死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

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たどり着いた屋敷にソフィは度肝を抜かれた。
ソフィの国でも大きい貴族の邸宅や王宮、神殿とは全く違う造りだった。
木のほかに見たことがない石よりも頑丈そうな鉱石で作られ、窓が大きく取られており開放的だった。

中に入ると、天井は高く、広々としており、木の素朴で落ち着く雰囲気がありながらも高級感のある調度品がセンス良く飾られていた。

ソフィは一つ一つに目を取られてしまった。
ラジィトに声を掛けられたことになかなか気付けなかった。

「…さん、ソフィさん、おーい、ソフィさーん!あっやっと気付いた。ここがお風呂の入口だよ。ここのお風呂変わってるから中に入り方の説明書いてあるからそれ見てね。わからないことあったら補助の魔導人形がいるからそれに聞いて。僕は入れないから。はいっ」

ソフィがラジィトの説明を完全に理解する前にラジィトはお風呂グッズと書かれた袋をソフィに渡してさっさと行ってしまった。

ソフィはお風呂の入口に残された。
入口には花の湯と書かれた布が掛けられていた。
ドアを押しても引いても開かなくてソフィが一歩下がるとふとドアが左に動き、開いた。

「うわっ!!なんだいなんだい、どうなってるんだ…?」

恐る恐る中に入ってみると、そこには
中は仕切りで区切られた部屋がいくつも横並びになっていて、どの部屋も(空室)のマークが付いていた。

ソフィは個室の1つを選び、中に入った。
そこには人が立つスペースと3段の棚があり、
上段には白と茶色のサイズの違うタオルが置いてあった。
中断には着替えと書かれたカゴがあった。
下段には洗濯/廃棄と書かれたカゴがあった。

「この布はふわふわしてるね」

タオルに触れたソフィはふわふわ感に驚いた。
ふと見ると、棚の横には看板が掛けてあった。

『ここは共同浴場です。
まず、今着ている服を脱ぎ、下段のカゴに入れます。
中段のカゴに入っている入浴着を着て、
上段の白いタオルを持ち、大浴場→→→に行きます』

「あぁ、これか…なるほど…へぇ~…」

ソフィは案内の通りに着替え、大浴場へ向かった。
大浴場の入口にもまた看板が立っていた。

『大浴場では、こちらの魔導人形に手の平を当ててください。その後掛け湯をして下さい。その後は指示に従って入浴をお楽しみ下さい

こちらの温泉の効能は疲労回復、全身回復、健康増進、美肌効果などなど盛り沢山です』

ソフィは戸惑いながらも看板の通りに
魔導人形に手の平を当てた。

「ピピッ…起動完了。ソフィ様」

「しゃ、しゃべった」

「まずはこのお水を飲んでください。その後かけ湯をしてください。」

ソフィは魔導人形から水を渡されグイッと飲んだ。
そこからはそこそこ生きてきたソフィでも全く知らない、未知の体験だった。

薬湯で半身浴、モコモコの泡での洗髪洗身、
ジャグジー、炭酸泉、色々なタイプのお風呂を堪能し、
サウナに入り、泥パックをし、極めつけは魔導人形による極上のマッサージを受けた。

マッサージ中、魔導人形に『岩盤浴』なるものがまだあるらしいが、今日の疲労具合ではやめといたほうがいいと言われたので、次回かな…と夢心地の中思った。

お風呂上がり、用意されていた清潔で柔らかい着心地の服を着た。

「こちらへどうぞ」

魔導人形が椅子を引き、ソフィを促した。
とても座り心地の良い椅子だった。

ソフィが椅子に座わると、魔導人形が髪を乾かし、水も用意してれた。

水を飲んだソフィは、ほぅ…とひと心地付いた。

この世の楽園はここにあったのね……

ソフィは力を抜き、椅子の背もたれに身体を預けた。
そのまま少しの間うたた寝をしてしまった。
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