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第五十話 愛人VSアラン

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 ―ビュゥン!

「全力でいく!」
「剣術 【乱舞らんぶ!】」

 ―シュシュシュシュン!!!

 僕は、様々な方向から剣が振られる『乱舞らんぶ』で攻撃した。
 これまでに、この技を避けられる者に出会った事は無い。
 確実に攻撃は当たるだろう。

「フンッ、こんなものか」

 ―サッ

「っ⁉ 避けられただと⁉」
「ハハハ、まだまだだな!」
「うるさい!」

 僕の攻撃は、一切当たる事は無かった。
 アランは、口角を上げて僕のことを煽ってくる。
 普段であれば動じないのだが、今回だけは、なぜか無性に腹が立ってきた。
 そして、気が付くと僕は、再び攻撃をしようとしていた。

「剣術 【華流乱斬かりゅうらんざん!】」

 ―ザザザザザン!

「もっと盛り上げてくれよ」

 ―サッ

「っ⁉ また避けられただと⁉」

 派手で流れるような攻撃をする『華流乱斬かりゅうらんざん』も、アランに避けられてしまった。
 僕の攻撃は、簡単に避けられてしまう。
 僕は、一度、落ち着いて考えた。

「確実に攻撃を与えていこう」

 僕は、強い攻撃ではなく、威力は弱い代わりに確実にダメージを与えることにした。

「剣術 【必中斬ひっちゅうざん!!!】」
「確実に当てに来たか。無駄だがな」

 ―サッ

 ―ヒュゥン

「なに⁉ 必中斬ひっちゅうざんが外れただと⁉ ありえない!」

 確実に攻撃を与えられる技でさえ、アランは簡単そうに避けて見せた。
 僕は、なぜ避けられたのかを理解することができなかった。
 しかし、アランの能力であることは予想が付く。

「ハハハ、全然盛り上がらないぞ。俺がお手本を見せてやろう」

 ―ビュゥン!!!

「は、早い!」
「盛り上げてやるよ!」
「魔術 【魔拳バーズ!!!】」

 ―ドォォォン!

 アランが拳を突き出すと、もの凄い魔力のこもった風撃がやってきた。

「「愛人あいと!!!」」
「これは、避けきれない!」

 ―ドガァァァン!!!

 僕は、アランの攻撃によって勢いよく壁に吹き飛ばされた。
 しんくんと優羽ゆうちゃんが僕の名前を呼んでいるのが聞こえたが、アランの攻撃によって、遮られた。

「もう終わってしまったのか?」
「待て……」

 僕は、何とか立ち上がることができたが、それでも立っているのがやっとだった。

「もうその様子では、戦えそうにないな」
「……⁉」

 なんで、そんな悲しい目をしているんだ⁉

 僕のボロボロの姿を見たアランは、なぜか悲しい目をしていた。
 その目は、哀れみや喜びの目ではなく、確かに悲しい目であった。
 僕は、アランがどうしてそのような目をしたのかが分からなかった。

「そんなのだから、両親も、殺されて、仇打ちも、できないんだ……」
「……っ⁉」

 アランは、言葉を詰まらせながら、そのセリフを言った。
 何か思っていることがあるのだろうが、僕はその言葉に怒りを覚えた。
 それも、これまでにないほどの、絶大な怒りを。

「……ざけるな、ふざけるなよ!」
「僕の、大切な家族を殺しやがって!!!」
「僕は、絶対にお前を許さない!」

 ―ドンッ!

「く、空気が変わったぞ⁉」
「わあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ―ドゴゴゴゴゴ!!!

「ゆ、揺れだした⁉」
「おい、見ろ! 愛人あいとの姿が⁉」

 地面が大きく揺れ始めた。
 僕は、怒りの気持ちを叫びだした。
 すると、次第に身体に力がみなぎっているのを感じる。

「う、うぅ、ゔゔ……」

 力が増すごとに、僕の意識がだんだんと薄れていく。

 だめ、だ……

「ぐわぁぁぁァァ!!!」

 ―ドォォォォン!!!

「あ、あの姿は……」
「暴走が始まるぞ……」
「フンッ、魔族の領域に自ら入り込んだのか。面白い」
「ゔゔ、ヴワァァァ!」

『やめろ! 言うことを聞け!』

 僕の身体は、乗っ取られたように自分の意志の通りには動かなくなった。

 ―ビュウゥゥン!

「早いっ⁉」

 ―ドガァァァン!!!


 ◆


「これは、僕の意識の中か?」
「俺の出番が来たようだな」
「お前は誰だ⁉」

 僕の前には、魔族の姿をした誰かがいた。
 しかし、暗くてよく見えない。

「誰って……」

 微かな光りによって、目の前にいる者の口角が少し上がるのが見えた。
 そして、そいつは言った。

「俺は逆瀬 愛人さかせ あいとだ」
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