死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

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階段を降りていくとドアがあった。
人の気配はなかった。

そっとドアを開けると、
また人一人がやっと通れるぐらい細い通路になっていて、その突き当りに小さな部屋があった。

ドアは閉まっている…

「さて、どうやって…」

とその時、通路に男が1人入ってきて、ドアを開けた。

ラジィは気配を消して男をすり抜けて部屋に入った。

さっきの男がキースに話し掛けた。

「キース、どうするんだ?上はダメだ。まだこの部屋への通路は見つかっていないが…」
「こっちの隠し通路を使って外に出る」

キースは小部屋の足下にある小さな隠し戸を開けた。
そこには人一人が通れそうな穴があり、壁に梯子が設置されていた。

「これを降りれば地下通路に繋がっている。順番に降りるぞ。俺が降りたら子供達を降ろしてくれ。」

キース足元には8人の年端の行かない子供たちが不安そうに固まっていた。

「だが、通路の先の外には奴等が…」
「ここに居ても捕まるだけだろ。通路は迷路だから奴らに見つかる前に出られる可能性は0じゃない」

2人の大人の言い争う声に不安が溢れ出した子供が数人泣き出した。

「ふぇっ…」
「うっ…うっ…」

キースは言い争いを止め、泣いてしまった子をあやすことを優先した。

「あぁ、大丈夫、大丈夫だからな?なっ?だから泣くなって、よしよし」

「おい、そんなことしてる時間はないぞ、俺が先に行く!」

もう一人の男が焦りを隠すことなく梯子を降りていった。

「あぁ、よし、みんな、大丈夫だからな?行こう」

キースは子供達を順番に降ろした。
年長者には歩けない子を抱っこさせて降ろし、キースは最後に泣いている子供を抱きかかえ、梯子を降り、隠し扉もしっかり閉めた。
ラジィも子供達の列に紛れ、地下通路に入った。

地下通路に入り、少しするとさっきいた部屋に兵士たちが踏み込む音が響き渡った。

ドカドカと地下まで響く音にひぃっと怯える子供達をを宥め、キース達は先に進んだ。
地下通路には所々柵が設置されており、キースは毎回柵の扉に鍵を掛け、そう簡単追いつけないようにしていた。

暫く慎重に進んだところで、先を行っていた男が走って何かに追い掛けられるように戻って来た。

「駄目だー!こっちに来るなー」

男の背後には兵士たちが追いかけて来ていた。
その直後、ガシャンと金属音とグハッと言う声が通路に響き渡った。

その姿は見えなかったが、神官と兵士達に見付かったのは明白だった。

「クソッ…」


さらに、後方のキース達が来た方からも怒声と足音が近づいてきていた。

ガシャーンと扉を破壊する音が響き渡った。

「くっ…ここまで来て…」
子供達はキースにしがみつき、
キースは子供たちを抱きかかえる手に力が入った。

「死んじゃうの…?」
「こわいよぉ…」

絶体絶命の危機にラジィは決断し、行動を起こした。

コントゥリーヂ姿を現す
まずライは姿を現した。

キースと子供たちは急に現れたラジィに心臓が止まりそうなほどビックリし、気を失った子もいた。

「キース、飛ぶぞ」
「えっ?えっ?」

パニック状態のキースと子供たちを魔力で作った糸でまとめ、バングルを触り言葉を唱えた。

レヴェーナス帰還

キースと子供達、そしてラジィの姿が光に包まれ、消えた。

追ってきた神官と兵士達、待ち伏せしていた神官と兵士達、途中途中にある扉を破壊しながら進み、ついに獲物を追い詰めた。

と思っていたが………

双方が出会った時、間には誰も、何もいなかった。

「クソッ、デマか!この男、死に際に…クソッしてやられた!」

上級神官がレジスタンスの男の死体を踏みつけ、蹴りつけ、苛立ちを顕にした。
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