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第11章 「さすが、俺が好きになった女性だな」

受け取った心 桜十葉side

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裕翔くんと一緒に、裕希さんの家に来ていた。



実は、さっきからすごく緊張しているんだ。



「桜十葉、大丈夫?」



私の隣に座っている裕翔くんが心配そうな表情でそう言った。



「う、うん…。大丈夫」



そうだよ、大丈夫だ。裕希さんは、裕翔くんのお兄さんなんだから。でも、緊張とはまた別の感情が心の中で渦巻いている。



それは、気まずさだ。とにかく気まずすぎる。



昔のことを全部思い出してからというものあの日の裕希さんの表情が頭にこびりついて離れない。私を拐った裕希さんの、あの悲しそうな表情。



そして、裕翔くんの耳元で言っていた言葉たち。今、ようやく理解したんだ。



「桜十葉ちゃん。そんなに緊張しなくても別に取って食べたりしないから」


「…おい」


「ほら、ね?ここに桜十葉ちゃんの護衛もいるし、…」


「彼氏だ」



裕希さんが話しだした途端、急に不機嫌になった裕翔くんを私は不思議に思う。



「あー、はいはい…」



裕希さんはそんな裕翔くんに苦笑いしてから、私の方に向き直った。そんな裕希さんに私もごくりと喉を上下に揺らして、改まって姿勢を正す。



「桜十葉ちゃん。まずは、今日来てくれてありがとう。来てくれるなんて知らなかったからすごいびっくりしたよ」


「は、はい」



私は震える手を抑えながら裕希さんに相槌を打つ。



そんな私の様子を見てなのか、裕希さんは悲しそうに眉を八の字にする。



「裕翔からもう話は聞いてるんだよね……。本当に今まで、ごめんなさい」



突然、裕希さんが床に頭をついて謝罪の言葉を口にした。それに私はびっくりして、すごく動揺する。



「えっ…!?あ、あの…っ、頭を上げてください!裕希さんは何にも悪くな、…」


「悪いよ、俺は。俺のせいで、桜十葉ちゃんは記憶を失ってしまったんだから…」



裕希さんは私の言葉を遮り、真剣にそう告げる。その顔は、やっぱり裕翔くんにそっくりで憎むことなんて出来ない。でも、私はそれ以前に、



「私は、2人のことを憎いと思ったことなんて1度もありません。だから、謝らないでください」



私は、記憶を失ったことを2人のせいだと言った覚えはない。



「桜十葉、…」


「桜十葉ちゃん、」



2人は目を見開いて驚いた顔で私を見つめた。そんなに驚くことなのかな…。



「そして、裕希さん。あなたのことを忘れてしまっていてごめんなさい。あと裕翔くんのことも忘れちゃっててごめんね…」



私が2人にそう謝ると2人はとても苦しそうな表情をして力強く首を振った。



「桜十葉、ごめん…っ。兄貴のことを忘れさせたのは、俺なんだから、謝らないで。全部、俺が悪いから」


「桜十葉ちゃん。桜十葉ちゃんが謝る必要なんて、どこにもない。これは、全部俺たちの責任なんだ」



私を想ってそう言ってくれるのはいい。だけど、謝られるのは、違うんだ。私は、2人に謝罪を求めてなんかいない。



これは2人が選択を誤ってしまった上で起きた出来事かもしれない。だけど、そうじゃないの。私が言いたいのは、そんなことじゃない。



だって、私は2人との思い出を思い出せてよかったと想っているのだから。誰かに出逢って、恋をして、奥深くまで交わって…。



だけどそこには、必ず悲しいことも、辛いことも混ざってる。でも、それを全部俺たちのせいだと謝られるのは、とても悲しい。



私が幸せだった時の思い出も、2人との思い出も、全部否定されてしまうような気がするから。私が今、こうして私でいられるのは、裕希さんと裕翔くんという大切な人の存在がいたから。



人の辛さも、幸せも何も知らない私じゃない。2人に出逢えて、私は良かった。



「私は、…2人に出逢えてすごく幸せだったよ。2人は、そうじゃないの?」



勇気を出して絞り出した声。2人は、揺れる瞳で私を見つめている。



もう、ないものねだりはやめようよ。



「桜十葉、俺は……桜十葉に出逢えて、良かったと思ってる。こんなに幸せな気持ちを教えてくれたのは桜十葉だから」


「俺もだよ、桜十葉ちゃん……。桜十葉ちゃんに出逢ってから、俺の世界には光が差したんだ」



「私はそんなに、すごい人じゃないよ……」


「桜十葉はすごい人だよ。強くて、優しくて、俺たちを幸せで包み込んでくれた」



私の言葉に、裕翔くんがすかさず否定した。そんな裕翔くんに、裕希さんが力強く頷いた。



ずっと、私は誰かに幸せをもらっている側の人間だと思っていた。でも、私もちゃんと、誰かを幸せに出来ていたのだろうか。それなら、今よりももっと強くこう思う。



「私は、2人に出逢えて本当に良かった」



そう、はっきりと言えるんだ。どんなに辛い過去を持とうとも、どんなに怖い過去を持とうとも、私は怯んだりなんかしない。幸せだった思い出を、否定したくなんかないから。



私は満面の笑みで2人に微笑んだ。裕希さんを傷つけた。明梨ちゃんを傷つけた。裕翔くんを、苦しめた。



本当は裕翔くんに話を聞き終わった後、自分は人を不幸にさせてばかりいたということに深く落ち込んだ。



私の存在がなければ、こんなことは起きなかったのではないかとさえ思った。だけど、違うんだ。私はちゃんと、人を幸せに出来ていた。他人と幸せを分かち合えていた。



なぜ、今までそれに気づけなかったのだろう。自分の鈍感さとバカさに笑いが溢れる。



「ふふ、ふふふっ」


「桜十葉?どうしたの?」



「大丈夫?桜十葉ちゃん」



突然笑い出した私を不審に思ったのか2人が心配そうな顔をする。



「なんか、安心しちゃって…。今まで悩んできたことは、案外簡単に解けてしまうんだなあって思うと……」



笑っていたはずなのに、涙が零れ落ちた。視界が歪んで、大きな粒の涙がどんどん溢れ落ちてくる。



「あ、あれ…っ?どうして、泣いてるんだろ…」



……っ!?



鼻腔に香った陽だまりのような優しい匂い。裕翔くんだ。裕翔くんは、私を優しく抱きしめていた。



「桜十葉、俺と出会ってくれてありがとう。絶対に幸せにする。だから、泣かないで」


「裕翔くん、……っ」



私は裕翔くんを思いっきり抱きしめ返した。



そんな私たちを、裕希さんは穏やかな表情で見つめていた。その顔は、なぜか少し嬉しそうにも見える。



私たちは、ようやく過去の柵(しがらみ)から解けて、あの頃の小さい時のような純粋さを取り戻せた。



「桜十葉ちゃん。裕翔。伝えたいことが、あるんだ」



抱きしめ合っていた私たちは、揃って裕希さんの方へ顔を向けた。裕希さんの表情は水面に広がる波紋のように、すごく穏やかだった。



「俺は、───坂口組の組長の後を継ぐよ」


「……っ!?」



裕希さんがその言葉を口にした途端、近くで裕翔くんが息を呑むのが分かった。



「俺、今まで裕翔に最低なことしてた。本当に、ごめん。でも、俺が組長になるってのは謝罪とかそういうんじゃないからな。絶ってぇに勘違いすんなよ」


「…兄、貴……」



裕希さんは裕翔くんに近づいて、トンッと力強く裕翔くんの頭に手を置いた。



「俺は、もう決めたよ。2人が幸せになれるように、裏方に回ろうってな。2人の住む街をずっと平和なままにしてみせる」


「裕希さん……?」



中学1年生の春。私は裕希さんと再会した。条聖学院の校門に入った瞬間、あなたの美しい姿が目に映ったんだ。あの頃裕希さんと交わした抱擁を、私は今も肌で思い出せてしまう。



裕希さんは、私をずっと大切にしてくれた。温かい幸せをくれた。キスを沢山してくれた。いっぱい抱きしめてくれた。沢山の愛で包みこんでくれた。



だけど、今私がこの世界で1番、誰よりも愛おしいと思える人は、あなたなんです。坂口裕翔くん────。



私はこの世界の誰よりも、裕翔くんのことを幸せにしたいって思っているの。



私は、裕翔くんの手を握った。裕翔くんは、裕希さんが言った言葉に未だに動揺していて、驚いたような顔で私を見つめた。



もう、握ったこの手を離さない。



この幸せは、私と裕翔くんだけのものではないから。裕希さんが、手助けしてくれたおかげだから。



「だから、裕翔。俺よりももっと幸せになれ。そして、ちゃんと桜十葉を幸せにするんだ。泣かせたりしたら俺がすぐにでも奪いに行ってやるから安心しろ」



私のことを桜十葉、と呼び捨てで呼んだ裕希さん。



その呼び方に何だかすごく懐かしさを感じて、また泣きそうになった。



「絶ってぇに泣かせたりなんかしねぇよ。桜十葉は俺のもんだ。でも、兄貴……本当にそれで、いいのかよ」



裕翔くんが言った言葉に胸がキュンと鳴る。



裕翔くんは複雑そうな表情をして裕希さんを見つめた。そんな裕翔くんに、裕希さんは困ったような表情で眉をしかめた。



「いいんだよ、それで。俺、気づいたんだ。桜十葉と付き合ってた時、本当はどこかで裕翔に罪悪感を感じてた。自分勝手な俺のせいで、裕翔を何度も傷つけた」


「でも、桜十葉と別れた時すげぇ辛いって思ってたのにすごい心が軽くなったんだよ……。こんな理由で振って、ごめんね。桜十葉ちゃん」



あ、また桜十葉ちゃん呼びだ……。でも、そうだったんだ……。私といることで、裕希さんは裕翔くんへの罪悪感を抱えていた。だから、私と別れることを選んだ。



「すごいよ、裕希さんは」



無意識で言ってしまった私の言葉に裕希さんが驚いた。



「桜十葉ちゃん……?」



「こんな言い方したくないんですけど、私が今、こうして裕翔くんと一緒に居られるのは裕希さんがすごく優しい人だったからなんだって、思うんです」


「……っ。俺は、優しくなんかないよ。むしろ最低な人間…」



「いいえ!裕希さんはすごく優しい人です!」



私はバッと裕希さんの手を掴んだ。こうでもしないと、裕希さんは私の言うことを信じてくれなさそうだったから。



「ほんと、かな…?俺、優しい人間?桜十葉ちゃんにそう思ってもらえてるならもうそれだけで満足だ」



裕希さんは、驚いたような表情をしていたけれど、すぐに優しい表情に戻った。



「裕希さん。あの日迷子だった私に、迷わずに声をかけてくれてありがとう。だから裕希さ、…裕希は、私よりももっと素敵な人を見つけて幸せになってください」



最初の言葉だけ、敬語を外した。そして、あの頃のようにもう1度、裕希、という名前を呼び捨てで口にした。



裕希さんは大きく目を見開いて、私を見つめた後、私を優しく抱きしめた。



「っ……!?」


「…10秒だけ、こうさせて」



私は、腰に回された裕希さんの手を振り払わなかった。裕希さんの体温は、裕翔くんと同じくらい、泣きたくなるぐらいに温かかった。



***



「桜十葉、今まで本当にごめんね。でも、これからは絶対に泣かせたりなんかしないから。だからずっと、俺の隣にいてください」



裕希さんの家から自分たちの住む家に帰り、今は裕翔くんとソファの上。相変わらず高級なソファは死ぬほど気持ちがいい。



「はい。裕翔くん」



裕翔くんの膝の上に座っている私の頬に裕翔くんの手が添えられる。裕翔くんが私に触れる時は、いつも壊れ物を扱うかのような優しい手付きなんだ。



裕翔くんの綺麗な顔が近づいてきて、お互いに引き寄せられるようにキスをした。



「んっ、……んん、ぁっ…」



1度だけのキスではなく、何度も何度も深いキスを交わす。高校生の私にはまだ早いというのに、大学生の裕翔くんはそんな私にはお構い無しだ。



「桜十葉、口もっと開けて…」



酸素を求めるように口を開けるとその隙間から裕翔くんの舌が入ってくる。口の中で絡まって、お互いの吐息を近くに感じる。



「んぁっ、んんっ……裕、翔くん、深い…よぉ」



息が苦しくなるまで裕翔くんにキスをされ続けて、お互いの唇が名残惜しそうに離れた時にはもう私はぐったりだった。



「桜十葉が兄貴のこと抱きしめたりしたからなんだからね」



裕翔くんが、私の頬を軽くつまんで不機嫌そうな表情でそう言う。



「それに、兄貴のこと裕希って呼んでた。俺のことはまだ呼び捨てで呼んでくれたことないのに」



裕翔くんの不機嫌さがどんどん増していく。



「裕翔くん、呼び捨てで呼ばれたいの?」


「当たり前でしょ。兄貴だけ呼ばれててめっちゃ嫉妬した。どうやって責任取ってくれるの?」



裕翔くんはさっきまでの不機嫌さはどこかへ置いてきてしまったのか、意地悪な表情で私の反応を楽しんでいるみたいだった。



「え、えと……っ!?」



私がどうやって責任を取るのか考えていたら、突然裕翔くんが私の首筋に噛み付いた。



「ひ、裕翔くんっ!?何してるの!?」



今まで裕翔くんにキスマークを付けられたことも、噛みつかれたこともなかったからすごく驚いた。噛む強さは弱いはずなのに、裕翔くんが噛み付いた跡はしっかりと私の首筋に残ってしまっている。



「これで、桜十葉は俺のだね」



裕翔くんはほんのりと色づくピンク色の頬で私のことを虚ろな瞳で見つめた。



まさか、…



「裕翔くん、酔ってる!?」



そう言えば、さっき私がお風呂から上がった時に何も入ってないガラス瓶が机に置かれてた気がする!



でも裕翔くん、普段からお酒はあまり飲まないのにどうしたんだろう?もしかして、私が原因?



「桜十葉ぁ、マクドナルドっていうハンバーガー屋さんあるでしょ?それをヤンキーたちの言葉で言ったらどうなると思う?」


「え!?何、マクドナルド…」



これが俗に言う“だる絡み”だろうか……?裕翔くんが私との距離をもっと縮めようとぎゅうっと私を抱きしめる力を強くする。



乾かしたばかりの私の髪をくるくると巻いて遊んだり、耳を甘噛してきたり……。



「ふぇっ……。ちょっと、裕翔くん!」



ぺろり、と耳を舐められてビクッと反応してしまう私の体。



「真苦度名留度って漢字で書くんだよー。面白いよね、KOKUDOの幹部たちが言っててさぁ~」



ふふふっと自分で言ったことを自分で笑うおかしな裕翔くん。何だか、赤ちゃんみたい……。こんな裕翔くんあまり見れないからちょっと嬉しいかも……。



だけどっ!やっぱり私の心臓が持たない!



最近全然裕翔くんが自分からイチャイチャしてこなくなったから1度付いていた耐性がなくなってしまっていた。



まあ、その理由は過去のいざこざが原因だったんだけど……。まあそれも解決出来たから良かったなあ…。



「裕翔くん。今の裕翔くん、すっごく可愛いね」



不服だったのだろうか。私がそう言うと裕翔くんは拗ねたようにほっぺたを膨らます。



「ねぇ桜十葉。俺と兄貴、どっちの方がかっこいい?」



耳元で低音のイケメンボイスで囁かれて、私の体はまたもやビクンと跳ねる。



裕翔くんはそんな私を見て悪戯っ子のように笑って私の背中をツーっと撫でた。



「ひゃあっ……!」


「ねぇ、どっちの方がかっこいいの!可愛いじゃなくて俺のことかっこいいって言って!」



こんな裕翔くん、天然記念物級にレアだよね!?写真撮った方がいいよね!?



そう思ってしまうくらい、今の裕翔くんは異常だ。



「ひ、裕翔くんの方がかっこいい、……からそれやめて…ひゃぁ」



裕翔くんの温かい手が、洋服の下から入ってくる。肌を直接触られて、くすぐったいしめちゃくちゃ恥ずかしい。



「なに、感じてるの?桜十葉の可愛い声、もっと聞かせて」



裕翔くんの手は私の体の色んなところを直に触れ、何も抵抗出来ない私はただその恥ずかしさに耐えるだけ…。裕翔くんは、絶対に嫉妬させてはいけない人だということを、今、思い出した。



「裕翔くんっ!?それは、ダメだよ……っ」



でも、恥ずかしいとは言っていられない状況になった。裕翔くんが、私の着ていたパジャマのズボンを両手で脱がそうとしたのだ。



一体裕翔くんは、何をするつもりだったの!?大体想像がつくけれど、高校1年生の私にはまだまだ早すぎて茹でだこのように顔が真っ赤に染まる。



「なんで、……俺、もうずっと我慢してた」



裕翔くんの酔った表情がさらに色気を増している気がする。裕翔くんは、何かの衝動を抑えるかのように辛そうに眉をしかめていた。



私たちの年の差は、6歳もあって、その分お互いが一緒に出来ないことも多い。だけど私は、罪悪感を持って裕翔くんと1つになることを望んでなんかいない。



大人になったら。裕翔くんには沢山、沢山我慢させてしまっている。だけど、ちゃんとルールだけは守りたいんだ。私は、変なところで正義心が勝ってしまうから。



「私が20歳になるまでとは言わないから、高校卒業したら、抱いても…いいよ…っ」



言ってしまった。めちゃくちゃ恥ずかしいことを裕翔くんに言ってしまった。私は恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠して裕翔くんの胸に顔を埋めた。



「こんなんで理性保ててる俺ってすげぇ…。分かった。桜十葉の言うことは、ちゃんと聞く」



裕翔くんは自画自賛しながら私の顔を自分の方へ向かせる。私は恥ずかしすぎて、頬が真っ赤っかだ。こんな姿、見られたくなかったのに…っ!



でも、恥ずかしさとは裏腹に、私たちはもう1度、引き寄せられるように抱きしめ合って、優しいキスをした。



「…も、もう寝よっか。裕翔くん」


「うん」



私たちが今居る場所は裕翔くんのプライベート部屋だけど、ここにベッドは置かれていない。ベッドはまた別のめちゃくちゃ大きい部屋にあるのだ。まあいわゆる寝室だ。



キングベッド並みの大きさのベッドに最初はとても驚かされたが、今ではもう慣れてきてしまっている。慣れというものは本当に怖いものだ。



裕翔くんが先にベッドに入り、私はその後に入る。



「桜十葉、もっと近くに来て」



裕翔くんは布団を被った私を優しく引き寄せて、おでことおでこが当たる距離まで近づいた。チュっとおでこに温かい唇が当たり、心がぽわんと温かくなる。



「裕翔くん。…世界一、愛してます」



裕翔くんの耳元に口を寄せてそう囁いた私は、今日の疲れが溜まっていたのか、裕翔くんの腕の中にいて安心しのか、すぐに深い眠りに落ちていった────。



「っ、……!!」



だから、裕翔くんが目を見開いて顔を真っ赤にさせていたのを知る由もなかった。



「俺も、…桜十葉が世界一愛おしい」



裕翔くんは、優しい瞳で私を見つめて唇にキスを落とした。



✩.*˚side end✩.*˚

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