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18/メンテナンス
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パトリスとイーサンが飲みに行った数日後、イーサンはホテルの一室にいた。
イーサンは先天性で重度の魔力過剰体質だった。
この世界の魔力と生命力は相関関係にあり、両方の力がバランス良く人の身体の中で循環している。
両親と主治医と魔導具技師の心血込めたこのコアがなければイーサンはこの世にいなかった。
今日はイーサンのコアを製作した魔道具工房の人がメンテナンスに来るのだ。
普段は医療都市で行うのだが、今日は職人がちょうど用事があって中央都市に来ているらしく、落ち合うことしたのだった。
リンゴーン
イーサンが仕事をしていると、ドアのチャイムがなった。
「はーい」
ドアを開けると、そこには素朴ながら凛とした女性がいた。
「私、バウス工房からヴィムの代理で来ました。オリビア・クライフと申します。魔導具の調整で来ました。あなたがイーサンさんですか?」
「あぁ、君がオリビアさん?ニコラ先生から話は聞いているよ。どうぞ、入って」
「お邪魔します…」
オリビアはおずおずと部屋に入った。すると部屋の奥には綺麗な女性がいた。
「魔道具の調整に来ました。オリビア・クライフです。よろしくおねがいします」
「はじめまして。私はジュリ・リヴリー、彼の主治医の孫よ」
「そして、俺のお嫁さん」
イーサンがジュリの腰を抱き寄せ頭にキスをした。
ジュリはイーサンは押し退け、訂正した。
「まだよ。今はまだ婚約者よ」
オリビアはイーサンとジュリの様子をじっと見てからジュリに尋ねた。
「あの~、もしかして、ジュリさんはデニス・リヴリー先生のお孫さんですか?」
「えぇ、そうよ」
オリビアの顔がパァッと明るくなり、緊張が解けたように笑顔になった。
「あぁ!お噂はかねがね聞いています。リヴリー先生とうちのおじーちゃん飲み仲間なんです」
ジュリは目をパチクリさせて驚いた。
「あら、ヤダ、祖父がご迷惑おかけしていない?あの人酔っ払うと絡んでくるでしょ?」
「いえいえ~、いつもお孫さんの自慢話ばっかりで面白いです。おじーちゃん共々楽しくさせてもらっていますよ」
ジュリは祖父のその姿を想像し、額を抑えため息をついた。
「もう、何を話しているのやら…あ、私のことはジュリって呼んでね」
「ありがとうございます。私のこともオリビアと。いつも話ばっかりだったので、お会いできて嬉しいです!」
「はは、なんだかすっかり打ち解けちゃったね。オリビアさん、コレ飲んだら先に調整お願いしてもいいかな?その後ゆっくりしよう」
イーサンはオリビアとジュリが話している間に用意した冷たいお茶とお菓子を持ってきて机に置いた。
「そうね。パパッと終わらせちゃいましょう」
ジュリはイーサンの言葉に同意してお茶をゴクゴクと飲み干した。
オリビアはハッとしてカバンからゴソゴソと装置を取り出した。
「はい。それでは、早速、核を取り出しますので、上を脱いでください。ジュリさんはこの装置に魔力を注いでください」
イーサンはオリビアの指示に従って椅子に座りシャツを脱いだ。
「それでは失礼します」
「うっ…」
オリビアはイーサンの胸元のコアから核を取り出して装置にセットした。
「以前より断然安定していますね。カーラさんに聞いていたとおりです。」
「カーラ?」
イーサンは聞き覚えのない名前に首を傾げた。
オリビアはそんなイーサンの様子に戸惑いを覚えたが、作業に集中した。
「カーラさんはおじーちゃんの依頼人です。ニコラ先生の紹介って言ってましたが…」
「そうなんだね」
イーサンはもう一度記憶を辿ったが、やっぱり思い当たる節がなかった。神様…と思ったが、オリビアが何も知らなさそうだったから黙っておくことにした。
イーサンが考えを巡らせていると、オリビアが報告した。
「はい、ジュリさん魔力十分です。ありがとうございました。これから調整作業に入りますので、しばらくの間お待ち下さい」
そう言うとオリビアは装置に手をかざし、集中し、一切の物音を遮断した。
イーサンとジュリはオリビアの邪魔にならないようにそっと席を外し、バルコニーに置いてあるソファーに移動した。
「ねぇ、ジュリ。さっきオリビアさんが言ったカーラって人知ってる?」
「うーん…昔おばあちゃんのところに出入りしていた人かなぁ?腕のいい魔道具職人を紹介してもらったって話していたことがあったからその人かなぁ?」
「うーん…じゃぁ、思い違いかな?」
「なぁに?どうしたの?」
「いや、神様の関係者かと思ってさ。ライラさんみたいに」
「あぁ、それはあり得るわね。私の願いを叶えるために」
ジュリは納得したようにウンウンと頷いた。
イーサンは今まで密かに疑問に思っていたことをジュリに話してみた。
「俺さ、今回のことで思ったんだけど、神様って万能じゃん?なのになんで人の手を使うんだろう?俺の病気だって神様の力でどうとでもできそうだけど…」
ジュリはイーサンの疑問に軽く笑った。
「ふふ、ライラさんが言ってたわ。神様は気まぐれだって。深く考えても答えは出ないと思うわよ?」
「ま、そうだな。パウラとして現れたり、取り立てに来たり、神様は自由だったな」
イーサンはハハッと空を見上げ、自由気ままな神様を思った。
すると、部屋の中からオリビアが声をかけてきた。
「あの~お話中のところすみません。大まかな調整終わりましたので、装着後の微調整を行いたいです」
「あぁ、早かったね」
イーサンとジュリは部屋の中に戻った。
イスに座ったイーサンの胸元のコアに核を戻しながらオリビアが
「私、調整が得意なんです。調整だけはおじーちゃんも認めてくれていて。あ、失礼します」
「うっ…」
そう話しながら、魔力を込めた手をイーサンの胸元に当て、最終調整を行った。
「はい。これで大丈夫です。そうですね…この調子で何もなければこれからは3ヶ月に1回で大丈夫ですかね。それでも問題なければ半年、1年っていうふうに伸ばしていきましょう」
「それは助かるよ。今まで毎月だったからね。結構手間だったんだよね」
「えぇ~!せっかくオリビアちゃんと仲良くなれたのに…」
ジュリが口を尖らせて不満を言った。
イーサンは意外なところから意外な理由での不満に驚いて苦笑した。
オリビアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに返した。
「ふふ。ありがとうございます。ジュリさん。調整がなくてもいつでも呼んでください。遊びに来ます」
ジュリはニコニコとオリビアの手を握って
「そうね、そうね。私達もう友達だものね~」
イーサンはジュリとオリビアがニコニコと仲良くなったのを見て、時計をみた。
「さぁ、じゃぁ、こっからはもっと仲良くなるために夕飯にしよう。もういい時間だ。オリビアちゃんも一緒に」
「いいわね。お腹が空いたわ」
「はい」
「こないだいいお店を教えてもらったんだ。そこに行かない?」
「いいわね。話を聞いて行ってみたかったのよ」
「オリビアちゃんもいい?」
「はい。楽しみです」
イーサンの案内で3人は夕飯を食べに行った。
そこで、あんなことが起こるとは誰も予想できなかった。
イーサンは先天性で重度の魔力過剰体質だった。
この世界の魔力と生命力は相関関係にあり、両方の力がバランス良く人の身体の中で循環している。
両親と主治医と魔導具技師の心血込めたこのコアがなければイーサンはこの世にいなかった。
今日はイーサンのコアを製作した魔道具工房の人がメンテナンスに来るのだ。
普段は医療都市で行うのだが、今日は職人がちょうど用事があって中央都市に来ているらしく、落ち合うことしたのだった。
リンゴーン
イーサンが仕事をしていると、ドアのチャイムがなった。
「はーい」
ドアを開けると、そこには素朴ながら凛とした女性がいた。
「私、バウス工房からヴィムの代理で来ました。オリビア・クライフと申します。魔導具の調整で来ました。あなたがイーサンさんですか?」
「あぁ、君がオリビアさん?ニコラ先生から話は聞いているよ。どうぞ、入って」
「お邪魔します…」
オリビアはおずおずと部屋に入った。すると部屋の奥には綺麗な女性がいた。
「魔道具の調整に来ました。オリビア・クライフです。よろしくおねがいします」
「はじめまして。私はジュリ・リヴリー、彼の主治医の孫よ」
「そして、俺のお嫁さん」
イーサンがジュリの腰を抱き寄せ頭にキスをした。
ジュリはイーサンは押し退け、訂正した。
「まだよ。今はまだ婚約者よ」
オリビアはイーサンとジュリの様子をじっと見てからジュリに尋ねた。
「あの~、もしかして、ジュリさんはデニス・リヴリー先生のお孫さんですか?」
「えぇ、そうよ」
オリビアの顔がパァッと明るくなり、緊張が解けたように笑顔になった。
「あぁ!お噂はかねがね聞いています。リヴリー先生とうちのおじーちゃん飲み仲間なんです」
ジュリは目をパチクリさせて驚いた。
「あら、ヤダ、祖父がご迷惑おかけしていない?あの人酔っ払うと絡んでくるでしょ?」
「いえいえ~、いつもお孫さんの自慢話ばっかりで面白いです。おじーちゃん共々楽しくさせてもらっていますよ」
ジュリは祖父のその姿を想像し、額を抑えため息をついた。
「もう、何を話しているのやら…あ、私のことはジュリって呼んでね」
「ありがとうございます。私のこともオリビアと。いつも話ばっかりだったので、お会いできて嬉しいです!」
「はは、なんだかすっかり打ち解けちゃったね。オリビアさん、コレ飲んだら先に調整お願いしてもいいかな?その後ゆっくりしよう」
イーサンはオリビアとジュリが話している間に用意した冷たいお茶とお菓子を持ってきて机に置いた。
「そうね。パパッと終わらせちゃいましょう」
ジュリはイーサンの言葉に同意してお茶をゴクゴクと飲み干した。
オリビアはハッとしてカバンからゴソゴソと装置を取り出した。
「はい。それでは、早速、核を取り出しますので、上を脱いでください。ジュリさんはこの装置に魔力を注いでください」
イーサンはオリビアの指示に従って椅子に座りシャツを脱いだ。
「それでは失礼します」
「うっ…」
オリビアはイーサンの胸元のコアから核を取り出して装置にセットした。
「以前より断然安定していますね。カーラさんに聞いていたとおりです。」
「カーラ?」
イーサンは聞き覚えのない名前に首を傾げた。
オリビアはそんなイーサンの様子に戸惑いを覚えたが、作業に集中した。
「カーラさんはおじーちゃんの依頼人です。ニコラ先生の紹介って言ってましたが…」
「そうなんだね」
イーサンはもう一度記憶を辿ったが、やっぱり思い当たる節がなかった。神様…と思ったが、オリビアが何も知らなさそうだったから黙っておくことにした。
イーサンが考えを巡らせていると、オリビアが報告した。
「はい、ジュリさん魔力十分です。ありがとうございました。これから調整作業に入りますので、しばらくの間お待ち下さい」
そう言うとオリビアは装置に手をかざし、集中し、一切の物音を遮断した。
イーサンとジュリはオリビアの邪魔にならないようにそっと席を外し、バルコニーに置いてあるソファーに移動した。
「ねぇ、ジュリ。さっきオリビアさんが言ったカーラって人知ってる?」
「うーん…昔おばあちゃんのところに出入りしていた人かなぁ?腕のいい魔道具職人を紹介してもらったって話していたことがあったからその人かなぁ?」
「うーん…じゃぁ、思い違いかな?」
「なぁに?どうしたの?」
「いや、神様の関係者かと思ってさ。ライラさんみたいに」
「あぁ、それはあり得るわね。私の願いを叶えるために」
ジュリは納得したようにウンウンと頷いた。
イーサンは今まで密かに疑問に思っていたことをジュリに話してみた。
「俺さ、今回のことで思ったんだけど、神様って万能じゃん?なのになんで人の手を使うんだろう?俺の病気だって神様の力でどうとでもできそうだけど…」
ジュリはイーサンの疑問に軽く笑った。
「ふふ、ライラさんが言ってたわ。神様は気まぐれだって。深く考えても答えは出ないと思うわよ?」
「ま、そうだな。パウラとして現れたり、取り立てに来たり、神様は自由だったな」
イーサンはハハッと空を見上げ、自由気ままな神様を思った。
すると、部屋の中からオリビアが声をかけてきた。
「あの~お話中のところすみません。大まかな調整終わりましたので、装着後の微調整を行いたいです」
「あぁ、早かったね」
イーサンとジュリは部屋の中に戻った。
イスに座ったイーサンの胸元のコアに核を戻しながらオリビアが
「私、調整が得意なんです。調整だけはおじーちゃんも認めてくれていて。あ、失礼します」
「うっ…」
そう話しながら、魔力を込めた手をイーサンの胸元に当て、最終調整を行った。
「はい。これで大丈夫です。そうですね…この調子で何もなければこれからは3ヶ月に1回で大丈夫ですかね。それでも問題なければ半年、1年っていうふうに伸ばしていきましょう」
「それは助かるよ。今まで毎月だったからね。結構手間だったんだよね」
「えぇ~!せっかくオリビアちゃんと仲良くなれたのに…」
ジュリが口を尖らせて不満を言った。
イーサンは意外なところから意外な理由での不満に驚いて苦笑した。
オリビアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに返した。
「ふふ。ありがとうございます。ジュリさん。調整がなくてもいつでも呼んでください。遊びに来ます」
ジュリはニコニコとオリビアの手を握って
「そうね、そうね。私達もう友達だものね~」
イーサンはジュリとオリビアがニコニコと仲良くなったのを見て、時計をみた。
「さぁ、じゃぁ、こっからはもっと仲良くなるために夕飯にしよう。もういい時間だ。オリビアちゃんも一緒に」
「いいわね。お腹が空いたわ」
「はい」
「こないだいいお店を教えてもらったんだ。そこに行かない?」
「いいわね。話を聞いて行ってみたかったのよ」
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