幸福は君の為に

周乃 太葉

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1/舞台顔合わせ

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ここは中央都市。
この大陸における首都機能を持った都市だ。

ここでは
今話題沸騰中小説『太陽と月』の舞台製作が発表された。

公演までまだ日数あるのに、発表されれば、連日新聞、雑誌、ありとあらゆるメディアで取り上げられ、この広い大陸で知らないものはいないとまで言われた。
チケット発売日には争奪戦が起こり、発売日のうちにもうすでにチケットは入手困難になっていた。このプラチナチケットは今都市ではどんな貴金属よりも盗難の恐れありと言われ、どの機密よりも厳重に保管されているとの噂まである。

『太陽と月』

原作の著者はサン・シェリヴ
切ない片想いを描かせたら右に出るものがいないと言われている。どの作品も感涙必至!疲れた心に潤いを!などの宣伝文句が掲げられ名作となっている。特に最新作のこの『太陽と月』は読んだものが必ず涙する。必ず本がぐちゃぐちゃになるまで泣くと評されていた。

そして、主演がオトビス・アングラード
彼の舞台は毎回売り切れる人気俳優。
喜劇、悲劇、恋愛、サスペンス、ミステリー、何を演じても観客を魅了した。
コメディ喜劇では会場の外にまで大きな笑い声が響き、
悲しい恋の物語では会場にきていた観客すべてが泣いて、
サスペンスでは、観客を最後までハラハラドキドキさせ、
ミステリーでは観客の頭を捻らせた。

そして、特にハッピーエンドの恋を演じたときは都市の至るところで恋愛が始まり、結婚をし、出生率が上がったという伝説があるほどである。

さらに、今回のもうひとりの主演、ヒロイン役の女優はやはり人気絶頂のレベッカ・ルーマン
オトビスとは何度か共演しており、息がぴったりと評判のカメレオン女優である。
どんな役を演じてもその役にしか見えなくなり、観客は役と彼女を混合してみてしまうことは毎度のことであった。

だが、彼女自身はその神秘的な見た目に反し、とても気さくで他の共演者や他の共演者のファンにも人気があった。

原作と主演の2人が掛け合わされたことでこの『太陽と月』の舞台は開演前から熱狂的な騒動になっていた。

今日はその舞台の顔合わせである。

「やぁ、レベッカ。今回もよろしくね」

オトビスが慣れた感じでレベッカに声をかけた。

「こちらこそ。また共演できて嬉しいわ。しかもこの話で、なんて。役者冥利につきるわね」

「レベッカがそう言うと心強いな。また君の胸を借りるつもりで頑張るよ」

「ふふっ何言ってるの。私の方こそよろしくね」

「はは、よろしく」

その後もオトビスとレベッカは他の役者も交えて談笑し、舞台の顔合わせは和やかな雰囲気のまま終わった。


その様子を遠くからを睨んでいる姿があったが誰も気が付かなかった。

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