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テルマの私室は離れにあった。
テルマの作った家なのだからテルマの私室は本邸にあるものだと思っていたソフィは驚いた。
さらに中に入ったらあまりのシンプルさにソフィは呆気にとられた。
ソフィの知っている生活様式とは違うけど、ソファとテーブルと机と本棚しかなかった。
ソフィは促されソファーに座り、お茶をもらった。
"ここはシンプルだろう?ついつい昔の面影がある作りにしてしまったんだよ。ん?本邸?あそこは子ども達の家さ"
テルマが事もなげにそう言うと、
"ソフィ、子どもが23人、大人が2人だ。圧倒的に手が足りない…"
「23?キースもかい?」
"キースは17だろ?私のいた世界では子どもだ"
「テルマの世界…?」
テルマはソフィと話が噛み合っていないことに気が付いた。
"あっ、そっか、そっか、ソフィにまだ話してなかったね。
私は召喚されて異世界から来た異世界人だよ"
「グフッ…………ゴクッ。な、な、な!!」
重大事項をさらっと言うものだからソフィは口に含んだお茶を危うく吹きこぼすとこをグッと堪え、飲み込んだ。
"召喚したのはテオーリオとラジィト、キースもその場にいたから知っている"
「っぁ……………。うーん…、んんっ、ん~~、はぁ…。そうだね、それなら色々と腑に落ちることもある…」
ソフィは意外とすんなりとその事実を受け入れた。
見るたびに姿が違い、見たこともない住宅様式、生活形態。
まぁ、テルマは隠す様子もなかったが。こうして言葉にされるとストンとピースがハマったような気がした。
「で、テルマさんは異世界ではどんな人だったんだい?」
テルマはソフィの変わらぬ態度にふふっと笑みをこぼし、掻い摘んで今までの出来事を話した。
「…なるほどね。それは大変だったね」
"あぁ、人生ままならないことだらけだけど、まさか死後もままならないとは思わなかったよ"
テルマは力無く笑った。
"とにかく大人が足りない。あなたの仲間でこちらに来てくれそうな人いたりしないかな?"
「うーん…声掛けてみればいるだろうが」
"頼めるかい?あなたが信用できる人を好きなだけ。出来ればあちらに未練がない人が良いが…"
「未練?なんでだい?」
"そりゃ、こちらに骨を埋めてほしいからさ、この地を愛し、育んでくれたら大助かりさ。それに、あちらに渡る魔法陣は身体、魂に負荷がかかるしね"
「な……なるほど。私の知り合いは庶民しかいないけど、いいのかい?」
"そこは良いんじゃないか?私のいた国には身分制度はなかったからなぁ。よくわからん。皆が、代表が、話し合って決める制度が主流だったな。
ここにいる子ども達はほとんど飲まず食わず、生きるか死ぬかで育ってきただろう?
私のいた国は問題はあったけど、国民は健康で文化的な生活をする権利があり、国はそれを守る義務があったんだよ。基本的人権の尊重ってやつなんだけどさ、だから、なんだか衝撃的でね"
「ほぇ~。テルマの世界は考え方が全然違うんだねぇ」
"ははっ、そりゃそうさ、まっ、なんていったって世界が違うんだ。あちらには魔法も精霊もない。
…うん、そうだな。
そーだね、せっかくの新天地、何もかも全て新しく作ろうか。ソフィ、手伝ってくれるかい?"
「あぁ、よろしく。テルマ」
それから1か月後、ソフィはキースが回復してある程度ソフィの代わりにテルマを手伝えるよう仕込んでから元の国に転移し、約束通り信頼できる大人をテルマの想像を遥かに超えた人数を連れて帰ってきた。
"お、多いな…"
ソフィが戻ってテルマが発した一言目がそれだった。
「なんか、あの国メチャメチャになってて、何人かに声掛けたらこんなに集まっちまった。二度と戻れないって言ったんだけどねぇ。大丈夫かい?」
"はぁ~やれやれ。覚悟を持って来てくれた人を無碍に出来ないだろう。まずはみんな風呂で疲れを落としておいで"
テルマはその間に大急ぎで新たに来た人用の仮住まい用の別館を創り、設備を整えた。その最中ソフィが話しかけてきた。
「テルマ、すまないねぇ」
"いや、ソフィ有難う。ふふふっ。あんなに来るはな。賑やかになるな。彼らにも学びの場所が必要だし、今夜から忙しくなるな~"
「大人も学ぶのかい?」
ソフィが驚いた表現をしたので、テルマは
"当たり前だろう?人生ずっと学び続けだよ。
人は新しいことに貪欲な生き物なんだ。やり始めるのに遅いも何も関係ない、やる気の問題だよ"
「そんなもんかねぇ」
"私を見てみなよ、100過ぎて一回死んだのに新しい世界で新しいことに挑戦しているだろう?ソフィなんてまだまだ若いんだから諦める前に色々やってみるべきだ。やってから諦めればいい"
「テルマ、楽しそうだね」
"そうだね、私はこの世界に来てからずっと死ぬ事、死ねなかった事を考えてきたけど、なんか、踏ん切りついたし、やることやってから、眠りについても遅くはないかなと。この一時は前を向いても良いかなって。"
そう言ってテルマは精霊や魔法を駆使してせっせと住環境を整えていった。
"さてさて、どんなことが待っているのやら。まぁ、せっかくなら楽しまないとね"
テルマの作った家なのだからテルマの私室は本邸にあるものだと思っていたソフィは驚いた。
さらに中に入ったらあまりのシンプルさにソフィは呆気にとられた。
ソフィの知っている生活様式とは違うけど、ソファとテーブルと机と本棚しかなかった。
ソフィは促されソファーに座り、お茶をもらった。
"ここはシンプルだろう?ついつい昔の面影がある作りにしてしまったんだよ。ん?本邸?あそこは子ども達の家さ"
テルマが事もなげにそう言うと、
"ソフィ、子どもが23人、大人が2人だ。圧倒的に手が足りない…"
「23?キースもかい?」
"キースは17だろ?私のいた世界では子どもだ"
「テルマの世界…?」
テルマはソフィと話が噛み合っていないことに気が付いた。
"あっ、そっか、そっか、ソフィにまだ話してなかったね。
私は召喚されて異世界から来た異世界人だよ"
「グフッ…………ゴクッ。な、な、な!!」
重大事項をさらっと言うものだからソフィは口に含んだお茶を危うく吹きこぼすとこをグッと堪え、飲み込んだ。
"召喚したのはテオーリオとラジィト、キースもその場にいたから知っている"
「っぁ……………。うーん…、んんっ、ん~~、はぁ…。そうだね、それなら色々と腑に落ちることもある…」
ソフィは意外とすんなりとその事実を受け入れた。
見るたびに姿が違い、見たこともない住宅様式、生活形態。
まぁ、テルマは隠す様子もなかったが。こうして言葉にされるとストンとピースがハマったような気がした。
「で、テルマさんは異世界ではどんな人だったんだい?」
テルマはソフィの変わらぬ態度にふふっと笑みをこぼし、掻い摘んで今までの出来事を話した。
「…なるほどね。それは大変だったね」
"あぁ、人生ままならないことだらけだけど、まさか死後もままならないとは思わなかったよ"
テルマは力無く笑った。
"とにかく大人が足りない。あなたの仲間でこちらに来てくれそうな人いたりしないかな?"
「うーん…声掛けてみればいるだろうが」
"頼めるかい?あなたが信用できる人を好きなだけ。出来ればあちらに未練がない人が良いが…"
「未練?なんでだい?」
"そりゃ、こちらに骨を埋めてほしいからさ、この地を愛し、育んでくれたら大助かりさ。それに、あちらに渡る魔法陣は身体、魂に負荷がかかるしね"
「な……なるほど。私の知り合いは庶民しかいないけど、いいのかい?」
"そこは良いんじゃないか?私のいた国には身分制度はなかったからなぁ。よくわからん。皆が、代表が、話し合って決める制度が主流だったな。
ここにいる子ども達はほとんど飲まず食わず、生きるか死ぬかで育ってきただろう?
私のいた国は問題はあったけど、国民は健康で文化的な生活をする権利があり、国はそれを守る義務があったんだよ。基本的人権の尊重ってやつなんだけどさ、だから、なんだか衝撃的でね"
「ほぇ~。テルマの世界は考え方が全然違うんだねぇ」
"ははっ、そりゃそうさ、まっ、なんていったって世界が違うんだ。あちらには魔法も精霊もない。
…うん、そうだな。
そーだね、せっかくの新天地、何もかも全て新しく作ろうか。ソフィ、手伝ってくれるかい?"
「あぁ、よろしく。テルマ」
それから1か月後、ソフィはキースが回復してある程度ソフィの代わりにテルマを手伝えるよう仕込んでから元の国に転移し、約束通り信頼できる大人をテルマの想像を遥かに超えた人数を連れて帰ってきた。
"お、多いな…"
ソフィが戻ってテルマが発した一言目がそれだった。
「なんか、あの国メチャメチャになってて、何人かに声掛けたらこんなに集まっちまった。二度と戻れないって言ったんだけどねぇ。大丈夫かい?」
"はぁ~やれやれ。覚悟を持って来てくれた人を無碍に出来ないだろう。まずはみんな風呂で疲れを落としておいで"
テルマはその間に大急ぎで新たに来た人用の仮住まい用の別館を創り、設備を整えた。その最中ソフィが話しかけてきた。
「テルマ、すまないねぇ」
"いや、ソフィ有難う。ふふふっ。あんなに来るはな。賑やかになるな。彼らにも学びの場所が必要だし、今夜から忙しくなるな~"
「大人も学ぶのかい?」
ソフィが驚いた表現をしたので、テルマは
"当たり前だろう?人生ずっと学び続けだよ。
人は新しいことに貪欲な生き物なんだ。やり始めるのに遅いも何も関係ない、やる気の問題だよ"
「そんなもんかねぇ」
"私を見てみなよ、100過ぎて一回死んだのに新しい世界で新しいことに挑戦しているだろう?ソフィなんてまだまだ若いんだから諦める前に色々やってみるべきだ。やってから諦めればいい"
「テルマ、楽しそうだね」
"そうだね、私はこの世界に来てからずっと死ぬ事、死ねなかった事を考えてきたけど、なんか、踏ん切りついたし、やることやってから、眠りについても遅くはないかなと。この一時は前を向いても良いかなって。"
そう言ってテルマは精霊や魔法を駆使してせっせと住環境を整えていった。
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