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6/新たな依頼
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ある日、ヴィムの工房に訪問客の姿があった。
常連のカーラである。
「ヴィムさーん、いますかぁ?」
「はーい。あ、カーラさん。おじーちゃんは奥にいますよ」
「オリビアちゃんいつもありがとうね。助かる~」
「いいえ、カーラさんの依頼はおじーちゃんにしかできませんからね」
カーラが持ってくる依頼は非常に難易度が高く、職人街でもヴィムにしかこなせなかった。なので、オリビアはまだ手伝うことができなかった。
「えー、じゃあ今度オリビアちゃん向けの依頼持ってこようかしら?」
「ほ、ほんとですか?」
オリビアはカーラの思いがけない返事に思わずぐいっと近付いた。
「ほんと、ほんと。オリビアちゃんが得意な調整をして欲しいものがあるんだ。オリビアちゃんならそんなに難しくないと思うよ」
難易度は高くなくても小さな頃からお世話になっているカーラの役に立てることは光栄なことだった。
「はい!お待ちしてます!」
オリビアは嬉しい気分で作業に戻った。
オリビアと入れ替えにヴィムが奥から出てきた。
「フン、また来たのか。で、今回はなんじゃ?」
「も~なんて言い方かしら。今回も前置きなしね。まぁ、いいわ。今回は今までで一番面倒くさいかも」
「はぁ…またか…。ほら、仕様書」
ヴィムはめんどくさそうな顔をし、手をひらひらと出して、カーラに仕様書を出すよう催促した。
カーラは苦笑しながら仕様書を出した。
カーラとヴィムは古い古い付き合いであった。
カーラがヴィムが初めてカーラの仕様書を見たヴィムは”貴方は何者ですか?”と聞いた。
カーラは今まで色々な職人に依頼を出してきたが、そんなことを聞かれたのは初めてだった。そこで、カーラは面白いと思って“その仕様書の物が作れたら、答えてあげる”と言ってみた。
すると、ヴィムは先代よりも精巧で緻密な物を作り上げた。すっかりヴィムが気に入ったカーラはざっくりと己の素性を話し、今後の仕事は君に任せるよと告げて帰っていった。
残されたヴィムは半信半疑だったが、複雑な仕様書と先程のカーラの姿を思い浮かべ、大きなため息とともにこの大きな秘密を飲み込んで仕事を引き受けることに決めた。
なぜなら、カーラの仕様書は職人ならだれしもが挑戦してみたくなる己の限界の先、でも、決して手の届かないものではないという絶妙なものだったからヴィムの中の職人の血が騒いだのである。
そのときの魔道具の出来が良かったからか、事情を知っているから楽に思ったのか、はたまた偏屈なヴィムを気に入ったからなのか、その時からカーラはヴィムに依頼をするときに愚痴や内情も話すようになっていた。
今回の仕様書を見たヴィムは眉をひそめた。
「今回もまた難解なものを…」
「今回はカミサマからじゃなくて私の先輩からの依頼なの」
「どうりで。雰囲気が違う。それにいつにもまして碌でもないな」
「そりゃ…おイタをした子を折檻するためのものだからね」
「むむむ…お前さんの先輩とやらは性格が悪くないか?」
「悪いわよ。陰険で陰湿で執念深いわ。怒らせたら絶対ダメなタイプ。あぁ怖い…」
カーラが何かを思い出し、ブルッと震えた。
「カミサマ絡みか?」
「そ。あいつのあの方への忠誠と執着はヤバいの。あいつは次元が違う」
「お前さんじゃないのか?」
「失礼ね。違うわよ」
「違う奴か。やれやれ、いつもドロドロじゃのぉ」
ヴィムが呆れ返っていると、カーラはヴィムに聞こえない声でひとりごちた。
「まぁ…もっと上もいるんだけどね…」
「ん?なんか言ったか?」
「いえいえ、で、いつぐらいにできそう?」
「そうじゃなぁ…これだと3ヶ月から半年ってとこかの」
「思ったより早いわね」
「まあ、素材次第じゃがの」
「そう、私、別の任務入っちゃったから出来上がった頃に使いを出すわ」
「そういうことはオリビアに言っといてくれ」
「はいはい、じゃ、よろしくね~」
カーラはオリビアに程よい頃に使いをよこす旨を伝えて工房を後にした。
常連のカーラである。
「ヴィムさーん、いますかぁ?」
「はーい。あ、カーラさん。おじーちゃんは奥にいますよ」
「オリビアちゃんいつもありがとうね。助かる~」
「いいえ、カーラさんの依頼はおじーちゃんにしかできませんからね」
カーラが持ってくる依頼は非常に難易度が高く、職人街でもヴィムにしかこなせなかった。なので、オリビアはまだ手伝うことができなかった。
「えー、じゃあ今度オリビアちゃん向けの依頼持ってこようかしら?」
「ほ、ほんとですか?」
オリビアはカーラの思いがけない返事に思わずぐいっと近付いた。
「ほんと、ほんと。オリビアちゃんが得意な調整をして欲しいものがあるんだ。オリビアちゃんならそんなに難しくないと思うよ」
難易度は高くなくても小さな頃からお世話になっているカーラの役に立てることは光栄なことだった。
「はい!お待ちしてます!」
オリビアは嬉しい気分で作業に戻った。
オリビアと入れ替えにヴィムが奥から出てきた。
「フン、また来たのか。で、今回はなんじゃ?」
「も~なんて言い方かしら。今回も前置きなしね。まぁ、いいわ。今回は今までで一番面倒くさいかも」
「はぁ…またか…。ほら、仕様書」
ヴィムはめんどくさそうな顔をし、手をひらひらと出して、カーラに仕様書を出すよう催促した。
カーラは苦笑しながら仕様書を出した。
カーラとヴィムは古い古い付き合いであった。
カーラがヴィムが初めてカーラの仕様書を見たヴィムは”貴方は何者ですか?”と聞いた。
カーラは今まで色々な職人に依頼を出してきたが、そんなことを聞かれたのは初めてだった。そこで、カーラは面白いと思って“その仕様書の物が作れたら、答えてあげる”と言ってみた。
すると、ヴィムは先代よりも精巧で緻密な物を作り上げた。すっかりヴィムが気に入ったカーラはざっくりと己の素性を話し、今後の仕事は君に任せるよと告げて帰っていった。
残されたヴィムは半信半疑だったが、複雑な仕様書と先程のカーラの姿を思い浮かべ、大きなため息とともにこの大きな秘密を飲み込んで仕事を引き受けることに決めた。
なぜなら、カーラの仕様書は職人ならだれしもが挑戦してみたくなる己の限界の先、でも、決して手の届かないものではないという絶妙なものだったからヴィムの中の職人の血が騒いだのである。
そのときの魔道具の出来が良かったからか、事情を知っているから楽に思ったのか、はたまた偏屈なヴィムを気に入ったからなのか、その時からカーラはヴィムに依頼をするときに愚痴や内情も話すようになっていた。
今回の仕様書を見たヴィムは眉をひそめた。
「今回もまた難解なものを…」
「今回はカミサマからじゃなくて私の先輩からの依頼なの」
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「むむむ…お前さんの先輩とやらは性格が悪くないか?」
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カーラが何かを思い出し、ブルッと震えた。
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「そういうことはオリビアに言っといてくれ」
「はいはい、じゃ、よろしくね~」
カーラはオリビアに程よい頃に使いをよこす旨を伝えて工房を後にした。
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