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王様は永遠に続く空間の中で無限の地獄を味わうことになった。
テルマはやれやれとつまらなさそうな顔をして残った大神官や宰相、貴族達の方に振り向いた。
「あ…あ…」
彼らはされるがままの王様の成れの果てを傍観していた。
テルマは姿を変えた。
今度は妖艶な空気を纏い、蠱惑的な人型になった。
あちらの世界の悪魔とか堕天使とかをイメージした姿だ。
"さてと、お前たちには別のプレゼントだ"
そう言ってテルマは手を空に翳した。
"フォルフェム ラ モンド"
薄い膜が拡がり世界をピタッと覆った。
「な、何を…?!!」
「閉じたんだよ。この世界を。他の世界と繋ぐことが出来るのはほれ、この指輪だけだ」
光の輪がテルマの小指に纏わりつき、指輪の形となった。
腰を抜かしたままの大神官が声を震わせ、
「せ、世界を…閉じたですと…!?」
"そうだと言っている。もう召喚は出来ない。この国だけじゃない、この世界が…だ"
テルマが天を仰いで嗤った。
「な、な、な、なんてことを…」
ワナワナと身体を震わせ、テルマを詰った。
「なにも知らない異世界人め、お前はなんてことをしてくれだんだ!わかっているのか!?この世界が、異世界人を呼ぶ理由を!!」
テルマは喚く大神官を本当につまらなさそうに一瞥し、毛先をクルクルと弄りながら、
"知ってるよ、でも関係ないよな。私には"
「な、な、な、」
"…お前たちの世界だろう?
お前たち、この世界に生きる全てのモノが自ら解決すべきだ。
他の世界のモノを頼るな。
手段がそれしかないなんて言うのは甘えだ。
解決方法を編み出せ。考えて行動しろ"
「ぐっ……それができれば…」
"やってるって?甘えんな。
そもそも、私は怒ってるって言ってるだろう?
私はこの世界のために何かするとでも?
はぁ…、まっ、ただの私怨だよ。意味はない"
「そんなことで…」
"ははっ、知らないのか?
私怨と言うのは個の中で何よりも強く最も優先されるものだというのを。
私は喚ばれたくなかった。
だから私を喚んだ王様だけでなく、術、世界さえも恨む。
ははははっ。私怨とは果てしないね"
テルマは己の掌をみつめた。
大事な物をこぼれ落とした、そんな気がした。
「な…」
もはや大神官は言葉を失った。
反論する言葉も抗う気力も絶たれた。
"王様はあのザマ、道は閉ざした、術は…元々無理があったからわざわざ何もしなくても途絶えるか。関係する書物は燃やしちゃお、"
宰相が声を振り絞った。
「あ、あのガキ共は?実際に召喚したのはあいつらだ!私達じゃない」
テルマは宰相を見もせず、答えた。
"あぁ、あの子たち?彼等には彼等なりの代償は貰ったよ。お前に言われるまでもない"
「ははっ…。やはり、やはりそうだ、お前は禍だ。恩恵なんかじゃない!!お前は召喚者じゃない!!彼の国の記録に異世界からの召喚者でお前のようなものはいなかった!」
テルマはニッコリと微笑んだ。
"禍でも何でもかまわないよ。こちとら召喚してほしいなんて言ってない。
言いなりになるとでも思ったか。馬鹿か。
しかも、まさかまさかの他の国の真似事か。
この魔素も気も薄い脆弱な国で何で出来ると過信した。阿呆共が。
どれだけ辛辣な言葉を並べても気が晴れない。
初回で私………、初回が私………
なんでだよ…本当に…。
ままならない、あぁ、人生ままならないな………"
テルマは微笑み、怒り、呆れ、そして淋しげに、思いの丈を吐き出した。俯いていたが、ガバッ頭を上げ、
"さっ、スッキリしたし、帰ろかな ニイールヘイメン"
と消えていった。
残されたのは、
半壊した城に、宰相を始めとした貴族、神官、兵士達…
外では暴れまわる魔獣、逃げ惑う国民、
そして、国の中心で存在感を放つ王様のオブジェ………
この国のこの先など誰もが想像できなかった。
テルマはやれやれとつまらなさそうな顔をして残った大神官や宰相、貴族達の方に振り向いた。
「あ…あ…」
彼らはされるがままの王様の成れの果てを傍観していた。
テルマは姿を変えた。
今度は妖艶な空気を纏い、蠱惑的な人型になった。
あちらの世界の悪魔とか堕天使とかをイメージした姿だ。
"さてと、お前たちには別のプレゼントだ"
そう言ってテルマは手を空に翳した。
"フォルフェム ラ モンド"
薄い膜が拡がり世界をピタッと覆った。
「な、何を…?!!」
「閉じたんだよ。この世界を。他の世界と繋ぐことが出来るのはほれ、この指輪だけだ」
光の輪がテルマの小指に纏わりつき、指輪の形となった。
腰を抜かしたままの大神官が声を震わせ、
「せ、世界を…閉じたですと…!?」
"そうだと言っている。もう召喚は出来ない。この国だけじゃない、この世界が…だ"
テルマが天を仰いで嗤った。
「な、な、な、なんてことを…」
ワナワナと身体を震わせ、テルマを詰った。
「なにも知らない異世界人め、お前はなんてことをしてくれだんだ!わかっているのか!?この世界が、異世界人を呼ぶ理由を!!」
テルマは喚く大神官を本当につまらなさそうに一瞥し、毛先をクルクルと弄りながら、
"知ってるよ、でも関係ないよな。私には"
「な、な、な、」
"…お前たちの世界だろう?
お前たち、この世界に生きる全てのモノが自ら解決すべきだ。
他の世界のモノを頼るな。
手段がそれしかないなんて言うのは甘えだ。
解決方法を編み出せ。考えて行動しろ"
「ぐっ……それができれば…」
"やってるって?甘えんな。
そもそも、私は怒ってるって言ってるだろう?
私はこの世界のために何かするとでも?
はぁ…、まっ、ただの私怨だよ。意味はない"
「そんなことで…」
"ははっ、知らないのか?
私怨と言うのは個の中で何よりも強く最も優先されるものだというのを。
私は喚ばれたくなかった。
だから私を喚んだ王様だけでなく、術、世界さえも恨む。
ははははっ。私怨とは果てしないね"
テルマは己の掌をみつめた。
大事な物をこぼれ落とした、そんな気がした。
「な…」
もはや大神官は言葉を失った。
反論する言葉も抗う気力も絶たれた。
"王様はあのザマ、道は閉ざした、術は…元々無理があったからわざわざ何もしなくても途絶えるか。関係する書物は燃やしちゃお、"
宰相が声を振り絞った。
「あ、あのガキ共は?実際に召喚したのはあいつらだ!私達じゃない」
テルマは宰相を見もせず、答えた。
"あぁ、あの子たち?彼等には彼等なりの代償は貰ったよ。お前に言われるまでもない"
「ははっ…。やはり、やはりそうだ、お前は禍だ。恩恵なんかじゃない!!お前は召喚者じゃない!!彼の国の記録に異世界からの召喚者でお前のようなものはいなかった!」
テルマはニッコリと微笑んだ。
"禍でも何でもかまわないよ。こちとら召喚してほしいなんて言ってない。
言いなりになるとでも思ったか。馬鹿か。
しかも、まさかまさかの他の国の真似事か。
この魔素も気も薄い脆弱な国で何で出来ると過信した。阿呆共が。
どれだけ辛辣な言葉を並べても気が晴れない。
初回で私………、初回が私………
なんでだよ…本当に…。
ままならない、あぁ、人生ままならないな………"
テルマは微笑み、怒り、呆れ、そして淋しげに、思いの丈を吐き出した。俯いていたが、ガバッ頭を上げ、
"さっ、スッキリしたし、帰ろかな ニイールヘイメン"
と消えていった。
残されたのは、
半壊した城に、宰相を始めとした貴族、神官、兵士達…
外では暴れまわる魔獣、逃げ惑う国民、
そして、国の中心で存在感を放つ王様のオブジェ………
この国のこの先など誰もが想像できなかった。
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