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王子の眠る白い城
第8話
しおりを挟む「とにかく、まずは大野先生に何とか、神部先輩の入院先を教えてもらわないと。
せめて、病院の名前だけでも。」
「ん~。
今行くと、重谷先輩と鉢合わせにならないか?」
「あ~。
ありますね、それ。
けど…。
悠長にしてると、重谷先輩に先手を打たれる可能性もあります。
土日のうちに病院を訪ねられるのが、ベストだと思うんですよ。」
僕は拳を額にコツコツとぶつけて考えた。
「加納先生を通して聞いて貰うのは?
保険医だし、事故後の元生徒の心配をしても不思議じゃないだろうし。
って、もしかしたら、加納先生はすでに知ってるかも。
事故直後はここの生徒だった訳だし、書類提出とかで、病院の記載部分を目にしてるかも。
先輩のお見舞いが口実なら、僕等の詳しい事情までは知らない、加納先生は病院名を教えてくれるんじゃないかな?」
「確かにそうかも。
重谷先輩にここで会う事も、特には話してないし。
図書室の怪人について、調べてたら、事件を知って、お見舞いに行きたくなったとか、こじ付けの理由を言えば、何とかなるかも知れませんね。
ただ、後になって迷惑かけちゃうのは、嫌ですよね。」
「ん…ここは、演技力を発揮しよう。
嘘も方便で。
大嘘で騙されたなら、加納先生に非はなくなる。」
「嘘ですか?
一体どんな嘘ですか?」
「怪人事件で、僕等は本の貸し出しについて調べていた。
図書室の怪人事件を調べてるのは、加納先生も知ってるし、ここまでは本当の事だ。
そして…、その後いくつかの本を調べてるうちに、ある封書を手に入れた。」
「封書なんて…、あ、これが嘘?」
「そう。
それも神部先輩宛の封書が本に挟まっていたという設定にするんだ。
封は閉じられ、勝手に宛名以外の人が開けるなんて非常識だろ。
本人に手渡して、事情を話す責任が生じるとは思わないかい?」
「そうですね。
人伝てに渡すにも、怪人事件の関係がある書物から出てきた設定なら、それも出来ない。
直接渡すのを申し出る事は自然な事ですね。
ん、イケるかもしれない。
その設定で、加納先生に交渉しましょう。」
やっぱり、神谷先輩はいざという時、頼りになる。
非力だけど、観察力や洞察力は、イジメられて嫌でも培われ、鍛えられている。
こういう時のスキルはレベルが高い。
「ほら、そこの角にある小さな棚。
生徒指導室で使える様に、封筒やらペンやらコピー紙が揃ってる。
あれ、使おう。」
神谷先輩は、室内の角の膝丈くらいの棚を指差した。
「なんだか、探偵よりもスパイ活動っぽくなりましたね。
手紙の偽造なんて。」
僕は苦笑いしながら、偽造に必要な物を棚から取り出した。
そして白紙の紙を封筒に入れて、封筒の宛名に、神部先輩の名前を書いた。
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