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笑顔に潜む、策士の罠

第16話

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「工作室の隣の教室は普通の教室?」
「んー、違うだろ。
 なんか、教室ってより雑多な倉庫みたいな、ガチャガチャしてた感じだから…工作準備室とかじゃねーかな?」
「工作準備室か…。」

 そのうち、ここの鍵を用意してもらう事になりそうだ。
 とりあえず、重谷先輩との会談が済んでから判断しても、遅くはないはずだ。

「同好会とかの教室とは離れてるの?」
「見取り図だと、3階が主に同好会使用だな。
 ま、クラス教室跡も多いし、音楽室同様に騒がしい集団は高いところに寄せたんだろ。
  1階には端に演劇部の倉庫代わりの教室、動画配信同好会…重い物や大きい物、機材運びの為に1階にあるんだろう。
 2階は特別教室跡が多いせいか、ほとんど使われていない。」
「人目に付かない場所って訳だね。
 ありがとう。
 いいヒントになりそうだ。」
「お役に立てて、光栄ですな。」

「さて、そろそろ走ろうかな。」
「ちょっと、待て待て。
 少しステップアップしよう。
 こっから、アパートまでは、太ももをいつもより上げる意識をしながら走るぞ。」
「えっ、どのくらい?」
 
 太ももを胸に近づくくらいに上げた僕に、奈落が首を振った。

「いやいや、そんなん上げたら、そもそも走れないだろ。
 アゴ突き出すなって。
  少し…イメージでいいから、2、3センチいつもより持ち上げる感じ。」
「こ、こう?」
「そうそれ。」
「こんなんで、いいの?」
「お!言うねぇ。
 ま、やってみれば、すぐにわかるさ。」
「あ、うん。わかった。
 じゃあ行くよ。」

 走り出した僕は、数分も経たずに、奈落の言った意味を体感した。
 さっきまで、軽かった身体が、重く感じて、汗が滝の様に流れ出した。
 
 キツい!
 太ももの筋肉がキシキシ鳴って、何も考えられなくなり、無心のままアパートまでもがき走った。


「はあはあ…はあああ。」
「すぐに止まるな!ゆっくりダウンしろ。」
「はあ…はぁ…うげっ!」

 思わず、えづいてしまった。
 奈落は腕組みしてニヤニヤ笑っていた。

「辛かったか?けどな、すぐにそんなのは身体が慣れちまう。
 身体は心よりも結構頑丈に出来てる。
 鍛えれば、それなりに応えてくれる。
 1度鍛えた身体は、滅多な事じゃない限り、お前を裏切らない。
 世の中で1番信頼できる仲間は、お前自身、お前の肉体自身ってこった。」
「あ…ケホッ。
 ん、わかるよ…。
 奈落の言ってる事…凄く良くわかる。
 それに、自分を信じれない者は、他人をも信じられない。
 精神も身体も、鍛える事が出来るのは僕自身だ。
 僕は…自分を信じてる…そして、奈落も信じてる。」

  汗を拭きながら、沈む夕陽を背にした奈落を見上げた。
 奈落はニヤニヤ笑うだけだったけど…、僕の気持ちは、ちゃんと通じてると思った。

 「じゃ、俺は戻るな。
 明日はちゃんと、側にいるから安心しろよ。」
「うん。頼んだよ。」

 背中越しに手を振って、奈落はその場を離れて行った。
 僕は映画でも見るかのように、そんな奈落の背中に少しだけ見惚れて、その場に立ち尽くしてしまった。
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