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ここに来て半年が過ぎた頃

テオとラジィは最初の面影が全くないほど健康を取り戻していた。
痩け、骨川筋右衛門だったのが懐かしく思うほど、肌艶は良くなり、全体的に肉は付き、程よく筋肉質で健康と言ってもいいぐらいになった。

ラジィがテルマの元へやってきた。

「テルマ、あのさ、最近なんか物足りないんだ。力が足りない気がする。もっと肉々しいもの食べたいーって日がある」

"肉?"

「ほら、ここは野菜は充実しているから野菜の料理はテルマが良く出してくれるけど…」

"あー確かに"

今は年齢不詳なテルマだが、生前は108歳。
肉が食べたいなんて欲求は遠い遠い過去のことだったからすっかり存在を忘れていた。

この半年で邸宅の柵の外に作った畑は大農園となって3人で食べるには多すぎるぐらいの多種多様な野菜が収穫できるようになっていた。

肉ねぇ。
全く摂取していないわけではないが、アグロが定期的に持ってきてくれる肉は小さく、健康を取り戻した二人には確かに物足りないものとなってきていた。

肉のなる木とか…?
ん~………想像出来ん。

大豆ミート?それは今そんな感じだな…

アグロはこれ以上重たいものは運べない。

と、なると手っ取り早い方法は…

"買ってくるか…。テオ、ラジィ、お使い頼める?ちょっと街まで飛んでお肉買って来れる?"

「街?」

"そっ、君たちが元々いたあの国。一度行ったことがあるから繋げられると思うんだよね"

「えっ?」

テルマは外に出て、広いスペースに立ち、円を描き、魔法を言葉で紡いだ

"クン チェナード 彼の国の彼の場所と"

すると円は淡い光を放った。

"はい、完成。この円に入ればあの国の神殿?ほら、私が喚ばれた場所、あそこに行けるハズ"

テオとラジィは光の輪を見つめた。
その目には不安の色が浮かび上がっていた。

「帰りはどうするの?」

"あっ、そうね"

オーカはテオとラジィの手首に手をかざし、

"アテスタージョ 我が愛し子の証"

2人の手首にシンプルなバングルが付けられた。
裏には文様が刻まれ、中心にはダイヤか埋め込まれ、トリガーを発すれば即座に魔法が行使されるものだった。
さらに姿を不可視化する魔法と過保護なほど多種多様な防御魔法も練り込んでいた。

"このバングルに向かって《レヴェーナス》と言ったら帰れるよ"

「レヴェーナス…レヴェーナス…」
「どういう意味?」

"ん?帰るって意味だよ。うっかり発動しないように私のいた世界の言葉にしたけどね"

テオ達には私が魔法を使うときどうやらあちらの世界の言葉に聞こえるらしい。何故だかわからないけど。ラジィが魔法を使うとき、テオが精霊に力を借りるときはこちらの言葉なのだから、きっと異世界者特有のモノなのだろうということにした。考えてもわからん。

バングルのほかに、かつてどこかの冒険譚にあった空間と時間の制約を取っ払って保存がきくようにしたリュックタイプのマジックバックを作った。簡単に説明して、これで肉たっぷり買えるよといってラジィの背に掛けた。

"手持ちのお金がないからあっち着いたらまずはマジックバックの中の物を売るといいよ。アグロが拾ってきたもの入れといたから軍資金にして"

「わかった!任せて!」

ラジィは自信満々に胸をドンと叩いた。
二人で行かせるつもりだったけど、ラジィがテオは買い物したことないから役に立たないって言い切るし、テオも同意するので、ラジィ1人でお使いに行くことになった。

もし帰ってこれなくなったとき、彼らの特殊能力スキルで繋がることが出来るっていう保険、何が何でもここに帰って来れる可能性を残すという彼らなりの方法だった。

テルマも気付いてはいたが、色々と不安なんだろう。
ホントはテルマにはこの二人の位置が常にわかっているが、敢えて話してはいない。

「神殿に行ったら捕まらないかな?」

テオは心配そうな顔をしてラジィを見つめた。

「テオは心配性だな~。大丈夫、テルマがくれたコレで姿を消せるらしいし、魔法も使えるようになった。安心して肉を待ってていいよ」

ラジィはニコニコして、じゃぁ行ってくるね!と光の中に消えていった。

テオは光が消えても心配そうに円を眺めていた。

"まぁ、なんとかなるでしょ。ほら、テオ、ラジィが帰ってくるまでに野菜収穫しとこ。食事の支度がすぐ出来るようにしとかないとね~"

テルマはテオを畑に促した。

「本当に大丈夫かなぁ………」
セオは名残惜しそうに光が消えた円を振り返った。
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