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最終日②

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「お父様のお帰りかしら?」

「それにしてはなんか変だね。見に行ってくるよ」

「私も行くわ」

玄関ではエドガーとグレッグが言い争いをしていた。

「フレッドに会わせろって言ってるんだ」

「旦那様はまだお帰りではありません」

「そんなはずないだろ!いいから出せと言っているんだ。使用人の分際で…」

グレッグがエドガーの腕を掴もうとした、その時

「なにを騒いでいるんだ」

フレッドが帰ってきた。
そこで一緒になったのか、ディアナとイザベラと共にいる。

フレッドは心底迷惑そうにグレッグを見た。

「グレッグ、ここは私の店だ。君が威張って従業員に手出しするいわれはない」

「い、いや…これは…」

フレッドはエドガーに帽子を渡し、グレッグを一瞥して、聞いた。

「何の用だ?」

「ん?あ、あぁ。フレッド!この手紙は何だ!?」

「あぁ、婚約の停止の書類だが?」

「なんで…いきなり!こんなの無効だ!」

「いきなりも何もない。前から通告していたはずだ」

「だ、だが…」

「正式な書類だ。」

「だ、だが、先代たちの思いを裏切る気か!我が家は恩人だぞ!」

フレッドの眉がピクッとした。

「長きに渡る援助で恩は十分に返したと思うが?」

「フ、フン!先代たちが許さないだろう」

フレッドは深いため息をついて

「先代の許可を得ている」

思いがけない返事にグレッグは耳を疑った。
そして、見るからに狼狽した様子で叫んだ。

「な、なんだと?そんなわけあるか!ありえない!」

フレッドは静かな声でグレッグに言った。

「お前の息子が今朝逮捕された。先代に“犯罪者となっては庇えない”と理解していただいた」

衝撃の事態にその場にいた全員が息を呑んだ。
さっきまで騒いでいたグレッグもフレッドの厳しい眼怯んで大人しくなった。

「…!!バーニーが?」

シーラが思わず呟いた。
シーラの姿を認めたフレッドがシーラを呼んだ。

「シーラ、こっちに来なさい」

「はい…」

「手紙の通り、答えを聞かせてもらおうか」

「私は…」

シーラはアレックスをチラッと見た。
その時、グレッグは堪らず叫んだ。

「呪いの子!お前の役目を忘れたか!」

シーラはグレッグをチラリと見て

「私は…」

大きく息を吸って、ハッキリ言った。

「私は婚約を破棄したいと思ってます!」

「!!なっ…なっ…」

「おじさま。先日、街でバーニーにお会いしたとき、彼といた女性は彼の子を宿していると言ってました。私はその子から父親を奪うことはしません」

「!!だ、だが…」

グレッグの叫びにならない声を無視してシーラは続けた。

「お祖母様が私に過去からの脱却するようにとエールをくれました。上を、前を向いてと言ってくれました。私は尻ぬぐいするために産まれてきたんじゃない。私も幸せになりたい!!」

シーラの強い意志に暗示がスッカリ解けていることを理解したグレッグは項垂れた。

そんなグレッグを横目に

「シーラ、お前の結論しっかり聞かせてもらった。婚約は破棄する。早速書類をもらってこよう」

フレッドはエドガーに神殿に遣いを出すようにいった。エドガーが頷くとフレッドは硬い顔でグレッグに告げた。

「聞いての通り婚約は破棄する。先程の“呪いの子”について詳しく教えてもらおうか?他の者は全員持ち場に戻れ」

フレッドはエドガーにガタガタ震えるグレッグを連れて応接室で待っているように指示した。

フレッドはシーラの側に来て

「シーラ、よくやった。お前の前向きな気持ちが聞けて私は嬉しいよ」

と抱きしめた。

「お父様、ありがとう。私はもう大丈夫です」

シーラは心からの笑顔をフレッドに向けた。

「では、またあとでな」

フレッドは応接室に向かった。

フレッドたちがいなくなると従業員がザワザワ仕事を再開した。邪魔になるので、シーラ達は部屋に移動した。
    
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