死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

文字の大きさ
上 下
32 / 56

32.

しおりを挟む
あれからニ週間が経った。

キースは答えを出したからすぐにでも戻るつもりだった。
だが、テルマがそれに待ったを掛けていた。

あの決意表明のあと、テルマが

"準備するからちょっと待って。キース、その間に連れてきた子らにちゃんと説明するんだよ"

と言ったので、キースは子供たちの所で過ごしていた。天気がいいからと玄関脇のちょっとしたスペースで遊んでいると、

「ねぇ、ねぇ、おじさん、僕たちこれからどうなるの?」

年長の男の子が代表してキースに聞いてきた。
子供たちはこの一週間で少しふっくらし、健康を取り戻してきているようだった。
だが、見慣れない土地で不慣れな高待遇に不安の色が隠せないでいた。

キースはそんな子供たちに笑顔を向け、
「大丈夫だ。ここにいる限り命の心配はいらない。あのテルマさんとテオとラジィがお前たちのことを守るって約束してくれたからな」

「おじさんは?」

は君たちみたいな子を助けに行ってくる」

キースは強調して言い直した。
俺はまだ20歳だ…

「もう戻ってこないの?」

その言葉に遊んでいた子供たちが近寄ってきてキースを取り囲んだ。みんな目に涙を溜めていた。

「あー…いや…」

戻っては………来れないだろうな…
方法がわからないし………

キースはそんな子供たちの様子に言葉に詰まってしまった。
すると、ちょうどおやつの時間を知らせにテオが入ってきた。

「キースさんはまた戻ってきますよ。安心して下さい。キースさんはテルマさんにお仕事を頼まれているんで戻らないわけにはいかないんですよ」

「へっ?仕事?」

キースは思わず気の抜けた声を出してしまった。

「はい、お仕事です。テルマさんから準備が整ったって伝言がありました。明日出発しますよ」

そう言ってテオはおやつはダイニングに置いてあるよと子どもたちに大きな声で伝え、部屋からか出く前に振り返った。

「あっ、そうそう、テルマさんが、キースさんに渡すものがあるそうなので東屋に来てくれって言ってましたよ」

と、そう言って下に降りていった。

キースは明日の出発にドクドクと鼓動が強くなった気がした。

「いよいよか…」

さっきまで涙を浮かべていた子供たちはいつの間にかいなくなっていた。

全員ダイニングに移動しておやつに群がっていた。

キースはその様子に安堵し、テルマの待っている東屋へと行くことにした。

東屋に行くと、テルマがラジィと話していた。
ラジィがキースの姿に気付いてと手招きをした。

「キース!」
ラジィの姿にキースはホッとして、無意識に体の力が抜けた。

「すみません、お待たせしましたか?」

"いや、全然。こちらこそ、時間がかかってすまなかったね"

テルマはニコッと微笑んだ。
そしてすぐ目線はキースから机の上に並べた物に移った。キースも釣られて机の上を見た。

そこに並べられていたのはブレスレットとマントと靴とカバンだった。

「これは…?」

ラジィがキラキラと目を輝かせ、
「キース、見て見て、テルマが作ったんだって!腕輪コレマントコレは僕の物と同じ様だけど、精霊の力で作動させるように作り変えたんだって。靴も。キース専用だって。いいなぁ」

キースはラジィの勢いに圧倒されつつも、机の上から目を離すことはなかった。

「お、おう…。ん?せ、精霊…?」

"まぁまぁ、詳しくは機会があれば話すとして、まぁ、貴方専用に動くようにしたと思ってくれればいいよ。ほら、ラジィ、キースに渡して"

「は、はぁ…」

キースは腑に落ちない顔で返事をしたが、ラジィから手渡されてブレスレットを装着してみるとしっくり収まったような感じがした。

俺専用…?

その言葉の意味がわかるような気がした。

他のも身に着け、動きを確認すると、やはりどれも同じ様な感覚を得た。

"どう?足りない物ある?"

「えっ…?いや、大丈夫です。返す宛もないですし。」

"おや?" 

「何いってんの?」

「えっ?」

キースの返答にテルマとラジィが不思議そうな顔をした。キースも2人の反応に頭に?が浮かんだ。

そこにクスクスと笑いながらテオがやって来て指摘した。

「テルマさん、キースさんに肝心な事話してないんじゃないですか?」

テオに言われて、テルマはピンときた。

"あ、あぁ~。そうかそうか、そいつはうっかりだ。
キース、ここを拠点にするといい。私が貴方をバックアップしよう。子供たちを保護してるし"

テルマは大仰に手を広げた。

ここを出たら独りでの厳しい戦いになるだろうと覚悟いたキースは予想打にしていなかったテルマの申し出に急には反応出来なかった。

「えっ…?」

"テオにもラジィにも頼まれたからね。まぁ、私としても子供が犠牲になるのは嫌だしね。ここなら安全は守れる。まぁ…問題がないわけではないが…"

「いや、だが…、しかし…」

キースがモゴモゴしているのでテルマが低い声で

"キース、大義を見誤るな。常に成功する可能性が高くなる方を選ぶが良い"

「わ、わかった…」

"よし、あとはラジィト、テオーリオ任せたよ"

テルマは満足気に頷くと風に包まれその場から消え去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...