死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

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真っ直ぐに舗装された道が伸びており、
土地…はまだ空き地が殆どだが、整った区画に分割されていて、随分と整った街並みが広がっていた。

道路から少し離れた場所に屋敷とは違う立派な建物が
右と左に1つずつあった。

「あれは…?」

ソフィの独り言に、テオーリオが答えてくれた。

「あれは学校というらしいですよ。学びたい人が学ぶ場所だそうです。子供は"ギムキョウイク"が必要だとテルマさんが言ってましたけど、ちょっと意味は聞いてないのでわかりません。」

「へぇ~。なんで2つあるんだい?」

「何でも、魔法と気を繰る練習は別の所で学んだほうがいいらしいです。"精霊はワガママだからね"とテルマさんは言っていましたね」

「精霊?」

「はい、魔法が使えない者は精霊にお願いして気を繰る…魔法みたいなものが使えるそうですよ。僕やキースさんがそうです」

「へぇ~。魔力がなくても使えるってことかい?どんなことができるんだい?」

「そうですね。ん~…展望台に着いたらお見せします。口で説明するのは難しいんです。説明はテルマさんが上手なんでテルマさんにお願いしてしてください。」

テオーリオが困ったような顔をした。

「そうなのかい。楽しみにしておくとするよ」

ソフィは話を終わらせ、また窓の外に顔を向けた。
しばらく流れる街並みをぼんやりと眺めていた。

《ピンポンパンポーン。展望台入口に到着しました。お降りの際はお忘れ物・落し物なさいませんよう今一度お確かめください。
車内事故防止のため、バスが止まってから席をお立ちください》

バスが停まり、降りると、入口に看板がかかっていた。

オブセルヴェーヨ展望台 パルコ公園

入口から入ってすぐの所に看板が建っていて公園の全体図が書いてあり、公園の中心に展望台とあった。その展望台から5つに分かれており、それぞれ遊具、水場、広場、運動場、食堂と描かれていた。


文字が読めない子供たちは看板からすぐに背を向け、植え込みの花や虫達を目をキラキラさせていじっていた。

「うわぁ…すごーい」
「きれいだねぇ」

「テオ兄ちゃん、どっちに行けばいいの?」

アウルとホークが分かれ道で待ちきれないと言わんばかりにぴょんぴょん跳ねながら聞いてきたのでテオはくすりと笑い、

「まずは展望台に行きましょうか」

そう言って一行は歩き出した。

公園内の歩道は舗装され、とても歩きやすくなっていた。
まだ歩きの遅いウィローやシダー、それに歩けないクレイン以下はバスに搭載されていた大型の乳母車に乗せられていた。たくさんの荷物も乳母車の下段の荷物置きに載せ一緒に運んでいた。

ソフィはゆっくりと乳母車を押しながら木々の緑を楽しんだ。

展望台への途中にある遊具のエリアに差し掛かったとき、子ども達が遊具で遊びたいと騒ぎ出したので、先に少し遊ぶことにした。

遊具のエリアは木が多く、遊具も種類が多く、丸太が多く使われていた複雑な遊具がたくさん並んでいた。

「ね、ね、いっていい?」
「これ、どうやって…」

カナリーやダヴが遊具の前で躊躇っていると、怖いもの知らずなファルコンやセルティスがひょいひょいっと登ったり、渡ったりしてしまった。

「こらー!先行くなー」

慌ててフェザンドが追いかけた。

「ラジ兄ちゃん、あれであってる?」

別の遊具で遊んでいるホークを指さしてパキラが聞いてきた。

このエリアの遊具はテルマがテルマの世界にあった公園と、アスレチックを意識して作ったもので、大人のソフィも、年長者のテオやラジにとっても初めて見るものだった。

使い方がよくわからなかったので3人でう~ん…と首を傾げていると、カトレアがアスレチックの横に看板があることを教えてくれた。

看板は図解で描いてあり、ひと目見て使い方がわかるようになっていた。ラジは確認してパキラに

「ふんふん…あーなるほどね。うん、合ってるようだよ」
「良かったー」

そう言うと、パキラートもアスレチックに走り出していっ
た。その姿を見送ってラジはテオに話を振った。 

「テルマの世界、全然違うんだな…なぁ、聞いたか?テルマの世界には魔法とかないんだって」
「そう言っていましたね。テルマさん」

「どんな世界なんだろうな…」
「どんな世界なんでしょうね…」

「お兄ちゃん達なにしてんのー?」
「一緒にいこーよ」

いつの間にか戻ってきていたカイトとリリィにぐいぐい手を引かれ、テオもラジもアスレチックで一緒に体を動かした。

ちびっ子達が僕もやるー!、私もできるもん!と一番小さいアスレチックで奮闘するので、ソフィはそれに付きっ切りになっていた。

しばらく遊ぶと、一番最初に音を上げたのはソフィだった。

「はぁ~もうクタクタ。一旦休憩しよ!お腹も減ったし」

お昼も近くなり、休憩を提案するとセルティス達が一斉に反対の声を上げた。

「えーまだ遊びたい」
「もっともっとぉ~」

やれやれとカトレアとカナリーがソフィのそばに来て、加勢した。

「ふぅ、私も疲れたよ。あぁ~のど乾いた!午後もたくさん遊びたいならちゃんとお昼ご飯も食べなきゃダメね」

「そうね。テルマが言ってたわ。腹ペコで遊ぶ悪い子にはくすぐりの刑だって」

子供たちは顔を見合わせ、
「わかったー」「どこで食べるの?」「早く早く~」
と遊びモードから昼食モードに一瞬で切り替わった。

「ここで食べるのかね?」
ソフィが首を傾げると、テオが、

「いえ、あちらのエリアに食べる所がありそうです。そこなら手を洗えると思いますので、そちらに行きましょうか」

「「はーい」」

子供たちは元気よく走って食堂エリアに向かった。
ラジは負けじと競争し、カトレアとカナリーは手を引かれ、先に行った。

ソフィとテオが取り残された。
「ふふ、我々はのんびり行こうかね」
「はい、そうですね。荷物もありますし」

ソフィとテオは荷物を分け合い、歩いて食堂に向かった。
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