死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

文字の大きさ
上 下
24 / 56

24

しおりを挟む
「よく寝たか?ほれ、朝飯だ。顔洗ってコレ食ったらそっちの服に着替えておけよ」

キースが朝からテキパキ指示を出し、僕たちはのそのそと従った。

「あの……キース…さん?…あの、僕たちはこれから…」

あいつがキースに話しかけた。
キースはチラッと僕たちの顔を見て

「あー…んー…悪いな。それは俺からは言えないんだわ。支度が終わったら偉い奴が来るからそん時に聞いて」

ぶっきらぼうに答え、さっさと部屋から出ていってしまった。

「いっちゃった…」
「…顔洗うか…」

僕たちは仕方ないからキースに言われた通り顔を洗い、朝食を食べ、着替えた。
その間この先の不安から僕たちはお互いに一言も発することはなかった。

着替えが終わって椅子に腰掛けていたら、階下から複数の気配が登ってくる気配がした。

ガチャ

「フンッ、まぁ昨日よりはマシになったな。あー…魔力の強い方は…」

人相の悪い神官が入ってくるなり僕らの顔を見比べた。

「こっちですよ。」

厭味ったらしい顔した神官が僕を指差した。

「こっちか」

人相の悪い神官が僕の腕を掴み、強引に引っ張って肩に担いで、部屋から出ようとした。

「お前はこっちだ」

「ま、まって!連れて行かないで!!」

その時、あいつが神官にしがみついた。

「チッ」

神官があいつを蹴散らそうとした時、厭味ったらしい顔した神官が制止した。

「こちらに傷をつけては駄目です。お前はこちらに来てもらいます」

そう言ってあいつを僕とは反対方向に連れて行った。

僕はそこから塔の地下に連れて行かれた。

生命の危機に魔力が増幅するとか言って死ぬギリギリのラインまで様々な方法で痛めつけられた。

他にもそこでは色々な事をさせられた。
思い出したくもない…………

あいつはあいつで器になる為と言ってやっぱり色々やられたらしい。

詳しくは教えてくれなかったけど………
似たようなモンだろう………

そこから気が付けば3年程経っていた。
あいつとは一度も会うことはなかった。

この3年で僕は魔力量ならここにいる神官が束になっても足元にも及ばないぐらいになっていた。毎日死にかけたおかげとも言えなくはないが。

ただ、魔法は教えてもらえなかったから使い方はわからなかった。使えないのに何で増やすんだと尋ねた事もあったが、鼻で笑われて終わった。

ある日、朝早くに起こされ、身綺麗にしろと言われ、身体を洗い、差し出された新しい服に着替えた。

無愛想な神官に地下の部屋から出され、そのまま塔の外に連れ出された。

3年ぶりに外気に触れた。
頬に当たる風がまだ冷たかった。

冬の終わりの頃だった。

そして、そのまま豪華な建物の豪華な部屋に通された。
そこにあいつがいた。
僕は荒みきっていたが、あいつは目に生気を感じなかった。3年ぶりの再会なのに、片割れと目が合うことはなかった。

久しぶりに会ったあいつは雰囲気が変わっていた。
前よりも一層透き通った感じになっていた。存在感が感じられないというか…いなくなってしまいそうな…

「お、おい…」

「静かにしろ、誰が話していいとといった?口を閉じろ、御前だぞ」

あいつが死んだような目をしているのが心に引っ掛かったから話しかけようとしたら無愛想な神官に叱責された。

御前…?
神官が従うのは……

神殿の長、大神官だけだ。

よく見ると豪華な部屋の最奥に豪華な寝台があり、多数の神官がそれを囲っていた。

僕とあいつは部屋の中央まで引っ張られ、それぞれの足元にある魔法陣の上に座らされた。

ベッドに横たわっている大神官が脇にいる神官に何やら話しかけると神官が合図を出し、ベッドの周りにいた神官たちが僕たちの周りを取り囲んだ。

20人近くの神官が一斉に錫杖を鳴らし詠唱を始めた。

魔法陣が光り、僕はゴッソリと何かが体から持っていかれる様な感覚がした。

ヤバい…
あいつに向かって手を伸ばした。届かないとわかっていても。
そして、意識を失った…


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...