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笑顔に潜む、策士の罠

第19話

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 神谷先輩に連れ立って、僕は図書室前から保健室まで歩いた。
 保健室は明るく電気が点いていた。
 久しぶりに早朝から加納先生が室内で仕事をしていた。

「おや、早いですね、おはよう。
  君達が居るおかげで、こちらも保健室を開けやすいです。
 保健室は静かな場所としてしか認識されてないけど、僕としては、こういう風に生徒達のコミュニケーションの場としても、活用して貰いたいんですよ。
 成長期には、色々と身体の悩みも多いだろうからね。
 ここなら、そういう相談にも乗ってあげられるし。」
「おはようございます。加納先生。
 こちらこそ、いつも場所を提供して貰ってすみません。
 凄く、助かってます。」

 深々と頭を下げて感謝の意を示してる僕の横で、神谷先輩が加納先生の机の上を覗き込んだ。

「おはようございます。
 …何ですか、この写真。
 ミイラのコスプレですか?」

 神谷先輩の指差した写真には目の部分がほんの少しだけと鼻と口しか開いてない、包帯でグルグル巻きの人らしき写真が、書類に添付されていた。

「ああっ!いや…そういう訳じゃ。
 …まあ、君達は事情を知ってるし、この場だけで話しを納めてくれるだろう。
 …現在の森園さんだよ。
 来月からの登校前に、ケア対策として資料を提出して貰ったんだが…。
 この状態での登校となると、こちらもかなりのフォロー体制を強いられる。
 2年担当教師と連携して対策を練ってる最中なんだよ。」
「これが…森園さん…。
 なんて酷い…気のせいか、かなり痩せ細ってる気もするし…。
 悔しいです。
 今の僕らなら、少しは支えてあげられたかも知れないのに。」

 神谷先輩は苦虫を噛んだように、眉にシワを寄せて、拳を握った。

「大丈夫です…きっと。
 だって、それでもなお、学校へ通う事を諦めていないんですよ。
 これから、支えてあげましょうよ。
 重谷先輩が神部先輩を支えてる様に。
 遅いなんて事はありません。」

 僕の言葉に加納先生は頷いた。

「ええ、僕等教師も、黙って指を咥えてるなんて事、2度と出来ません。
 出来うる限りの万全なサポート体制を、試みようと、一丸となって動いてます。
 これからが、勝負です!
 …あ!でも、まだ他の生徒には、森園さんの現状は秘密にしてください。
 噂の先行は、問題を大きくしてしまいますから。」
「はい!もちろんです!
 な!有村君!」
「はい!絶対に他言しません。
 というか、他言できる相手もいません!」
「そこ…胸張って言える内容じゃないよ。」
「はははは。そうですね。」

 その後すぐに、加納先生は職員ミーティングの為に、資料を片手に職員室へ向かって行った。



 
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