死んだ私の死ねない世界でのままならない生活

周乃 太葉

文字の大きさ
上 下
8 / 56

8.

しおりを挟む
空飛ぶ箱の中はパニック状況だった。

どうなってる?外が見えない!
クソッ飛んだってことは…落ちる!

あかーーーーん!!ヤバい!

私は咄嗟に姿を動きやすい人型に変えた。
人型にしたのは次々と魔法を繰り出すには慣れた姿の方がやりやすいと無意識に判断したからだった。

外を…
いや、ダメだ、この状況で箱を開けたら散り散りになる。

落下速度を弱めないと…

空飛ぶ、落ちる…

パラシュート!

いや、気球!!

よし、方向性を決めた。
そうとなれば、まず少年たち

互いにしっかりしがみつき合っている少年たちに向かって

"空気、纏え エアクッションみたいな感じ!二人を離さず、衝撃吸収もする!"

少年たちの周りに分厚い空気の層が出来たことを確認し、ダボダボの大神官服が目に入って剥ぎ取った。

"これ頂戴ね!"

!!!
少年たちは頷くしかなかった。

服は何重にも重なっていた。

"十二単かい。まぁ都合がいい"

広げて、袋状になるように変形させ、破れないように強化までして一旦床に纏めておいた。

よし、これでいい。次は…

箱の天井に向かって

"解体!!木糸となれ"

天井部の板がどんどん外れ、糸の様に解れていく

"木糸、れ!れ!"

解れた糸が捻り合わさっていく

"早く!もっと早く!!もっと太く!丈夫に!"

ものすごい勢いで板が解され、撚られ、どんどん太く丈夫なロープになっていた。

"箱を包み込め、端を布と結べ"

命じたどおりにロープが動き、大まかな想定通りの形となった。

バッ!とパラシュート部分に空気が入りった。

グンッ!

落下速度が緩やかになった。

慣性の法則で少年たちが箱にぶつかる寸前のところで
少年たちに纏わせたエアクッションが衝撃を和らげた。

これでよし。

"留め具の鉄を筒として、バーナーになるかな?"
"種火、火よ絶えるな"

"あー、もう、この箱を再構築だ。耐久性上げて軽量化。防御膜、座り心地がいい椅子も"

アレコレ変形を繰り返した結果、

ふわり…ふわり…
高度が落ち着き、落下の心配がなくなった。

ふぅ~、これでやっと外の様子が見えるようになったわ。

ひと仕事やり終えて満足感を得た私はぐるりと外の様子を見渡してみた。

この世界に喚ばれから初めて見る外の景色だった。



箱はほぼ垂直に近い角度で放り投げられたから最初の馬車が転がり始めた場所よりも高い高度をになっていた。その為、遠くまで見渡すことができた。

遠くにうっすらと見えるお城
あそこにギッシュ王がいるのね。

城までにいくつかの街や町や村が点在している。
街と町村の間には道はあるが建物はない。
基本的に塀や柵などで囲われたところでしか家はなさそうだ。

街中の小高い丘にある神殿
あそこで私が喚ばれたのか…

眼下に広がる森。
木々が密集していて管理されている様子はない。

森が二段に分かれている。
崖上部が城などと陸続きで繋がっている部分
案外広くない。
だが、緩やかな斜面なのに、段々と勾配がキツくなっていた。
通常なら真っ逆さまに落ちてグシャッとなっていたんだろう。たまたま迫り上がったところに行ったから高く投げ出されたんだろう。

そして、崖下部
こちらは広大な森が広がって、森の際から水が流れ落ちる。

滝だ。

一体全体この世界は面白い形をしているね。
生息出来る土地は少そうだ。

戻っても厄介事しかなさそうな土地を振り返るのは終わりにし、
気球を操って滝の先に何があるか見に行ってみることにした。

"風を弱く 緩やかに後押しをする感じで"

"ふぁ~いい風だ"

しばらく景色を眺めていた。
眼下には底が見えない世界の亀裂と言ってもよさそうなクレバスが広がっていた。

チラッと見るだけで下腹がキュッとなった。

"うわ~怖っ"

私は身を屈め、ふと視界の隅に存在を感じた。籠の中の存在をすっかり忘れていたことに気が付いた。

あらやだっ……忘れてた。

"おーい、少年たち、大丈夫?"

茫然自失状態の彼らはまだ魂が口から出ているかのように呆けていた。

「…………」

"あら、放心してる。おーい?戻っておいで~"

少年たちの眼の前で手を振ったり頬をペチペチと軽く叩いたりした。

「はっ!」「へっ?」

呆けていた少年たちは意識を取り戻した。
周囲をキョロキョロと見渡し、

「「えっ?えっ?あっ?えっ?」」

状況が読み込めない少年たちはしゃがみ込み、より一層お互いにしがみつきながら恐る恐る立ち上がった。

「こ、ここは…?」
「貴方が…?」

"ん~アレコレやった結果今空飛んでる"

「…」

衝撃すぎて言葉にならないようだった。
少年たちが落ち着くまで時間を要したが、その間も気球は緩やかに進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

処理中です...