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少女の名は
Chapter3-3
しおりを挟む ~風化された真実2
その少女は、いつも何かに祈っていた。
その少女は、いつも誰かを助けていた。
その少女は、いつも常に笑顔を絶やさなかった。
普段視界に入る人間は、常に諦めた様な陰鬱な表情と目に精気のない絶望した顔をするばかりだったので、その少女の異様さがやけに目を引いた。
毎日毎日飽きもせずに祈り続ける姿に、普段なら絶対話すことなどしないのに、思わず声を掛けてしまったのはただの好奇心。
〖毎日毎日飽きないのか〗と聞けば、もうこれが日課になっているのだと答える。〖誰に祈っているのだ〗と聞けば、聞き届けてくれる誰かにと答える。
〖そんな者はいない〗と言えば、
貴方には届いたとその少女は柔らかく笑ったのだ。
*
扉を開けた先に見えるのは、四角いテーブルが1つと椅子にはドルダともう1人青年が座っていた。
「おぉ、よく似合っているが。少し大きかったかな?」
出てきたレティシアを見るなり、褒めてくれるのはドルダだ。近くに住む知り合いの人から使わなくなった孫の服を貰ったのだと説明された。何から何までお世話になりっぱなしだ。
そして、ドルダの隣に座っているもう1人の人物。
黒色の髪、紫の目をした目鼻立ちがハッキリしている顔立ちの男と目線が合った。
真っ直ぐに見つめてくる視線は紫色の瞳に吸い込まれそうで、レティシアは思わず目線を逸らした。
何故だろうか、優しげな雰囲気のドルダと違って横にいた青年からは冷たい様な空気を感じたのだ。
「紹介しよう、こやつは」
「ノアだ」
ドルダの声に被さる様にして話した男は自身の名前を告げた。
「お前が何者で、何が起こったのか話してもらおうか」
腕を組みながら淡々と話す男に、ノアの横にいるドルダは、もうちょっと優しく喋ってやらないかと注意するが、威圧感が消える気配は無い。
レティシアは、お腹にグッと力を入れた。
「まずは、お礼を言わせて下さい。助けて下さってありがとうございます」
そして、ノアから逸らしてしまった目線を今度はしっかりと見つめ直した。
「私の名前は、レティシア。レティシア・テオ・リザレスです」
驚いた表情をしたのは、ノアだけでは無かった。ガタッと椅子から立ち上がり驚愕の声を出したのはドルダだ。
「リザレス、リザレス王国の! 精霊師の国か!!」
「はい。」
「精霊師の国に住むお嬢さんが、なんで海岸で倒れていたんじゃ」
「その前に、ここが何処で私は何日位眠っていたんでしょうか……」
自己紹介しておいて何だが、レティシアはここが何処なのか知る必要があった。この反応からリザレス王国を襲った帝国の者達では無いと信じたい。
「ここは、ノルディア大陸のシュヴェリア国。地図でいうと1番東にある小さな村だ」
答えてくれたのは、ノアだった。
「そして、お前を海岸で見つけてから3日経っている」
(シュヴェリア国……水の国。それにしても3日も経っていたのね)
リザレスから近い国は、直ぐ下に位置するエストルド大陸のヴィエトルリア帝国と、左に位置するノルディア大陸のシュヴェリア国だ。流れ着いたのだとしたらそのどちらかだとは思っていたので取り敢えずホッとする。
そしてレティシアは、状況を説明する為に話し出した。
「リザレス王国は、ヴィエトルリア帝国に襲われました」
帝国に襲われた事。国の人達がどうなったのか分からない事。自分は滝から落ちて流れ着いた事。分かる範囲で全て2人に説明していった。
「それにしても、信じられん。リザレスに手を出すとは……」
「…………」
レティシアから話を聞いてドルダは信じられないと呟き、ノアは難しい顔をしながら黙っていた。
「リザレス王国に侵入できたのは何故だ、あそこは精霊師しか入れないだろう」
「!……さぁ、分かりません」
ノアが口に出した疑問にレティシアは何も分からず答える事ができなかったが、その言葉に少し驚いた。精霊師しか入れない事を何故この男は知っているのだろうかと。
「お前も精霊師なんだろう。契約精霊はいるのか」
「私には、精霊なんて……」
ノアに言われた事に否定の言葉を伝えようとして、レティシアは出かかった言葉を止めた。
「……エリアス」
ボソッと精霊の名を呟けば、水飛沫を上げて目の前に出てきたのは竜の落とし子だった。
「水の精霊か」
ノアがエリアスを見る。
「こ、この子はっ」
私の精霊では無いと言おうとして、レティシアの顔をジッと見つめるエリアスの目を見れば何も言えなかった。
「お前の契約している精霊が水の精霊で助かったな、滝から落ちて海を漂っている間護ってくれたんだろう」
「……そうですね」
「◁▼ЭФЫ」
レティシアは、顔を下に向けながら手をグッと握りしめ爪で掌を強く食い込ませた。
顔を上げる事はできない、今の自分の顔はとても酷い顔をしているだろうから。爪の痛みで感情を押し殺そうとするが、"チチチ"と話しかけてくる鳴き声が更に追い打ちをかけるのだ。
(あぁ、やっぱり。何を言っているのか分からないわ。兄様)
その少女は、いつも何かに祈っていた。
その少女は、いつも誰かを助けていた。
その少女は、いつも常に笑顔を絶やさなかった。
普段視界に入る人間は、常に諦めた様な陰鬱な表情と目に精気のない絶望した顔をするばかりだったので、その少女の異様さがやけに目を引いた。
毎日毎日飽きもせずに祈り続ける姿に、普段なら絶対話すことなどしないのに、思わず声を掛けてしまったのはただの好奇心。
〖毎日毎日飽きないのか〗と聞けば、もうこれが日課になっているのだと答える。〖誰に祈っているのだ〗と聞けば、聞き届けてくれる誰かにと答える。
〖そんな者はいない〗と言えば、
貴方には届いたとその少女は柔らかく笑ったのだ。
*
扉を開けた先に見えるのは、四角いテーブルが1つと椅子にはドルダともう1人青年が座っていた。
「おぉ、よく似合っているが。少し大きかったかな?」
出てきたレティシアを見るなり、褒めてくれるのはドルダだ。近くに住む知り合いの人から使わなくなった孫の服を貰ったのだと説明された。何から何までお世話になりっぱなしだ。
そして、ドルダの隣に座っているもう1人の人物。
黒色の髪、紫の目をした目鼻立ちがハッキリしている顔立ちの男と目線が合った。
真っ直ぐに見つめてくる視線は紫色の瞳に吸い込まれそうで、レティシアは思わず目線を逸らした。
何故だろうか、優しげな雰囲気のドルダと違って横にいた青年からは冷たい様な空気を感じたのだ。
「紹介しよう、こやつは」
「ノアだ」
ドルダの声に被さる様にして話した男は自身の名前を告げた。
「お前が何者で、何が起こったのか話してもらおうか」
腕を組みながら淡々と話す男に、ノアの横にいるドルダは、もうちょっと優しく喋ってやらないかと注意するが、威圧感が消える気配は無い。
レティシアは、お腹にグッと力を入れた。
「まずは、お礼を言わせて下さい。助けて下さってありがとうございます」
そして、ノアから逸らしてしまった目線を今度はしっかりと見つめ直した。
「私の名前は、レティシア。レティシア・テオ・リザレスです」
驚いた表情をしたのは、ノアだけでは無かった。ガタッと椅子から立ち上がり驚愕の声を出したのはドルダだ。
「リザレス、リザレス王国の! 精霊師の国か!!」
「はい。」
「精霊師の国に住むお嬢さんが、なんで海岸で倒れていたんじゃ」
「その前に、ここが何処で私は何日位眠っていたんでしょうか……」
自己紹介しておいて何だが、レティシアはここが何処なのか知る必要があった。この反応からリザレス王国を襲った帝国の者達では無いと信じたい。
「ここは、ノルディア大陸のシュヴェリア国。地図でいうと1番東にある小さな村だ」
答えてくれたのは、ノアだった。
「そして、お前を海岸で見つけてから3日経っている」
(シュヴェリア国……水の国。それにしても3日も経っていたのね)
リザレスから近い国は、直ぐ下に位置するエストルド大陸のヴィエトルリア帝国と、左に位置するノルディア大陸のシュヴェリア国だ。流れ着いたのだとしたらそのどちらかだとは思っていたので取り敢えずホッとする。
そしてレティシアは、状況を説明する為に話し出した。
「リザレス王国は、ヴィエトルリア帝国に襲われました」
帝国に襲われた事。国の人達がどうなったのか分からない事。自分は滝から落ちて流れ着いた事。分かる範囲で全て2人に説明していった。
「それにしても、信じられん。リザレスに手を出すとは……」
「…………」
レティシアから話を聞いてドルダは信じられないと呟き、ノアは難しい顔をしながら黙っていた。
「リザレス王国に侵入できたのは何故だ、あそこは精霊師しか入れないだろう」
「!……さぁ、分かりません」
ノアが口に出した疑問にレティシアは何も分からず答える事ができなかったが、その言葉に少し驚いた。精霊師しか入れない事を何故この男は知っているのだろうかと。
「お前も精霊師なんだろう。契約精霊はいるのか」
「私には、精霊なんて……」
ノアに言われた事に否定の言葉を伝えようとして、レティシアは出かかった言葉を止めた。
「……エリアス」
ボソッと精霊の名を呟けば、水飛沫を上げて目の前に出てきたのは竜の落とし子だった。
「水の精霊か」
ノアがエリアスを見る。
「こ、この子はっ」
私の精霊では無いと言おうとして、レティシアの顔をジッと見つめるエリアスの目を見れば何も言えなかった。
「お前の契約している精霊が水の精霊で助かったな、滝から落ちて海を漂っている間護ってくれたんだろう」
「……そうですね」
「◁▼ЭФЫ」
レティシアは、顔を下に向けながら手をグッと握りしめ爪で掌を強く食い込ませた。
顔を上げる事はできない、今の自分の顔はとても酷い顔をしているだろうから。爪の痛みで感情を押し殺そうとするが、"チチチ"と話しかけてくる鳴き声が更に追い打ちをかけるのだ。
(あぁ、やっぱり。何を言っているのか分からないわ。兄様)
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