死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

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鳥型の偵察機が世界を一周して戻ってきており、偵察ついでに様々な食料と種子と苗を集めていた。

"このコ、仕事出来るコ、エライエライ。そうだな…アグロ、お前の名にどうだい?"

ピィーーーッ

"気に入ったかな?アグロ、おいで"

アグロを呼び、腕に止まらせると頭を撫で、魔法で作った木の実を啄ませた。

"さて、アグロが集めた世界の様子をみたいけど、そろそろ起きてくるかな…?"

映像を見るのは後にすることにし、アグロの為の小屋を作り、アグロを休ませた。


プレハブの前に、食卓と椅子を作り出し、卓上に様々な食べ物を並べた。

"この中に2人が食べられるものがあれば良いんだけど…"

一度小屋に入り、2人の様子を見に行った。
よく寝ている様子にホッとし、2人の姿をまじまじと眺めた。

………しっかし…この子達、ボロボロだね。
昨日は気付かなかったが、服はボロ布、身体は傷だらけ、顔は酷い隈と痩け方、爪も肌もボロボロ、髪もパサパサ。全身垢まみれ。何より全体的に臭いもする…

残念だねぇ、目鼻立ちがはっきりしているから整えればきっとイケメンなんだろうに…

"あっ、そーいや、お風呂ってこっちの習慣にあるのかな?"

チラッと2人に目線をやったが、まだ2人が起きる様子はない。
テルマは、2人を起こすのをやめ、プレハブから出た。

おもむろにプレハブの隣に小屋を建てた。

中に脱衣所と洗い場と浴槽を作った。
そう、記憶にある温泉街の外湯をイメージした浴場だ。

浴槽に水を張り、温度を整えると気持ちよさそうな風呂が出来た。

"んー…ボディーソープやシャンプーはどうするか…石鹸…何が必要かな?"

そのまま湯に入っただけではあの汚れは落ちきらない。
ボディーソープ、シャンプーなど、元いた世界の常識で考えていたが、ハッと閃いた。

パチン

水が煌めいた。

入るだけでありとあらゆるものが洗浄される水になった。

"ふふっ簡単だね。魔法は便利だわ~"

『ボクも手伝う~』『私も!』

手伝うチャンスはないかとウズウズと様子を窺っていた精霊達が浴場にあるありとあらゆる物に付加価値をつけた。

"あっ、ちょ、ちょ、やり過ぎよぉ~"

『テルマ、ボクたち失敗?ダメ?』
『私たちジャマ?うぅ…』

テルマが精霊を止めると悄気げた様子でウルウルと目を潤ませテルマに詰め寄ってきた。

"い、いや、素敵だよ。うん。有難う。十分過ぎるほどだわ"

『ホント?ホント?』
『褒められた?褒められた?』

精霊は基本的に幼子のように構って、褒めてほしいのだ。拒絶には癇癪を、侮辱には反撃を、と、なかなか扱いが厄介である。

まぁ、今回はあまりのハリキリ具合にちょっと引いたけど、これも慣れなんだろう。そのうち制御出来るようになる…はず。

とりあえず浴場は完成した。

チラッとプレハブを見たけど、まだ2人は起きてこない。

"着替えも必要だね"

この世界の標準がわからないな。
なんせこちらに来てから見たのがギラギラした王様とヒラヒラした神官だもんなぁ。

まぁあちらの世界でのベーシックなスタイルならそうハズレでもないんじゃないかな。

"よしっ"

テルマは生前、幼い息子達に好んで着せていた、
丈夫な生地のロンTやストレッチズボンに近いものを数種類出した。下着、肌着、靴下、靴などの小物も一緒に。

出した衣類とタオル類を脱衣所に置き、準備は完了。

さてと、そろそろ起きるかな?
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