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5/親友からの依頼
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中央都市
とあるレストランの個室にて
男が一人到着した。
「待った?」
「いや、いま来たとこ」
「バレなかったか?」
「大丈夫。新聞記者はいなかったよ」
「ってちげぇし。男同士の密会をスクープして誰が喜ぶんだよ」
「ごめんごめん。誰にもバレてないよ」
「ならいい。パトリス、元気そうだな。お前の名前を聞かない日はないぞ?」
「いやいや、それほど…でもあるかな?なんちゃって。で、テオ、今日はどうしたの?」
先に待っていたテオと呼ばれた男に促されてパトリスと呼ばれた男が席についた。
2人はこの中央都市で10年前からの親友である。
同じ中等部に通った仲間で、今はパトリスは役者をしていて、テオは役所で役人をしている。
「あぁ、大したことじゃないんだが、ちょっと愚痴りたくてな」
「なになになに~?」
「なぁ、先に1杯飲もうぜ。あと腹減った」
「俺も」
「じゃぁ、俺が頼んで来るからちょっと待ってろな」
「ごめんね。頼むよ」
「お前が行った結果は目に見えているからな」
そう言ってテオは注文しに行った。
この店はカウンターで注文し、料理ができたら取りに行く、セルフ式のレストランで、個室が充実しているので会うときはよく利用していた。
料理とドリンクが一通り揃ったところで、
「乾杯」
「乾杯。で、どうしたんだよ?」
話を待ちきれなくてパトリスが聞いた。
テオがため息とともに重い口を開いた。
「俺、商業街出身って言っただろ?」
「うんうん」
「で、実家に妹がいるって言ったことあっただろ?」
「あったあった」
「それでさ、パトリス、最近商業街で会った修羅場騒動知ってるか?」
「あぁ、なかなかすごい話だったね。え?まさか…!?」
パトリスはハッとした顔でテオを見た。
テオはそれに気付き、手を振って否定した。
「違う違う。最後まで聞けって」
「じゃあなんだ?もったいぶるなよ、テオ」
「で、まぁ、その騒動だけど、実は妹も関係あるんだよ。騒動の中心にいる婚約破棄した貿易商の娘ってのが妹の幼馴染なんだよ」
「へぇ」
「男の方も含めて、妹と、彼女と、その相手で幼馴染」
「へぇ~!それは主要人物じゃないか。一度騒動の話を聞いてみたいな。で、それが?」
パトリスが演劇に役立てられないかチラっと考えた。
「それでな、うーん…妹がずっと王子様を夢見てるって話してあるだろ?今回の騒動でそれに拍車がかかってな…」
「うんうん」
「で、今回の騒動で2人にだいぶ当てられたらしくて、恋愛熱に火が付いたみたいで、”待っていて来ないなら自分から王子様探しに旅に出る!!”って言い出したんだ」
テオは頭を抱えて困り果てた。
パトリスは見たことない親友の妹の行動力に感嘆した。
「すごいな」
「行動力だけはピカイチだからな…それで、両親と兄と妹で家族会議をした結果、中央都市なら俺がいるから任せられるって。闇雲にどっかいかれるよりは両親も安心できるって。こないだ手紙が来てな。今度ここに来るんだよ」
「ほぉほぉ」
テオは顔を上げ、縋り付くような目をパトリスに向けた。
「そこで…だ、お前に頼みたいことがあるんだ」
「何?何?」
「王子様として妹と会ってくれ!」
「は?王子?って無理ないか?」
パトリスは予想外のお願いに飲んでいた飲み物を吹き出してしまった。
「いや、お前ならイケるだろう」
「いやいやいやいや…」
「俺の知り合いで王子様っぽいのってお前しかいないんだ」
「いやいやいやいや…」
「何も付き合えとかじゃなくて、王子様から夢から覚めるように。せめて旅に出るのはやめて商業街で待つように説得してほしいんだ」
「えー…」
「頼む!!お前だけが頼りなんだ!!」
「えー…」
「一生のお願いだ!」
「うぅん…まぁ、お前の頼みだし…仕方ない、今回だけだよ?うまくいくかもわからないし」
「ありがとう!恩に着る!!この借りは必ず返すから!!とりあえず今日は俺のおごりだ」
「やれやれ、仕方ないなぁ」
テオはパトリスが引き受けてくれたことに涙を流して喜んだ。
こうしてパトリスは友人の妹を説得する役目を負ったのである。
とあるレストランの個室にて
男が一人到着した。
「待った?」
「いや、いま来たとこ」
「バレなかったか?」
「大丈夫。新聞記者はいなかったよ」
「ってちげぇし。男同士の密会をスクープして誰が喜ぶんだよ」
「ごめんごめん。誰にもバレてないよ」
「ならいい。パトリス、元気そうだな。お前の名前を聞かない日はないぞ?」
「いやいや、それほど…でもあるかな?なんちゃって。で、テオ、今日はどうしたの?」
先に待っていたテオと呼ばれた男に促されてパトリスと呼ばれた男が席についた。
2人はこの中央都市で10年前からの親友である。
同じ中等部に通った仲間で、今はパトリスは役者をしていて、テオは役所で役人をしている。
「あぁ、大したことじゃないんだが、ちょっと愚痴りたくてな」
「なになになに~?」
「なぁ、先に1杯飲もうぜ。あと腹減った」
「俺も」
「じゃぁ、俺が頼んで来るからちょっと待ってろな」
「ごめんね。頼むよ」
「お前が行った結果は目に見えているからな」
そう言ってテオは注文しに行った。
この店はカウンターで注文し、料理ができたら取りに行く、セルフ式のレストランで、個室が充実しているので会うときはよく利用していた。
料理とドリンクが一通り揃ったところで、
「乾杯」
「乾杯。で、どうしたんだよ?」
話を待ちきれなくてパトリスが聞いた。
テオがため息とともに重い口を開いた。
「俺、商業街出身って言っただろ?」
「うんうん」
「で、実家に妹がいるって言ったことあっただろ?」
「あったあった」
「それでさ、パトリス、最近商業街で会った修羅場騒動知ってるか?」
「あぁ、なかなかすごい話だったね。え?まさか…!?」
パトリスはハッとした顔でテオを見た。
テオはそれに気付き、手を振って否定した。
「違う違う。最後まで聞けって」
「じゃあなんだ?もったいぶるなよ、テオ」
「で、まぁ、その騒動だけど、実は妹も関係あるんだよ。騒動の中心にいる婚約破棄した貿易商の娘ってのが妹の幼馴染なんだよ」
「へぇ」
「男の方も含めて、妹と、彼女と、その相手で幼馴染」
「へぇ~!それは主要人物じゃないか。一度騒動の話を聞いてみたいな。で、それが?」
パトリスが演劇に役立てられないかチラっと考えた。
「それでな、うーん…妹がずっと王子様を夢見てるって話してあるだろ?今回の騒動でそれに拍車がかかってな…」
「うんうん」
「で、今回の騒動で2人にだいぶ当てられたらしくて、恋愛熱に火が付いたみたいで、”待っていて来ないなら自分から王子様探しに旅に出る!!”って言い出したんだ」
テオは頭を抱えて困り果てた。
パトリスは見たことない親友の妹の行動力に感嘆した。
「すごいな」
「行動力だけはピカイチだからな…それで、両親と兄と妹で家族会議をした結果、中央都市なら俺がいるから任せられるって。闇雲にどっかいかれるよりは両親も安心できるって。こないだ手紙が来てな。今度ここに来るんだよ」
「ほぉほぉ」
テオは顔を上げ、縋り付くような目をパトリスに向けた。
「そこで…だ、お前に頼みたいことがあるんだ」
「何?何?」
「王子様として妹と会ってくれ!」
「は?王子?って無理ないか?」
パトリスは予想外のお願いに飲んでいた飲み物を吹き出してしまった。
「いや、お前ならイケるだろう」
「いやいやいやいや…」
「俺の知り合いで王子様っぽいのってお前しかいないんだ」
「いやいやいやいや…」
「何も付き合えとかじゃなくて、王子様から夢から覚めるように。せめて旅に出るのはやめて商業街で待つように説得してほしいんだ」
「えー…」
「頼む!!お前だけが頼りなんだ!!」
「えー…」
「一生のお願いだ!」
「うぅん…まぁ、お前の頼みだし…仕方ない、今回だけだよ?うまくいくかもわからないし」
「ありがとう!恩に着る!!この借りは必ず返すから!!とりあえず今日は俺のおごりだ」
「やれやれ、仕方ないなぁ」
テオはパトリスが引き受けてくれたことに涙を流して喜んだ。
こうしてパトリスは友人の妹を説得する役目を負ったのである。
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