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テルマはテルマの家に戻った。
元の世界でなく…
王様やあの国の人間にはああ言ったけど、なんだかんだでもう1年近くいる。
この場所に愛着が沸いてきているのも事実だった。
テオーリオやラジィトを始め、一緒に住む面々にも情が湧く。
それは人情溢れた下町で育ったテルマに染み付いた性分だった。
まっ、中途半端に見捨てることなんてできないもんねぇ
さて、と…
テルマは先に戻したキースと少年の元へ向かった。
彼らは先にソフィにお願いしていた通り、介抱され、ベッドに寝かせられていた。
「あっ、テルマさん!どうしたもんかね。全然目を覚まさないよ。それに…この子………」
テルマの姿をみつけたソフィが駆け寄ってきて、2人の状況を話してくれた。
テルマはソフィの肩に手を置き、
"ソフィ、ありがとう。もう大丈夫だよ"
ソフィとテオとラジはベッドから少し離れ、テルマの邪魔にならないようにした。
テルマがベッドのそばに近づくと
「テルマぁ~、止まらないのぉぉぉぉ」
「僕たちじゃどうにもでぎないのぉ」
精霊たちが泣きながら口々にテルマに言ってきた。
"やれやれ、仕方ないねぇ"
"リ プレーナス パゥゾン ハル ディーグラ ポテンツォ"
テルマは精霊たちの頭に手をかざすと、彼らを眠らせた。
"まったくまだ未熟だねぇ。アクヴォ、この子たちをもっと精錬させなさい"
アクヴォと呼ばれた青い蛇は姿を現し、やれやれと言って眠らされた幼い精霊たちを貰い受け、また姿を消した。
"よし、これでキースは直に回復するだろう。さて、こっちは…………"
テルマは改めてキースが抱えていた子どもが横たわっている側へ寄り、額に手を当てた。
"うーん………どうしたもんかなぁ"
読み取った子どもの状態はすこぶる悪かった。
子どもは産まれてすぐ毒を含み五感と四肢の感覚を喪失していた。ただ、己の膨大な魔力で鼓動し、生き延びていただけだった。
果たして彼は生きていると言えるのかな…?
テルマは相当悩み、そして、決断をした。
"よし、この子はいったんやり直そう、テムポ"
テルマの呼び出しに呼応して銀色のキツネが現れた。
"テムポ、この子ども…"
「わかっておる…だが、儂がやると、世界の歪みになるな…。お前さんならお前さんとの繋がりだけで済むがな」
テルマの首に巻き付きそう言った。
"やっぱり?わかった。私がやるしかないのか"
「対価はどうする?」
"対価はこの子が無為に過ごした時間"
「なるほどな…うん、それでいいじゃろ。お前の眷属になるがな」
"はぁ…致し方ない。レボベーニ インヴェルサ クレスコ"
テルマは観念したように子どもに向かって魔法を放った。
すると人形のように横たわっていた子どもがみるみると小さくなっていき、産まれたばかりの新生児まで姿が戻った。
「………ほきゃ………ほぎゃぁ……ほぎゃぁ」
か細かった泣き声が段々としっかりしてきた。
手足をバタつかせ、五感と四肢を取り戻したことが誰の目にもわかった。
テルマは指を鳴らして新しい布を出し、新生児になった子どもを抱き上げた。
"よしよし、お前にも名が必要だね。ルーマ・レグネラード、それがお前の名だよ。希望に満ち溢れたやり直し人生、謳歌するといい。今度こそ光と安寧の生を送れるように"
テルマの腕の中で赤子…ルーマは安心したかのように微笑み、スヤスヤと眠りについた。
テルマは背中スイッチに気をつけながらそっと赤子をベッドに寝かせた。
"ソフィ、困ったね。今後の相談をしようか。テオ、ラジ、ちょっと頼んだよ。困ったらそこの自動人形が助けるから"
側に控えていたソフィは声を掛けられ、テルマの困った顔に思わずぷっと笑いが漏れた。
「ふははっ、そうだね、困ったねぇ。また増えちゃったね」
テルマとソフィは並んでテルマの私室へ移動した。
元の世界でなく…
王様やあの国の人間にはああ言ったけど、なんだかんだでもう1年近くいる。
この場所に愛着が沸いてきているのも事実だった。
テオーリオやラジィトを始め、一緒に住む面々にも情が湧く。
それは人情溢れた下町で育ったテルマに染み付いた性分だった。
まっ、中途半端に見捨てることなんてできないもんねぇ
さて、と…
テルマは先に戻したキースと少年の元へ向かった。
彼らは先にソフィにお願いしていた通り、介抱され、ベッドに寝かせられていた。
「あっ、テルマさん!どうしたもんかね。全然目を覚まさないよ。それに…この子………」
テルマの姿をみつけたソフィが駆け寄ってきて、2人の状況を話してくれた。
テルマはソフィの肩に手を置き、
"ソフィ、ありがとう。もう大丈夫だよ"
ソフィとテオとラジはベッドから少し離れ、テルマの邪魔にならないようにした。
テルマがベッドのそばに近づくと
「テルマぁ~、止まらないのぉぉぉぉ」
「僕たちじゃどうにもでぎないのぉ」
精霊たちが泣きながら口々にテルマに言ってきた。
"やれやれ、仕方ないねぇ"
"リ プレーナス パゥゾン ハル ディーグラ ポテンツォ"
テルマは精霊たちの頭に手をかざすと、彼らを眠らせた。
"まったくまだ未熟だねぇ。アクヴォ、この子たちをもっと精錬させなさい"
アクヴォと呼ばれた青い蛇は姿を現し、やれやれと言って眠らされた幼い精霊たちを貰い受け、また姿を消した。
"よし、これでキースは直に回復するだろう。さて、こっちは…………"
テルマは改めてキースが抱えていた子どもが横たわっている側へ寄り、額に手を当てた。
"うーん………どうしたもんかなぁ"
読み取った子どもの状態はすこぶる悪かった。
子どもは産まれてすぐ毒を含み五感と四肢の感覚を喪失していた。ただ、己の膨大な魔力で鼓動し、生き延びていただけだった。
果たして彼は生きていると言えるのかな…?
テルマは相当悩み、そして、決断をした。
"よし、この子はいったんやり直そう、テムポ"
テルマの呼び出しに呼応して銀色のキツネが現れた。
"テムポ、この子ども…"
「わかっておる…だが、儂がやると、世界の歪みになるな…。お前さんならお前さんとの繋がりだけで済むがな」
テルマの首に巻き付きそう言った。
"やっぱり?わかった。私がやるしかないのか"
「対価はどうする?」
"対価はこの子が無為に過ごした時間"
「なるほどな…うん、それでいいじゃろ。お前の眷属になるがな」
"はぁ…致し方ない。レボベーニ インヴェルサ クレスコ"
テルマは観念したように子どもに向かって魔法を放った。
すると人形のように横たわっていた子どもがみるみると小さくなっていき、産まれたばかりの新生児まで姿が戻った。
「………ほきゃ………ほぎゃぁ……ほぎゃぁ」
か細かった泣き声が段々としっかりしてきた。
手足をバタつかせ、五感と四肢を取り戻したことが誰の目にもわかった。
テルマは指を鳴らして新しい布を出し、新生児になった子どもを抱き上げた。
"よしよし、お前にも名が必要だね。ルーマ・レグネラード、それがお前の名だよ。希望に満ち溢れたやり直し人生、謳歌するといい。今度こそ光と安寧の生を送れるように"
テルマの腕の中で赤子…ルーマは安心したかのように微笑み、スヤスヤと眠りについた。
テルマは背中スイッチに気をつけながらそっと赤子をベッドに寝かせた。
"ソフィ、困ったね。今後の相談をしようか。テオ、ラジ、ちょっと頼んだよ。困ったらそこの自動人形が助けるから"
側に控えていたソフィは声を掛けられ、テルマの困った顔に思わずぷっと笑いが漏れた。
「ふははっ、そうだね、困ったねぇ。また増えちゃったね」
テルマとソフィは並んでテルマの私室へ移動した。
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