死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

文字の大きさ
上 下
27 / 56

27.

しおりを挟む
商店街で肉や服、雑貨など、生活に必要な物を順調に買い進め、マジックバックにかなり詰め込んだ。


「もう十分買ったな。まだまだ入りそうだな~
何処まで入るんだろう?」

…と、いうか、全然だな。
テルマはいったいどれだけの容量にしたんだよ…。


「あっ、そうだ、テオが本を読みたいって言ってたな。なんて本だっけか?」

ラジィは通りにある本屋に立ち寄った。
ジャンルも作者もバラバラ、手当たり次第持ちきれないほど購入したから本屋の店主にジロッと怪しまれてしまった。
「ははっ…これぐらいあればあいつも喜ぶだろう…」なんて呟きながら本屋から出て、本をマジックバッグの中に仕舞いこんだ。

と、その時、バタバタバタと数人が走って来てラジィにぶつかった。
ラジィはバランスを崩し、尻もちをついてしまった。

「いてっ」
「あっ、坊主、悪ぃ」

ぶつかってきた人物が速度を走りながら振り返って軽く謝ってきた。その両脇には子供が抱え込まれていた。

ん…?見たことが……

ラジィが手をヒラヒラさせ大丈夫と仕草をしている間にその人物は走り去っていった。

その後から神官と兵士の集団が彼らを追いかけて来た。

「クソッどこ行った。すばしっこい奴め」
「おい、お前、奴らはどっちに行った?」

神官の1人が座っている僕に話しかけてきた。

「僕?ぶつかられて転けたから見てないよ」

「チッ」

役立たずと言わんばかりの顔をして、隣の神官とひそひそと話し、あっちに行くぞと兵士達に指示をして走り去っていった。

「何だあれ?」

「あぁ、あれはレジスタントだな。神殿に反抗的な奴らだよ」

後ろから声がしてビクッとした。
本屋の主人が僕の呟きに反応してくれた。

「何に対しての抵抗?」

「神殿じゃよ」

「神殿が最近孤児を集めているのをな良く思ってない奴らがあぁして隠しまわってる」

「孤児?孤児集めて神殿は何するんだ?」

本屋の主人は首を振り、
「それはわからんが、まぁ良いことではなかろう」

「神殿なのに?」

本屋の主人は横目でチラッと僕を見て
「神殿だからじゃよ。さぁ、本は買っただろ?行った行った。何時までもそこに座られていると商売上がったりじゃ」

僕を追い払って店の中に入っていってしまった。
さっきの話を反芻しながら何処へともなく歩き出し
1つの考えに辿り着いた。

「神殿…孤児………。まさか…また…?」

僕はさっきのレジスタントが走り去った方向を向き、早歩きで歩いた。

それと、同時に思い出した。
さっき見たあの顔、あの声。
聞いたことある気がするわけだ。キースだ。
昔、あの神殿生活で唯一話しかけてきた神官だ。

あの時、突然の別れになってしまったっきり

「生きて…たんだな…」

僕は昔の感を頼りに路地裏を進んで行った。
なかなかキースも子供も見つからなかったが、路地裏も深く入った所の一軒の家の前でようやく見つけ、とっさに物陰に隠れた。

「連れてきた。開けてくれ」

子供を抱えたキースがドアに向かいひそひそと話しかけた。

ドアが薄く開き、彼らを滑り込ませ、ドアを閉めたあとは覗き窓から辺りを窺っていた。

なんとかしてキースと連絡を取りたいと思ったが…

「今は無理そうだな…。
一度帰ってテルマとテオに相談してみるか…」

そう思い、踵を返し家に帰ろうとした。
その時、さっきの神官と兵士の集団が現れた。

「ここです!」

キース達は見付かっていたようだった。
隠れ家がバレてしまったのだ。

兵士たちがさっきの一軒家を取り囲み、有無も言わさずドアをドンドンと蹴破り、中に押し入った。

どうする…!?今からじゃ…

ラジィは息を潜め、テルマから借りていたマントを羽織り、姿を消した。


ネヴィデブラ姿を隠せ


兵士たちの間を掻い潜り、蹴破られたドアから一軒家の中に入っていった。

中では押し入った兵士たちが、どこだ!どこ行った?と一階を荒らしている。
家具も机も、食器やら小物やらもバタバタ倒している。

と、二階からドンっと音がし、兵士たちが一斉に上を見上げた。

「上か!?」
神官と兵士たちは一斉に階段を登って行った。


部屋の入り口付近で様子を窺っていたラジィは呆れたように呟いた。

「いや、どー考えても囮だろう。この場合、下だな…」

神官や兵士たちの単純さに呆れながら、ラジィは下への階段を探した。

階段はありきたりだけど、とても巧妙に戸棚で隠されていた。

ラジィは周りに誰の目もないことを確認して戸棚を動かし、階段の中に入っていった。

戸棚は裏側に細工がしてあり、入った瞬間に音もなくまた階段を塞いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...