死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

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「よく寝たか?ほれ、朝飯だ。顔洗ってコレ食ったらそっちの服に着替えておけよ」

キースが朝からテキパキ指示を出し、僕たちはのそのそと従った。

「あの……キース…さん?…あの、僕たちはこれから…」

あいつがキースに話しかけた。
キースはチラッと僕たちの顔を見て

「あー…んー…悪いな。それは俺からは言えないんだわ。支度が終わったら偉い奴が来るからそん時に聞いて」

ぶっきらぼうに答え、さっさと部屋から出ていってしまった。

「いっちゃった…」
「…顔洗うか…」

僕たちは仕方ないからキースに言われた通り顔を洗い、朝食を食べ、着替えた。
その間この先の不安から僕たちはお互いに一言も発することはなかった。

着替えが終わって椅子に腰掛けていたら、階下から複数の気配が登ってくる気配がした。

ガチャ

「フンッ、まぁ昨日よりはマシになったな。あー…魔力の強い方は…」

人相の悪い神官が入ってくるなり僕らの顔を見比べた。

「こっちですよ。」

厭味ったらしい顔した神官が僕を指差した。

「こっちか」

人相の悪い神官が僕の腕を掴み、強引に引っ張って肩に担いで、部屋から出ようとした。

「お前はこっちだ」

「ま、まって!連れて行かないで!!」

その時、あいつが神官にしがみついた。

「チッ」

神官があいつを蹴散らそうとした時、厭味ったらしい顔した神官が制止した。

「こちらに傷をつけては駄目です。お前はこちらに来てもらいます」

そう言ってあいつを僕とは反対方向に連れて行った。

僕はそこから塔の地下に連れて行かれた。

生命の危機に魔力が増幅するとか言って死ぬギリギリのラインまで様々な方法で痛めつけられた。

他にもそこでは色々な事をさせられた。
思い出したくもない…………

あいつはあいつで器になる為と言ってやっぱり色々やられたらしい。

詳しくは教えてくれなかったけど………
似たようなモンだろう………

そこから気が付けば3年程経っていた。
あいつとは一度も会うことはなかった。

この3年で僕は魔力量ならここにいる神官が束になっても足元にも及ばないぐらいになっていた。毎日死にかけたおかげとも言えなくはないが。

ただ、魔法は教えてもらえなかったから使い方はわからなかった。使えないのに何で増やすんだと尋ねた事もあったが、鼻で笑われて終わった。

ある日、朝早くに起こされ、身綺麗にしろと言われ、身体を洗い、差し出された新しい服に着替えた。

無愛想な神官に地下の部屋から出され、そのまま塔の外に連れ出された。

3年ぶりに外気に触れた。
頬に当たる風がまだ冷たかった。

冬の終わりの頃だった。

そして、そのまま豪華な建物の豪華な部屋に通された。
そこにあいつがいた。
僕は荒みきっていたが、あいつは目に生気を感じなかった。3年ぶりの再会なのに、片割れと目が合うことはなかった。

久しぶりに会ったあいつは雰囲気が変わっていた。
前よりも一層透き通った感じになっていた。存在感が感じられないというか…いなくなってしまいそうな…

「お、おい…」

「静かにしろ、誰が話していいとといった?口を閉じろ、御前だぞ」

あいつが死んだような目をしているのが心に引っ掛かったから話しかけようとしたら無愛想な神官に叱責された。

御前…?
神官が従うのは……

神殿の長、大神官だけだ。

よく見ると豪華な部屋の最奥に豪華な寝台があり、多数の神官がそれを囲っていた。

僕とあいつは部屋の中央まで引っ張られ、それぞれの足元にある魔法陣の上に座らされた。

ベッドに横たわっている大神官が脇にいる神官に何やら話しかけると神官が合図を出し、ベッドの周りにいた神官たちが僕たちの周りを取り囲んだ。

20人近くの神官が一斉に錫杖を鳴らし詠唱を始めた。

魔法陣が光り、僕はゴッソリと何かが体から持っていかれる様な感覚がした。

ヤバい…
あいつに向かって手を伸ばした。届かないとわかっていても。
そして、意識を失った…


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