
 忍者が主役って事で、頭が硬くなってた…。
 主役だと影の忍びの意味が薄れる。
 凄いよ!有村君!」

 槇さんが、見た事のないほど興奮して立ち上がった。

「ん…凄い…のか…そうか…。
 よかったって事かな…多分…。」

 奈落はトンチンカンな感じで首を横に倒して、ブツブツ呟いていた。

「団長の豊田さんとの話でも、太鼓の位置なんて音の効果だから端っこだって決めてかかって、考えてた。
 相変わらず目の付け所が違う!
 じゃあ、次…衣装の話しを詰めよう。」

 槇さんはデスク横の紙袋から忍者衣装を取り出した。

 「イメージしやすいと思って、豊田さんに借りてきたんだ。
 さっき、言ってたよね。
 この腰ひもを豪華な布するだけで、頭に見えるって。
 確かにそうだ。
 パッと見でその位が分かるのがいい。
 額当ても出来るだけ個別な飾りにしたいんだ。」
「そうですね…相手が外国人となれば複雑なデザインよりも簡単でわかりやすい物を使用した方がいいかと。
 言葉は悪いですが、すぐにマネ出来る感じ。
 マネをするって悪いイメージが強いですが、マネをした人達にSNSなどで情報拡散して貰えるって事ですから。」
「参ったな…ビジネスを何処かで学んだ経験はあるのかい?有村君。」
「えっ!?な…無いですそんなの。
 僕は普通の高校生ですよ。
 あ、そっか…長年イジメに合ってるから、ついつい周りの状況を予測して行動判断する癖がついたんです。
 先読みしていかないと、身の安全を守れませんから。」

 こんなのが役に立つ日が来るなんて、思わなかった。
 次に僕はくノ一の衣装の提案をした。

「くノ一の衣装には少し面積の大きな、友禅の切れ端を襟や袖に当てたらどうかと。
 布が小さければ、パッチワークみたいなツギハギでも構いません。
 すね当てにも、足りれば友禅を使えたらと思います。
 今のピンクの衣装でも、それだけで女性らしい華やかさが出ると…。」
「そうだね、わざわざ新しい物を注文しなくても手を加えるだけでいい…。
 それくらいの加工なら、ウチの業務用ミシで出来るし。
 大幅にコストダウン出来る。」

 僕と槇さんの話が盛り上がる中、奈落は少しつまらなそうにして、フロアをウロウロし始めた。
 すると、靴を脱いで急に逆立ちしてテクテク歩きだし、そのままデスクで仕事する少年の前で止まり、その少年の肩を足で叩いた。

ビクッ!

「ヒッ!」
「つまんねーんだよ~。
 相手しろよ~春樹はるき!」
「な、奈落さん!僕は仕事中です!」
「俺も仕事中~~!」
「わ!足でくすぐらないで下さい!わはは!」
「もっと、気楽に仕事しろよ~!
 気を張りすぎてっと、ぶっ倒れるぞ!」
「あはっ!あはは!た、助けて!槇さん!」

 奈落の暇つぶしに付き合わされた、少年…春樹君は槇さんに助けを求めた。

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