死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

文字の大きさ
上 下
31 / 56

31.

しおりを挟む
一方、食堂に残されたテオとラジィは食事を続けた。

「ラジィ、街はどうだった?変わってた?」

 ラジィはパンを頬張りながら

「ん~そんな変化なかったかなぁ?商店街とかは」

 あぁ!とラジィは席を立ちマジックバックを取りに行った。
 中から大量の本を取り出した。

「テオにお土産。お前、本を読みたいって言ってただろ?」

「うわぁ~大量だね。ありがとう」

ラジィは席に戻るとへへへっと得意気に笑った。

「どの種類の本を読むのかわからなかったから手当たり次第買ったぜ。本屋の爺がめっちゃ薦めてきたやつだから趣味が違ったり、役に立たない本もあるかも」

「ううん、全然、楽しみ!ラジィも読む?」

テオは目を輝かせラジィにお礼を言った。

「いや、僕はいいかなぁ~」
「僕が読んでラジィに合ってそうなの渡すね」
「う、うん…」

テオの笑顔の圧にラジィは逆らえなかった。

そんな2人の様子をじっと見つめている目があった。
キースだ。
いつの間にか食事を終えていたキースは2人を観察していた。

「なぁ、本当にお前達、あの時の子供か?」

テオが微笑みを浮かべ、

「そうですよ。キースさん、あの時はありがとうございました」

「い、いや、礼を言われることは何も…。お前たちの名前も知らなかったし…」

キースは気まずそうに頭を掻き目を逸らし、ボソボソと呟いた。

「いや、俺こそ今回助けてもらって…。あん時は上から言われたから世話しただけだし…」

「いえ、あの時の僕らに名前はありませんでしたから。改めまして、僕はテオーリオ・グヴィドです」

「僕はラジィト・グヴィド。あの時テオの元に行けたのはキースのお陰だから。僕は今回その借りを返しただけだよ。キース、どうしてレジスタンスにいるの?僕達のせい?」

キースが机をバンと叩き、腰を上げ前のめりにラジィの言葉を強く否定した。

「違う!違う!君達のじゃない!君達のだ。
俺はあの時、目が覚めたんだ。いや、前から解っていたんだ…。
神殿が何のために、誰のためにあるかなんて…。でも決断できなかった…でも、あの召喚とき、君らが犠牲になって…漸く決心がついただけだ」

ふぅと息を吐き、キースは腰を下ろした。

「せめて、同じ様な犠牲者が出ないようにって…神殿のリストに乗っていた孤児を匿ったり、開放したりするしか出来なかったがな…」

キースが苦しそうに胸の内を吐き出すと、テオが真剣な顔をして質問してきた。

「キースさん、聞いてもいいですか?何故神殿はまた孤児を?」

キースは深呼吸してテオとラジィの目を見て頷いた。

「神殿はまた召喚をする気だ。正確には王命だが。

前回、喚んだモノ、テルマさんだっけ?彼女に王は満足しなかった。不満しかなかった。お前たちも知ってるよな?だから、彼女は放逐された。そして、お前たちが召還した実績だけが神殿に残った」

「うん」

「お前たちを追放した後な、王の希望を叶えるを召喚するには何が足りなかったって話になったんだ。

無限の器と甚大な魔力量があったのに。
真実は召喚者しか解らないんだから意味ないのによ。
高位の神官達や貴族たちがあーだこーだって話し合いって碌な結論を出せなかったな。

『2つで1つが良くなかった』とか、『甚大なとはいえ1人分の魔力だったのがいけなかった』とか。

いるわけないって、お前達はみたいなのは。
奇跡的に見付かった器と魔力だったんだよ。


 そうしたら高位神官あいつらが出した結論がな。

『塵も積もれば山となる』

意味解るか?

人を寄せ集め、集約の魔法で多人数の魔力を1人に集約して補うんだとよ。

集約の魔法は根こそぎ魔力を持っていくから、掛けられた方は死ぬってわかってるのに。

そこで目を付けられたのが孤児。
スラム街に孤児なんて山ほど居るからな。
その中でならお前たちほどでなくても魔力を持つ孤児もまぁ見付かるだろうって。
奴らが言うには、後腐れもないし、治安も良くなって一石二鳥だそうだ。

これを聞いた時、吐き気がしたね。
もう神殿ここは俺が長くいた神殿じゃない。

無理だと思ったら早かったな~。即効リストを盗んで逃げて。
リストに載った子供たちを匿ったりしてな。


キースは苦々しい顔をしてこれまでの経緯を話した。

「なんてことを…」
「ウソだろ…」

 テオもラジィも絶句した。

 キースははぁぁと深く深く息を吐き、

「テルマさん、聞いてるんだろ?さっきは答えられなかったけど、俺は戻る。うん、やっぱり、ほっとけない。リストに載っている孤児はまだいるんだ」

キースはスッキリした顔を上げ、大きな声でテルマに答えを告げた。うんうんと自分の中で何か納得したようだった。

 "大きな声出さなくても聞こえるよ。答えが出たんだね"

テルマは階段から降りてきた。その顔は僅かに口角が上がっていた。

キースの出した答えはテルマの満足するものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...