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王子の眠る白い城

第5話

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「そ、総体的に…視野を広げて、情報を集めるのは無駄な事じゃないと思うんです。
 事件当日が事件発端とは限らないじゃないですか。
 前後に何かヒントがあるかも知れない。
 ですから、神部先輩も旧図書委員であったのなら、関係ないとは言い切れません。」

 重谷先輩はそれほど、表情を変えず、笑顔を見せつつも、探るような感じで言葉が少し硬くなった。

「ふ~ん。
 なるほど、君は物事を判別する視野が広いんだね。
 君達の年代は、どちらかというと視野が狭く、自分の周りにしか注視しないものだけど。
 悪い事じゃない。
 けど…視野を広げ過ぎると、目標を見失いやしないかい?
 雑多な情報は思考を混乱させる。
 もう少し、的を絞って、当時の校内関係者を当たるのがいいと思うけど。
 神部はその事件のかなり前に、すでに病院内だ。
 無関係の確率は高いはずだろ。」

 やんわりとだけど、遠回しに神部先輩には触れるなと警告してるのを感じた。
 確かに重谷先輩のいう事は正論で、僕等のやろうとしてるのはイレギュラーな行為なのかも知れない。
 けど、図書室の怪人自体が異質な存在だ。
 セオリー通りじゃ、その正体になんて辿り着けない。
 誰もが想像出来る事なら、何ら事件にはならない!

「確かに、神部先輩が怪人本人では無いですし、僕個人も怪人だとは思いません。」
「だろ。
 何だ、分かってるなら…。」
「無意識の意識…。
 あるいは、不可抗力での関わり…。
 それは、意外にも人間関係では多々ある事ではないでしょうか?」
「…つまり、複数の関係者のうちの1人で、間接的に怪人事件と繋がってる可能性は否めないから、神部の事を知りたいと?」
「…そう、です。」

 空気が凍りついたように、息苦しくなった。
 重谷先輩は僕を、瞬きせずに直視した。
 明らかに、今までの重谷先輩の反応とはまるで違った。
 というより、きっとこの反応こそが、本当の重谷先輩なんだ。

 唇から血が出るかと思うくらいに、下唇を噛みながら、僕も視線を逸らさずに、直視した。

「…神部はそれこそ、下手な小細工なんて出来るタイプじゃない。
 本好きは異常なほどだったけど、それ以外は超が付くほどの天然なヤツでね。
 イケメンなのに、だらしないし、時間にルーズで、図書委員の仕事以外は、何も出来ないヤツだったよ。
 いつも、ヘラヘラ笑っていて。
 でも、そのマイペースぶりが、癒しになるヤツだった。
 おかげで、多少のいざこざが起こっても、ヤツのペースに巻き込まれて、うやむやになっちまう。
 …そんなヤツが…何であんな事故に…!」

 神部先輩の話しをする重谷先輩は、苦しそうな表情を浮かべた。
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