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あれからニ週間が経った。
キースは答えを出したからすぐにでも戻るつもりだった。
だが、テルマがそれに待ったを掛けていた。
あの決意表明のあと、テルマが
"準備するからちょっと待って。キース、その間に連れてきた子らにちゃんと説明するんだよ"
と言ったので、キースは子供たちの所で過ごしていた。天気がいいからと玄関脇のちょっとしたスペースで遊んでいると、
「ねぇ、ねぇ、おじさん、僕たちこれからどうなるの?」
年長の男の子が代表してキースに聞いてきた。
子供たちはこの一週間で少しふっくらし、健康を取り戻してきているようだった。
だが、見慣れない土地で不慣れな高待遇に不安の色が隠せないでいた。
キースはそんな子供たちに笑顔を向け、
「大丈夫だ。ここにいる限り命の心配はいらない。あのテルマさんとテオとラジィがお前たちのことを守るって約束してくれたからな」
「おじさんは?」
「お兄さんは君たちみたいな子を助けに行ってくる」
キースは強調して言い直した。
俺はまだ20歳だ…
「もう戻ってこないの?」
その言葉に遊んでいた子供たちが近寄ってきてキースを取り囲んだ。みんな目に涙を溜めていた。
「あー…いや…」
戻っては………来れないだろうな…
方法がわからないし………
キースはそんな子供たちの様子に言葉に詰まってしまった。
すると、ちょうどおやつの時間を知らせにテオが入ってきた。
「キースさんはまた戻ってきますよ。安心して下さい。キースさんはテルマさんにお仕事を頼まれているんで戻らないわけにはいかないんですよ」
「へっ?仕事?」
キースは思わず気の抜けた声を出してしまった。
「はい、お仕事です。テルマさんから準備が整ったって伝言がありました。明日出発しますよ」
そう言ってテオはおやつはダイニングに置いてあるよと子どもたちに大きな声で伝え、部屋からか出く前に振り返った。
「あっ、そうそう、テルマさんが、キースさんに渡すものがあるそうなので東屋に来てくれって言ってましたよ」
と、そう言って下に降りていった。
キースは明日の出発にドクドクと鼓動が強くなった気がした。
「いよいよか…」
さっきまで涙を浮かべていた子供たちはいつの間にかいなくなっていた。
全員ダイニングに移動しておやつに群がっていた。
キースはその様子に安堵し、テルマの待っている東屋へと行くことにした。
東屋に行くと、テルマがラジィと話していた。
ラジィがキースの姿に気付いてと手招きをした。
「キース!」
ラジィの姿にキースはホッとして、無意識に体の力が抜けた。
「すみません、お待たせしましたか?」
"いや、全然。こちらこそ、時間がかかってすまなかったね"
テルマはニコッと微笑んだ。
そしてすぐ目線はキースから机の上に並べた物に移った。キースも釣られて机の上を見た。
そこに並べられていたのはブレスレットとマントと靴とカバンだった。
「これは…?」
ラジィがキラキラと目を輝かせ、
「キース、見て見て、テルマが作ったんだって!腕輪とマントは僕の物と同じ様だけど、精霊の力で作動させるように作り変えたんだって。靴も。キース専用だって。いいなぁ」
キースはラジィの勢いに圧倒されつつも、机の上から目を離すことはなかった。
「お、おう…。ん?せ、精霊…?」
"まぁまぁ、詳しくは機会があれば話すとして、まぁ、貴方専用に動くようにしたと思ってくれればいいよ。ほら、ラジィ、キースに渡して"
「は、はぁ…」
キースは腑に落ちない顔で返事をしたが、ラジィから手渡されてブレスレットを装着してみるとしっくり収まったような感じがした。
俺専用…?
その言葉の意味がわかるような気がした。
他のも身に着け、動きを確認すると、やはりどれも同じ様な感覚を得た。
"どう?足りない物ある?"
「えっ…?いや、大丈夫です。返す宛もないですし。」
"おや?"
「何いってんの?」
「えっ?」
キースの返答にテルマとラジィが不思議そうな顔をした。キースも2人の反応に頭に?が浮かんだ。
そこにクスクスと笑いながらテオがやって来て指摘した。
「テルマさん、キースさんに肝心な事話してないんじゃないですか?」
テオに言われて、テルマはピンときた。
"あ、あぁ~。そうかそうか、そいつはうっかりだ。
キース、ここを拠点にするといい。私が貴方をバックアップしよう。子供たちを保護してるし"
テルマは大仰に手を広げた。
ここを出たら独りでの厳しい戦いになるだろうと覚悟いたキースは予想打にしていなかったテルマの申し出に急には反応出来なかった。
「えっ…?」
"テオにもラジィにも頼まれたからね。まぁ、私としても子供が犠牲になるのは嫌だしね。ここなら安全は守れる。まぁ…問題がないわけではないが…"
「いや、だが…、しかし…」
キースがモゴモゴしているのでテルマが低い声で
"キース、大義を見誤るな。常に成功する可能性が高くなる方を選ぶが良い"
「わ、わかった…」
"よし、あとはラジィト、テオーリオ任せたよ"
テルマは満足気に頷くと風に包まれその場から消え去った。
キースは答えを出したからすぐにでも戻るつもりだった。
だが、テルマがそれに待ったを掛けていた。
あの決意表明のあと、テルマが
"準備するからちょっと待って。キース、その間に連れてきた子らにちゃんと説明するんだよ"
と言ったので、キースは子供たちの所で過ごしていた。天気がいいからと玄関脇のちょっとしたスペースで遊んでいると、
「ねぇ、ねぇ、おじさん、僕たちこれからどうなるの?」
年長の男の子が代表してキースに聞いてきた。
子供たちはこの一週間で少しふっくらし、健康を取り戻してきているようだった。
だが、見慣れない土地で不慣れな高待遇に不安の色が隠せないでいた。
キースはそんな子供たちに笑顔を向け、
「大丈夫だ。ここにいる限り命の心配はいらない。あのテルマさんとテオとラジィがお前たちのことを守るって約束してくれたからな」
「おじさんは?」
「お兄さんは君たちみたいな子を助けに行ってくる」
キースは強調して言い直した。
俺はまだ20歳だ…
「もう戻ってこないの?」
その言葉に遊んでいた子供たちが近寄ってきてキースを取り囲んだ。みんな目に涙を溜めていた。
「あー…いや…」
戻っては………来れないだろうな…
方法がわからないし………
キースはそんな子供たちの様子に言葉に詰まってしまった。
すると、ちょうどおやつの時間を知らせにテオが入ってきた。
「キースさんはまた戻ってきますよ。安心して下さい。キースさんはテルマさんにお仕事を頼まれているんで戻らないわけにはいかないんですよ」
「へっ?仕事?」
キースは思わず気の抜けた声を出してしまった。
「はい、お仕事です。テルマさんから準備が整ったって伝言がありました。明日出発しますよ」
そう言ってテオはおやつはダイニングに置いてあるよと子どもたちに大きな声で伝え、部屋からか出く前に振り返った。
「あっ、そうそう、テルマさんが、キースさんに渡すものがあるそうなので東屋に来てくれって言ってましたよ」
と、そう言って下に降りていった。
キースは明日の出発にドクドクと鼓動が強くなった気がした。
「いよいよか…」
さっきまで涙を浮かべていた子供たちはいつの間にかいなくなっていた。
全員ダイニングに移動しておやつに群がっていた。
キースはその様子に安堵し、テルマの待っている東屋へと行くことにした。
東屋に行くと、テルマがラジィと話していた。
ラジィがキースの姿に気付いてと手招きをした。
「キース!」
ラジィの姿にキースはホッとして、無意識に体の力が抜けた。
「すみません、お待たせしましたか?」
"いや、全然。こちらこそ、時間がかかってすまなかったね"
テルマはニコッと微笑んだ。
そしてすぐ目線はキースから机の上に並べた物に移った。キースも釣られて机の上を見た。
そこに並べられていたのはブレスレットとマントと靴とカバンだった。
「これは…?」
ラジィがキラキラと目を輝かせ、
「キース、見て見て、テルマが作ったんだって!腕輪とマントは僕の物と同じ様だけど、精霊の力で作動させるように作り変えたんだって。靴も。キース専用だって。いいなぁ」
キースはラジィの勢いに圧倒されつつも、机の上から目を離すことはなかった。
「お、おう…。ん?せ、精霊…?」
"まぁまぁ、詳しくは機会があれば話すとして、まぁ、貴方専用に動くようにしたと思ってくれればいいよ。ほら、ラジィ、キースに渡して"
「は、はぁ…」
キースは腑に落ちない顔で返事をしたが、ラジィから手渡されてブレスレットを装着してみるとしっくり収まったような感じがした。
俺専用…?
その言葉の意味がわかるような気がした。
他のも身に着け、動きを確認すると、やはりどれも同じ様な感覚を得た。
"どう?足りない物ある?"
「えっ…?いや、大丈夫です。返す宛もないですし。」
"おや?"
「何いってんの?」
「えっ?」
キースの返答にテルマとラジィが不思議そうな顔をした。キースも2人の反応に頭に?が浮かんだ。
そこにクスクスと笑いながらテオがやって来て指摘した。
「テルマさん、キースさんに肝心な事話してないんじゃないですか?」
テオに言われて、テルマはピンときた。
"あ、あぁ~。そうかそうか、そいつはうっかりだ。
キース、ここを拠点にするといい。私が貴方をバックアップしよう。子供たちを保護してるし"
テルマは大仰に手を広げた。
ここを出たら独りでの厳しい戦いになるだろうと覚悟いたキースは予想打にしていなかったテルマの申し出に急には反応出来なかった。
「えっ…?」
"テオにもラジィにも頼まれたからね。まぁ、私としても子供が犠牲になるのは嫌だしね。ここなら安全は守れる。まぁ…問題がないわけではないが…"
「いや、だが…、しかし…」
キースがモゴモゴしているのでテルマが低い声で
"キース、大義を見誤るな。常に成功する可能性が高くなる方を選ぶが良い"
「わ、わかった…」
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