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被験者で金持ちになる

第1話

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 死にたい…。
 常日頃からイジメられ、バカにされてる。
 僕には生きる意味が無いんだ。
 消えたい…死にたい…。
 でも、母さん1人残して死ねない。
 僕の家は母子家庭で、母親は朝晩休みなく働いていた。
 彼女の望みは僕1人…。

 有村 恵ありむら けい15歳。
 高校1年になったばかり。
 中学でもイジメられ、高校デビューしたくてワザワザ遠い通学時間の掛かる高校に入ったのに、やっぱり無視され、弾かれ、イジメられ…。
 体格が小柄で消極的、成績も良くないし運動神経も無い僕は、恰好のイジメの的だった。
 自転車で往復2時間の通学が苦痛で仕方ない。

 まだ入学してひと月すら経っていないと言うのに…。
 夢も希望も、この歳にして失った。
 青春なんて、どこにあるんだ?
 僕は見た事や聞いた事はあっても、感じる事はない。

 せっかくの4月末の土曜日、ゴールデンウィーク初日だってのに、こうやってボロいアパートの奥で、昼過ぎまで布団を被ってる。
 全ての人間に生きる意味がある、なんて、幻想なんだ…。
 
 絶望の毎日に打ちひしがれ、か細い生命力のみで生きてる僕の前に…それは、突然訪れた。

 ピンポンピンポンピンポンピンポン!

 インターホンの連打!?
 宅急便にしては乱暴だ。
 小学生のイタズラかな…。
 まさか…クラスの奴らが来たとか!?

 布団を更に被って、身を縮めて丸くなった。
 
ドンドンドンドンドンドン!
 しつこい!これは単なる来客じゃないよ!
 僕は恐怖に怯えまくった。

 「有村さん!有村 恵さん!早く出て来れないと困ります!」
 
ドアの向こう側の声に聞き覚えは無かった。
 
 少し高めの、若い男の声…。

 僕はゆっくりと、布団を這い出てドアの覗き穴から、相手の顔を見た。
 知らない男…いや、僕と同じ高校生くらいの男子がいた。
 かなり若いのに、上下共に黒いスーツを着ていて違和感を覚えた。

 「あ、覗いてるのに出ませんね。
どうしても、開けてくださらないなら強行手段に出ますよ。
いいんですね?」
 
 強行手段!?
 まさか、ドアを壊すのか?
 ちょ、ちょっと待て!イジメにしてはやり過ぎだろー!

 カチャカチャ。ガッチャン。
 …えっ…鍵が…開いた!?

 「どうもー!御当選おめでとうございまーす!あなたは被験者に選ばれました!」
 
 うわっ!
 ドアが開いたと同時に彼は素早く、身体を滑り込ませてきた。
 肩幅が広くて背が結構高い。
 ウエーブのかかったボブくらいの、男にしては長髪の髪をかきあげて、営業スマイルを輝かせた。

「ひ、被験者!?えっと…憶えがないんですけど…。」

 …て言うか、鍵はどうしたの!?

「またまた~。あ、鍵すいません。
ヘアピンで開けちゃいました。
 古い鍵でしたので。
 あ、上がって話しますね。」
「えっ!あっ!」
 ズカズカと勝手に部屋に上がってしまった。

 ちょっと~~!何だよこれ!夢か?
 夢の中まで悪夢なのか?
 逃げ場が無い…。
 僕は自分の顔が、どんどん青ざめていくのがわかった。
 どう見ても、ケンカも強そうだし、詐欺師かな?
 どうしよう。
 悪徳業者となんか戦えないよ。

「あの…座ってもいいですよね。
ゆっくり御説明させていただきますので。」
 
 図々しく、彼はソファに座ると手に持っていた真っ黒の小さめのスーツケースをドン!とテーブルの上に置いた。

「有村さんも座って下さい。」
 
 言われておずおずと正座して座ったけど、ここ僕ん家だよね。
 怖くて視線を合わせられない。

「あの…。」
「先ずは、アンケートにお答え頂いた景品として、これを。」
「ユルキングの金のキーホルダー!」

 それには見覚えあるがあった。
 半月ほど前、偶然見つけた自殺サイトの広告で、アンケートに答えるとこのキーホルダーが当たると言うものだ。
 ユルキングとは小学生前に流行ったゲームの主人公で当時、金のキーホルダーはお菓子の当たりを10個集めないと貰えないレア物だった。
 貧乏だった僕ん家には、そんなお菓子も買えなくて諦めてた物が、アンケートで当たるかもしれないと…つい、安易にアンケートに答えてしまったのだ。

 どうしよう…こんな事になるなんて。
 これ以上のトラブルなんて…やはり、この世界は僕に死んで欲しいのかな…?
 死んで異世界に行けるのなら、今すぐにでも死んでやるのに…。
 涙を浮かべてキーホルダーを掴んだ拳を握る僕を見て、彼は大笑いを始めた。

「あー!はははは!
すいません。つい。
 これから、劇的にあなたの運命が変わります。」
そう言って、彼は小さめの書類専用のアタッシュケースを開けて見せた。

 ゴクリ…。
 僕は息を呑んだ。
 ネットやテレビ以外で、端から端まで札束の入ったアタッシュケースを見たのは、生まれて初めてだった…。
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