総長様は可愛い姫を死ぬほど甘く溺愛したい。

彩空百々花

文字の大きさ
上 下
18 / 30
第10章 「……だから、ごめん。別れよう」

記憶の中の残響 桜十葉side

しおりを挟む
「桜十葉。こっちにおいで」



裕翔くんが先に部屋に入って、ベッドに座る。私の心臓はドキドキしていて、裕翔くんに近づいていく度にそれは大きくなっていく。



裕翔くんは両腕を広げて、優しい顔で私を待つ。



私は耐えきれなくなって、裕翔くんの腕の中に飛び込んだ。陽だまりのような温かい匂いに包まれて、幸せな気持ちになる。



裕翔くんは私の唇に優しく口づけをして、自分の膝の上に座らせた。裕翔くんは後ろから私を抱きしめる。



「桜十葉、ごめんね…」



私を抱きしめる力を強くして、裕翔くんが声を震わせながら何かに対する謝罪をする。でも、私にはその言葉の意味が分からなくて、何て返せばいいのか分からない。



「何が?」


「昔のこと。俺は、…桜十葉に酷いことをしたんだ」



裕翔くんの話している内容が、全く分からなくて不安になる。



「酷いって、……どういうこと?」



私は、何か大切なことを忘れている気がする。明梨ちゃんのことや、昔付き合っていたという裕希さんのこと。
裕翔さんとも、昔に何かあったのだろうか?裕希さんは裕翔くんのお兄さんだと言っていた。



「本当は、ずっと隠しておきたかったんだ……でも、兄貴だって、ちゃんと自分の犯した罪に向き合っている。それなのに、俺だけがこんなに幸せな気持ちになっちゃ…だめなんだ」



裕翔くんは、何かを勘違いしている気がする。その考えは、すごく歪んでいて、間違っているように私は思う。



私は真剣に裕翔くんの話に耳を傾ける。裕翔くんのいつも温かい手は今はすごく冷たくなっていた。だから、私は優しく裕翔くんの手を両手で包み込んだ。



「それに、私が関係してるんだよね……?」



正直、すごく怖い。自分の知らない、自分の記憶。それが良いことなのか、それとも悪いことなのか。その記憶の形を知らないのが、すごく怖いし、と同時にすごく悲しいんだ。



「正直、私はどんな過去があったとしても、裕翔くんを離したりなんかしないから。だから、全部話して。今、ここで」



私は裕翔くんを振り返って、目を合わせる。



「桜十葉、……」



裕翔くんの瞳から涙が溢(こぼ)れる。裕翔くん、最近泣いてばかりだ…。私も、泣いているけど。



前と同じだ。



そう思った瞬間、何かが頭の中でフラッシュバックした。



「っ、ふ……」



ピキピキと頭にヒビが刻まれていくような感覚に襲われる。私は思わず頭を抱えて苦しげな声を漏らす。カッ!!、と一瞬目を開けられないほどの眩い光に包まれて、私は力いっぱい目を閉じた。



「桜十葉っ……!!大丈夫!?何か、……思い出したの!?」



裕翔くんは涙を拭いながら必死に私に声をかける。辛いよ、裕翔くん……っう。



頭の中で、モノクロの写真のようなものが現れる。そこには、前と同じ公園。私も、行ったことのある公園。そこに、1人の小さな女の子と2人の中学生くらいの男の子たちがいた。



ぼやけていたものがどんどんはっきりと見えていき、やがてその2人の男の子の顔がそっくりなのが分かる。



っ……!!!!息が、止まるかと思った。ヒュッ!!と思い切り息を吸い込み、心臓がドクン、と嫌な音を立てる。



「裕翔くん、…っ、あの公園は何なの?一体、昔に何があったって言うの……っ?」



私は震える体を抱きしめて、そう声を絞り出す。何も分からないのに、私の全身がそれを思い出すことに警報を上げている。



「桜十葉っ!落ち着いて。全部これから話すから、もう、俺も逃げないから。すべてを受け入れてほしいなんて言わない。だから、……最低な俺を、許してほしい」



裕翔くんと目が合う。その綺麗で整いすぎた顔は、やっぱりあの男の子たちに似てしまっている。私と裕翔くんは、昔に会ったことがあるの…?もしかして、裕希さんとも…?



「っ、分かった…」



本当は、めちゃくちゃ怖い。私には、記憶喪失になってしまうほどの苦しい過去があったのかということ。そして、それを知ってしまったら裕翔くんが離れて行ってしまいそうで……。



でも、私ももう逃げないって決めていたんだ。だから、話を聞くよ。



私が落ち着いたのを悟った裕翔くんは、私を抱きしめる力を緩めて、ゆっくりと目を伏せた。



***



私は、小学1年生の入学式の日に、お母さんの言いつけを守らず道草を食い、1人で泣きながら歩いていたらしい。



そんな私を見つけ出してくれたのは、───裕希さん、だったらしい。裕希さんは、泣きながら歩いている私を心配して、声をかけてくれたそうだ。



でもその時、裕希さんの目の前に自分とそっくりな顔をした男の子が走ってやって来た。それが、裕翔くんだった。2人が初めて出会った場所は、まだ明るい路地裏のちょっとした空き地だった。



『お前、さ……もしかして俺の弟だったりする?』


『名字は、坂口ですか……?』


『ああ!俺、坂口裕希って言うんだ。お前は、…』


『俺は坂口裕翔です。奇遇ですね』



でも、この3人は、絶対に出会ってはいけなかった。ここからが、負の連鎖の、始まりだったのだーーーーー。



『裕翔、か。本当にいたんだな…俺の弟』


『それは俺のせりふです。今まで雲の上のような存在の人だと思っていたから、ちょっとびっくりしてます』


『はは、そんな風には見えないくらいに冷静だけどね、君。てかなんで敬語?家族なんだから、タメ口で良くない?』



桜十葉は、この2人の会話の意味を理解していなかったのかもしれない。でも、同じ傷を抱えた2人のことを、1番理解出来ていた唯一の理解者だったのだ。



『ふたりは、なんだかすごく寂しそうだね…。おとはは、ふたりに迷惑かけちゃって、……ごめんなさい』。



か細い声で、震えるようにして言った桜十葉に、柄にもなく心を奪われた。顔もそっくりで、性格もどこか似ている。そんな2人が好きになった女の子が、桜十葉だったのだ───。



『ううん。迷惑なんかじゃない。ほら、元気を出して』



桜十葉は一度下げた頭を長い時間上げることはなく、裕希さんはそんな私を優しく抱きしめたんだとか。



『大丈夫だよ、桜十葉。俺たちは迷惑なんて思ってないから。そうだよね、裕翔?』


『ああ』



私を見つめる目は、優しさで溢れていた。でも、その瞳の中に、純粋な桜十葉を見るその瞳の中に、抑えきれないほどの欲望と葛藤が垣間見えたのは、きっと気のせいなんかじゃない。



『桜十葉。ちょっとだけ遊ぼうか。あの公園で』


『っうん!あそぶ!』


『ふふ、すっごい嬉しそうな顔』


『ほら裕翔、笑わないの。まだ小さいんだから当然でしょ』


『はーい』



その空間はすごく幸せで、笑顔の溢れる場所だった。桜十葉は2人に挟まれるようにして、2人と手を繋ぐ。



さっきまでの悲しい気持ちは吹き飛んで、今はとてもワクワクとした楽しい気持ちだった。



『桜十葉は、俺と裕翔、どっちの方が好き?』


『ん~、裕希!』


『ええ、何で……』


『ほんと!?俺のこと、好き?』


『うんっ!裕希がおとはの初恋の人!』



本当はどっちが好き、とかはなかったのだ。ただ単に、裕希が最初に話しかけてくれた人だったから。でも、小さい頃の桜十葉にはまだ、恋なんて感情は分からなくて、一瞬戸惑ってしまった。



『桜十葉~!しっかり掴まっててねー!』


『うん!わっ、あはははっ!』



私は裕翔くんの膝の上に乗って、ブランコで遊んだ。ずっと、お嬢様として育てられて来て、公園でも遊んだことのなかった私。私は、2人のおかげで色んなことを知れたのだ。



嬉しかったのに。楽しかったのに。なのになんで、私は裕翔くんたちとの思い出を、忘れてしまっていたのだろうか。



楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、裕希さんたちは、位置情報システムで私を迎えに来た執事さんと一緒に私を家まで送り届けてくれた。



『じゃあ、桜十葉。ここで本当にさよならだ』


『いやあ、本当に助かったよ。君たちの名前は何て言うんだい?』


『俺は裕希と言います。桜十葉さんを無事に連れて帰ることが出来て俺も安心です』



裕希さんはお父さんに律儀にお礼をして、私の背中をそっと優しく押す。



『俺は裕翔です。俺は兄貴みたいに役に立てませんでしたが、桜十葉さんがまた笑ってくれてすごく嬉しいです』


『あら、素敵ね』


そう言ってふわりと笑った裕翔くんに、お母さんが頬をピンクに染めていた。



その後を独占欲強めのお父さんに嫉妬されて、朝まで離してもらえなかったというのはもう分かることだろう。



今思えば、あの2人と出会えたのは本当に偶然だったんだ。運命の歯車が、私たちの人生を狂わせた元凶とも言える。大袈裟だと、思うかもしれない。でも、本当にそれくらいのことだったんだ。



裕翔くんと裕希さんが、自分の名字を名乗らなかったこと。私を家まで送り届けてくれたこと。



その全部が、偶然でありながらも、必然的だった。



「他に好きな人が出来たから、もう別れてほしい」



君だったんだね。全ての元凶は。私の記憶がなくなった元凶は、運命の歯車が狂ってしまったせいなんかじゃなくて、全て君に出会ったせい。



酷いよ。裕希さん。こうなると分かっていながらも、もう1度私に会いに来た。何も知らない私は、それを喜ぶだろうと。ずっと、騙されていたんだ────。



裕翔くんも、裕希さんと同じだ。でも、そう思いたいのに、私はもう完全に嫌いになることが出来ない。だってこんなにも、裕翔くんから与えられる優しさに、心地良いと感じてしまっているのだから。



中学1年生の春。入学式。そして、私の誕生日。私はその日、裕希さんと再会して、どちらからともなく付き合った。



裕希さんとの未来しか、望んでいなかった。それくらい、裕希さんも私を大事にしてくれていたからだ。



過去の出来事を、1つひとつ思い出していく。でも、不思議と心は穏やかで、静かな海がゆっくりと波打っているよう。



過去を話す裕翔くんの声も、とても落ち着いていた。



2人だけの空間が、すごくすごく、愛おしい。



『桜十葉、聞いてる?別れてって言ってんの』


『ど、どうして?』


『どうしてって…、もうお前のこと好きじゃなくなったからだよ』



あの日の会話が頭にこだまするようにして浮かんでくる。あの日は、本当に最悪だった。でも、なんで、私は私を振った人のことを、何1つ覚えていなかったのだろう。




ねぇ、なんでかな。




裕希さん。



どうして私は、あなたに出会ったことも、付き合っていたことも、振られる前の思い出も、何1つ覚えていなかったのかな。



去年の冬の今頃。私は、裕希さんに振られて、裕翔くんに出会った。初めて出会ったと思っていた。でも、裕翔くんも違ったんだ───。



中学2年生。春。



1年はあっという間に過ぎて行き、私は中学2年生になった。裕希さんと付き合って、1年。中学生と大学生ということもあって、会える時間は短かったけれどすごく幸せな日々ばかりだった。



『桜十葉。1年記念、おめでとう』



目の前には、優しく微笑む裕希さん。夜景の綺麗な高級ホテルで夕食を食べて、今はホテルのベッドの上。私は綺麗に着飾ったドレスに浮かれて、ふわふわと宙を漂っているよう。



『うん。私にまた会いに来てくれて、ありがとう』



私も、満面の笑みでそう伝える。裕希さんは、顔を歪めて苦しそうに笑った。今思えば、もうこの時から裕希さんは私との別れを決意していたのかもしれない。



今になってはもう分からない。知ろうとも、思えない。だって私には、裕希さんよりも大切な存在が出来てしまったから。



その人になら、何をされたって許せる気がするんだ。



騙されるのは、すごく悲しい。取り返しの付かない過去があったとしても、その原因が私なのならば、2人を恨む要素なんてどこにもない。



それなのに、あなたたちは本当に臆病で、寂しがり屋で、欲しがり屋だ。幸せに溺れていたくて、誰かを騙す。でも、それはみんなも同じだ。自分が幸せになるために、他人を巻き込む。



幸せは、いつも、誰かを踏みにじって得たものの上にあるのだから。



人間とはそういう生き物で、1人では何も出来ない。幸せを得ることにも、誰かの許しが必要だったんだ。



他人を愛し、他人から愛される。夫婦は、1番近くにいる他人だと言う。それなら、カップルはどうなのだろうか。上辺だけの幸せに溺れた、馬鹿者なのだろうか。



それは、きっと違う。誰かを愛することにも、幸せになることにも、誰かの許しを請う必要なんて、どこにもない。



自分自身を愛する人たちを、笑う人たちがいる。



でも私は、笑ったりなんかしない。だって、きっと、誰かを愛することよりも難しいものは、自分自身を愛してあげることだと思うから。



自分を否定して、他人との幸せを拒む。そこに、いいとだめなんかないのに。



『桜十葉。これからもずっと、愛してるから』


『はい。私も、愛しています』



裕希さんはそう愛の言葉を囁いて、ダイヤモンドの光るネックレスを私の首に付ける。そして、私たちは互いに言葉を発することなくキスをしたんだ。



今となっては、そのネックレスはどこに消えてなくなってしまったのだろうか。裕希さんが私に別れを告げた時、一緒にどこかに消えてしまったのだろうか。



でも、なくなったっていい。消えてしまったっていい。



思い出は、愛と一緒に消えてしまうものだから。少なくとも私は、そうだったのだから。いつまでも癒えない傷を抱えているんじゃなくて、誰かにその傷跡を受け入れてもらえばいい。



私にとって、裕翔くんはそんな人だ。私を優しさで包み込んで、幸せに溺れさせてくれた。だから、私はもう覚悟を決めているの。



あなたと一緒に生きるって。あなたがどんな人でも、私はそれを全部受け入れる。どんなに危険だと分かっていても、あなたを想う気持ちは現実とは反対にどんどん大きく膨らんでいく。



責任は、ちゃんと取って。私のことも、全部受け入れて。



中学3年生。春。



裕希さんと付き合って、2年が過ぎた。幸せな毎日に飽きることはなく、私はこれまで以上に人生というものを満喫出来ていたと思う。



あの日、あんなことが起こるまでは。こんな出来事が起こってしまわなければ、私は傷つかなくても良かったのかもしれない。



『桜十葉様。準備はお済みになられましたでしょうか。そろそろ出発の時間でございます』


『うん。もう出来たよ』



私の側近の執事さんが恭しくお辞儀をした。私もそれに応えて笑顔を浮かべる。



『今日は学校をお休みする日で御座います。これからのスケジュールをお伝えします。まず、9:00からピアノのお教室で2時間ほどレッスンを受けてもらいます。そして10:30に今度の舞踏会で着るドレスの着付けをなさってもらいます』


『はは、今日も大変だ。まだあるの?』


『はい。もちろんです』



執事さんは苦笑いしながら私を見る。可哀想だ、と思っていそうな瞳。でも、私はそんなこと気にしない。だってこれは、私がやるべくしてやることだから。



『12:00からはダンスのレッスンで御座います。そして14:00からは琴や笛、茶道(さどう)などの日本の伝統の楽器や習慣を学んでもらいます。これで今日の予定は終わりです。確か、今日は裕希様と会う予定でしたよね?』


『うん。そうだよ。2週間ぶりくらいの会えるの』



『待ち合わせ時間は決めておられますか?その時間までに着くように送り届け致します。時間と場所を伝えてくださいましたら、手配致しますよ』


『じゃあ17:00に裕希の家の前で。これならどうかしら?』


『はい。可能で御座います』


『やった!じゃあ宜しくね!』



***



その日、私は一日のスケジュールを難なくこなして、裕希さんの家まで車で向かっていた。その道のりはすごくウキウキとした気分で早く会えないかな~、などと呑気なことを思っていたものだ。



裕希さんが1人暮らしをしている家まで送ってもらい、また何時に迎えに来てほしいかというのも伝えていた。



私は裕希さんに前に貰っていた合鍵を鍵穴に差し込み、扉を開ける。



1人暮らしにしてはとても大きくて豪華すぎる一戸建ての家。そう言えば私は、裕希さんが坂口組の組長の息子だったことを知らなかったな。



何も告げられないまま、別れを告げられたんだっけ…。



過去の記憶とは、もっと辛くて怖いものだと思っていた。でも、そんなに怖がることでもなかったのかもしれない。そして、固く閉じられていた鍵が開けられた時のように、心地良ささえ感じてしまう。



裕希さんの家の扉を開けて、家の中に入った。いつもは明かりが付いている廊下に、明かりが付いていなかったのを訝しげに思った私は足早に裕希さんの部屋に向かったんだ。



そして、部屋を開けようとドアノブに手を伸ばしかけた時、部屋の中からガタンッ!!という大きな音が聞こえてきた。



『桜十葉かっ!?こっちに来るな!!早く逃げろ!!』



ヒステリックな声が聞こえたかと思った瞬間、部屋の中から黒装束の男たちと裕希さんが勢いよく倒れ込んできた。



3人の男の手には、重そうな黒い拳銃。



私の心臓はそれを見た瞬間ドクドクと嫌な音を立て始めた。それは次第にどんどん大きくなっていき、やがて激しい動悸がしてきた。



裕希さんは3人の男たちによって両腕を抑えられて身動きが取れないみたいだ。



『桜十葉っ!!!!早く逃げるんだ!!俺のことはいいから、早く逃げてくれ!!!!』



裕希さんは必死の形相で私に声を荒げる。それでようやく私の存在に気づいた男たちが私に拳銃を向けた。



恐怖で足がすくんで、体が全く言うことを聞いてくれない。



『裕、希…どうしよう、体が動かない…っ!』



あれこれしているうちに、男たちの仲間が続々と現れて、私は後ろから襲われた。



『んっ……!?』



ビリっ!!と首元に何かが当てられたかと思うと、そこで一瞬にして意識が途切れてしまいそうになる。私が意識を失くす前、裕希さんが何かを言っていた気がするのに、それを思い出すことは出来なかった。



『てめぇ、桜十葉に何しやがる!!!!ぶっ殺すぞ!!!!』



血管がはち切れてしまいそうなほどの形相で、裕希さんは自分を抑えていた3人の大の男たちを押しのけて私に抱きつくようにして守ったのだ。



『桜十葉は関係ないだろう!!!!殺すのなら、俺を殺せ!!!!桜十葉には、お前らの汚ねぇ指1本でさえ触れさせねぇ!!!!』



昔、坂口組と対立する劉娥(りゅうが)組というヤクザのグループがあった────。奴らは坂口組よりたちが悪く、逆らった人間を片っ端から殺していくような悪徳無人のグループだった。



坂口組も、よっぽどのものだが劉娥組はそれを超えていたのだ。極悪非道を美徳とし、人を殺すことに躊躇がない。裏で取引される金。その数、



約9100兆円。



劉娥組は今、アメリカの巨大組織と結合し、力を強めている。日本でも発砲事件が絶えず起こるようになり、住民はあまり外に出ることはなくなっていたのだ。



でも、桜十葉にはその知識がなかった。理由は、汚い俗世を知ることを両親が許していないからだ。でも、今回はその無知のせいで、危険な目にあってしまったのだ。



『っクソ!!おい、離せよ!!』



裕希さんは私を庇ったままでは全面的に戦うことが出来ずに、私と一緒に拉致されてしまったそうだ。



その時の記憶は私にはないから、裕翔くんの話を頭の中で想像した。それはすごく、おぞましいものだった。



『降ろせ』



私と裕希さんは乱暴に車から降ろされて、外に出た。移動中は布袋を頭に被せられていてそこがどこかさえ分からなかったらしい。



『くそっ!どこに連れていきやがる!!』



裕希さんはそう吐いて、身動きの取れない両手を必死に動かそうとする。私たちはその後、大きくて汚い、真っ暗闇の倉庫に閉じ込められてしまったそうだ。



ぽたぽたぽた…。水の滴る音がどこかからか聞こえて、足を刺す冷たい風によって私は目を覚ました。



『ん、……』


『っ!!桜十葉、目ぇ覚めたのか?』



裕希さんの声がすぐ近くの耳元で聞こえた。でも、何でだろう。身動きが全く取れない。私と裕希さんは背中合わせになるようにして、ロープで縛られてしまっていた。



『裕、希……?ここは、……ってかどうなってるのこれ!!』


『桜十葉、落ち着いて!今はそうやってパニックに陥っている場合じゃないんだ!』



裕希さんは動揺する私を必死に宥め、私を落ち着かせた。



『俺たちは、拉致られたんだ。ここがどこなのかも、分からない。でも、俺たちを拉致した相手が誰なのかはもう想像がついている』


『だ、誰なの……?』



私は恐る恐る聞いた。



『劉娥組の若頭、玖音咲羅(くおん さきら)だ。俺は、あいつとめちゃくちゃ仲が悪い』



劉娥組の若頭、玖音咲羅。名前だけは聞いたことがある。私も世界的に有名なお嬢様だから、命が狙われないという保証はない。だから、お父さんが日頃から警戒すべきヤクザの組の名を私に教えてくれていたんだ。



でも、なんで劉娥組の若頭と裕希さんが仲が悪いの?



あの時疑問に思っていたことを、もっと深く考えるべきだったんだ。その違和感に、疑問に。もっと早く、気づくべきだったのに……。



そうしたら今よりも少しは、裕希さんは苦しまずにいられたかもしれないのに。



でも、今さら自己嫌悪に陥ったところで過去は何も変わらない。変えなきゃいけないのは、これからの未来にあると思うんだ。



『え、……それじゃあ、私たちどうなっちゃうの!?』


『桜十葉、だから落ち着いて!!意識が戻ったって気づかれたらやばいぞ!!』



裕希さんは真剣な目を私に向けて、唇の前に人差し指を立てた。



『っうん。分かった……』



恐怖で手が冷たくなる。体が震える。それでも、背中に感じる裕希さんの温かい温もりが私を安心させた。



『どうやって、ここを脱出するの……?』



何か脱出する方法はあるのだろうか。ここを抜け出すための、脱出方法は。



『方法なら、あるよ。桜十葉、俺についてきてくれる?』


『うん。ついていくよ、どこまでだって』



そう言うと裕希さんは嬉しそうに頬を緩めて、真剣な表情に戻って1度頷いた。



『…もう、来てくれると思うから』



裕希さんが深く息を吸った、その瞬間───。



バァァァン!!!!と倉庫中を響き渡る轟音が聞こえた。誰か、来たの!?でも、誰が来たのかはまだ分からない。逸る気持ちを必死に抑えながら、私を唇を力いっぱい噛み締めた。



『『『おい!!あいつを止めろ!!!!壊されっぞ!!!!』』』



複数人の野太い男たちの声がしたかと思うと、真っ暗闇の倉庫の中に眩しいほどの光が差した。



『誰だよ、俺の兄貴を拐(さら)ったヤツはよぉ……!!!!』



思えば、あの時もそうだった。君はいつも、私がピンチの時に、風のように現れる。



『裕翔っ……!!こっちだ、桜十葉もいる!!!!』


『はっ!?桜十葉がっ……!?』



さっきの殺気を纏った声が急に驚愕したものに変わる。バタバタッ!!という足音がどんどん近づいて来て、私たちの前にフードを被った男の人が現れた。



男の人は、私たちの前まで来ると被っていたフードを激しく振り払い、私と目を合わせた。



『桜十葉っ!?大丈夫か!?なんでお前もいるんだよっ…!』



裕翔くんは苦しげに眉をしかめて、私の目の前でしゃがみ込んだ。私は、目の前に突然現れた、裕希さんと全く同じ顔をした男の人に目が釘付けになっていた。



『だ、だれ……?裕希が、2人……?』



私は驚きと不安の入り混じった声でそう問うた。だって、意味が分からないんだもん。



『ふ、……いや、俺は裕翔だ。覚えてないか……』



裕翔くんは残念そうな声でそう言って、苦笑いをした。



『え、どこかで会ったことが?』


『ううん。忘れてるなら、別にいいよ』



裕翔くんは寂しそうな表情を一瞬だけ浮かべて、すぐに立ち上がった。今は走行していられないんだった…!裕翔くんは、服のポケットに手を突っ込んでそこからキラリと光るナイフを取り出した。



心臓が一瞬止まりそうになった。



『別に怖がらなくてもいいよ。ロープを着るだけだから』



裕翔くんは私を落ち着かせようと、優しく笑ってナイフを手で隠す。バチッという音が聞こえた後、私たちの体に縛り付けられていたロープが離れていった。



『ありがとう、裕翔。助かったよ』


『…ああ』



裕翔くんは俯きがちに唇をぐっと噛んで、私たちと目を合わせようとしない。



『……なんでだよ。こんなの、聞いてねぇよ』


『ご、ごめんな…裕翔』



裕希さんは頭の後ろに手をやって申し訳なさそうに眉を下げて、裕翔くんに謝る。



どうして、裕希さんが謝らないといけないんだろう?



あの頃の私は、1ミリだって気づけていなかった。あの頃から、裕翔くんが私のことを好きだったってことに。



『なんで、桜十葉まで捕まえられてんだよ……。おい、兄貴、あんた一体……何やってんだよ』



苦しそうに顔をしかめながら軽蔑したような瞳で裕希さんを睨んだ裕翔くん。裕希さんはビクッと体を震わせて裕翔くんのことを見た。



『裕、翔さん……?私は別に大丈夫ですよ』



この空気を崩したくて、私は裕翔くんを宥めるようにして声をかけた。



でも、奥の方からガタッと大きな音がしてさっきの男たちがこちらに走ってくるのが分かった。



『っクソ!!桜十葉、柱の陰に隠れていろ!!』



裕翔くんが叫んで、私はぐっと後ろに体を引かれた。



『もう、桜十葉に触れさせたりなんかしないから』



耳元で裕希さんの低い声が聞こえて、心臓がドキンと鳴る。今はそんな場合じゃないというのに、私の心臓のドキドキは止まってくれない。



『貴様、よくも壊してくれたな……っ!!』



1番体格の良い男が裕翔くんに掴みかかる。多分、倉庫のドアを壊したことを言ってるんだ!



『ああ?お前、誰に向かって口聞いてんだよ』



裕翔くんは大の男を軽々と掴み返し、鋭い蹴りで相手を懲らしめる。



『俺はあの坂口組の組長の…』


『裕翔!!それは言っちゃだめだ!!桜十葉がいる!!』



私の前で私を庇ってくれていた裕希さんが裕翔くんの言おうとした言葉を必死に遮った。



『クソがっ!!黙れよ兄貴』



この時まだ21歳だった裕翔くんは、今よりももっと総長様らしかったな……。性格も今より刺々しくて、言葉遣いが荒い。



でも、私はそんな裕翔くんじゃ嫌だと思った。いつも優しくて、丁寧な言葉を使う裕翔くんの方が、すごく裕翔くんらしいよ……。これは、自分勝手な考えだ。それでも、願ってしまうんだ。



不良みたいな裕翔くんは、本当にヤクザの息子みたいだから。本当に、あっちの世界に行ってしまいそうだから。だから、裕翔くんが優しいままでいてくれたら、私と一緒の世界に居てくれるかもしれない。



『おいおい、裕翔。何やってくれてんだよ』



突然、ハスキーで大人っぽい声が聞こえて銀髪の男の人が現れた。月明かりに照らされた髪がキラキラと光って、とっても幻想的だった。



『俺は、玖音咲羅。父と母は5年前に離婚。玖音は母側の名字。弟は消息不明。そして俺は、劉娥組の若頭、咲羅様だ』



色気漂う銀髪の男の人。淡々と自分のことを話して、他のことには全く興味のなさそうな瞳。すらりとした長身で猫背気味に歩く不気味なシルエット。

そして、上から目線の傲慢極まりない言葉遣い。



『今も昔も、相変わらずキメェな。咲羅』


『ああ?様を付けろよ、様を』


『はっ…!お前はそう呼ばれる価値なんてないだろ。このゲス野郎が』



裕翔くんは今もなお掴みかかってくる男を蹴飛ばして、玖音咲羅の方に近づいていく。



劉娥組の若頭と仲が悪いのは、裕希さんだけじゃなかったんだ……。



『なあ裕希。お前の弟、殺しちゃっていい?』



玖音咲羅の指と指の間からシュッ!!と鋭い刃のナイフが現れた。その瞳は真っ黒で、まるで光がない。



可哀想だ、と思った。この人は、冷たい世界の中で1人孤独に生きてきたんだ、と思った。



『なあ兄貴。俺、兄貴のケンカ相手殺してもいいよね?今、すげぇ興奮してんだよ』



獣のように鋭く光る瞳を裕希さんに向けた2人。



『は、……?お前ら、何言ってんだよ』



私を庇う裕希さんの背中が震えている。私は、その状況を何だか他人事のようにしか見られなかった。



『『『ウォーー!!!!総長!!!!只今、山海滉大率いるKOKUDOの幹部たちが勢揃いいたしました!!!!』』』



倉庫の外からバタバタと大きな音がして何百人にもなる黒の特攻服を着た暴走族たちが現れた。



目をキラリと黒く光らせた裕翔くんは、色気たっぷりにニヤリと笑って、手を上げた。



『若、こちらも準備ができております』


『ああ、ありがとう。助かるよ』



仲間がいるのは、あちらも同じみたいだった。玖音咲羅の隣に立つスーツを着た長身の男が眼鏡をくいっと上げたその時、バーンッ!!という銃声が、倉庫中を響き渡った。



『始めようじゃないか!!俺たちのディナーを』



玖音咲羅は月光に照らされる銀の髪を掻き分けて、興奮した声で叫んだ。



スーツを着た男たちが、皆銃を持って私たちを囲むようにして並んだ。



『お前たちは今、鳥籠の中にいる。もう、最初から勝敗は着いているだろう!!』



玖音咲羅がそう言った瞬間、お互いが勢いよく走り出した。格闘術、ナイフ、拳銃。



どんどん、どんどん、殺されていく。これはもう、喧嘩なんかじゃ、ない……!!これは、『殺し合い』だ!!



恐怖で身が縮み、歯がガタガタと音を鳴らす。裕希さんも、裕翔くんも、その殺し合いの中に身を投げていく。裕希さんが、人を殺している。裕翔くんが、人を殺している。



それがどんな悪党でも、自分の手でその人の命を終わらせるのは、間違っている。



私は恐怖と絶望の中、一歩も動き出せずにいた───。



スーツを着た男が、私に向かって銃口を向けた。



何も出来ずにただしゃがみ込む私と、背筋を真っ直ぐにして堂々と立つ男の人。



あなたたちは、人を殺す時も、堂々としていられるの……?人の命を自分の手で絶つことに、怖さというものはないというの……?



『っ!!桜十葉!!避けろ!!』



裕希さんが、私に銃口を向けている男に掴みかかる。



バンッ!!!!という銃声が鳴ったと同時に、私の意識がプツリと途切れた────。



最後に聞こえたのは、裕希さんの悲痛に叫ぶ声と、裕翔くんの絶望に満ちた声だった───。



✩.*˚side end✩.*˚

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

処理中です...